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第8章 狼は実は大型犬だったようですわ
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しばらく無言の時間が過ぎていく。
「……とりあえず、誰が売ったかは、置いておこう。それよりも、この召喚状に応えるかどうか。応えた場合、メイリンは、再び、王宮の籠の鳥になっちまうかもしれないねぇ」
母は召喚状に目を向けてから、もう一度、へリウスへと視線を向けた。
「へリウス、あんた、いつまでウジウジしてるつもりだい」
「ファ、ファリア!」
顔を引きつらせるへリウス。まさか母からへリウスを煽るとは思いもしなかった。
「メイリンの心を射止められないんだったら、さっさと国に帰るなり、冒険者として出ていくなりしな。あんたがいつまでもここにいたんじゃ、メイリンの新しい婚約話もできやしないじゃないか」
「なっ!?」
「なんですって!?」
私とへリウスは同時に叫ぶ。
「お母様!? そんな話があるんですの!?」
予想外の話に、身を乗り出してしまう。
「ダメだ、ダメだ! メイリンは誰にも渡さんっ!」
「きゃっ!?」
まさかの背後からの拘束とか!?
急に抱きしめられて、自分らしからぬ、かわいらしい声をあげてしまった。恥ずかしくて、体が熱くなる。
「だったら、さっさと何とかしろっていうんだよ。おらっ!」
ポイっと軽く投げたのは……掌サイズの真鍮製の獅子のペーパーウェイト!?
「ぬおっ!? あ、あぶねぇだろうがっ!」
ガシッと右手で受け取るへリウスだったが、痛くないんだろうか。何せ、あの母が投げたのだ。チラリと見上げるが、彼は彼で、ムッとした顔で母のほうを見ている。
……うん、痛くはないのだろう。
私は、抱えられているへリウスの腕を軽く、ポンポンと叩いたが、へリウスは余計に力をこめてきた。うーん、これって、お気に入りの玩具を取られたくないって感じなのかしら。
仕方がないから、思い切りつねったら、嫌そうな顔をしながら、やっと放してくれた。
「お母様……お母様は、私がへリウスと結ばれたほうがいいと言われますの?」
あの物言いは、そうとしか受け取れない。困惑しながら問いかけると、母はニヤリと何やら悪そうな笑みを浮かべる。
「元々、王家との政略結婚の予定だったメイリンだ。ここで、ウルトガ王室と関係のあるへリウスと婚姻を結んでも悪くはないんじゃないか?」
「お、お母様!?」
「アッハッハッハッ、まぁ、それは冗談だがな。あの女としては、トーレス王家の血筋を残したいんだろうが……アレが、一度逃げ出したメイリンをどう扱うか、わかったもんじゃない」
そこまで酷い扱いをされていた記憶はないが、第三者視点で見れば、実際には違っていたのかもしれない。
「いまだに、王家からは正式な婚約の発表はなされていないしな。あくまで、婚約者候補のままだ。何せ、主役が婚約パーティをすっぽかしたからな」
「……謝りませんわよ」
「フフフ、構わないさ。どうせ、うちは元々王家には睨まれている家だ。それに、メイリンが王都に連れていかれた時とは、違うしな」
当時の記憶があやふやなのだが、その頃のゴードン辺境伯領は、隣国のナディス王国との小競り合いが続いていて、疲弊していたそうだ。そこに王家からの援助というのもわずかながらにあったらしい。そのどさくさに紛れて、私を婚約者候補として王都に連れていかれたのだそうな。
その話を聞いて、改めてトーレス王家の意地の悪さが薄っすら見えた気がした。
「……とりあえず、誰が売ったかは、置いておこう。それよりも、この召喚状に応えるかどうか。応えた場合、メイリンは、再び、王宮の籠の鳥になっちまうかもしれないねぇ」
母は召喚状に目を向けてから、もう一度、へリウスへと視線を向けた。
「へリウス、あんた、いつまでウジウジしてるつもりだい」
「ファ、ファリア!」
顔を引きつらせるへリウス。まさか母からへリウスを煽るとは思いもしなかった。
「メイリンの心を射止められないんだったら、さっさと国に帰るなり、冒険者として出ていくなりしな。あんたがいつまでもここにいたんじゃ、メイリンの新しい婚約話もできやしないじゃないか」
「なっ!?」
「なんですって!?」
私とへリウスは同時に叫ぶ。
「お母様!? そんな話があるんですの!?」
予想外の話に、身を乗り出してしまう。
「ダメだ、ダメだ! メイリンは誰にも渡さんっ!」
「きゃっ!?」
まさかの背後からの拘束とか!?
急に抱きしめられて、自分らしからぬ、かわいらしい声をあげてしまった。恥ずかしくて、体が熱くなる。
「だったら、さっさと何とかしろっていうんだよ。おらっ!」
ポイっと軽く投げたのは……掌サイズの真鍮製の獅子のペーパーウェイト!?
「ぬおっ!? あ、あぶねぇだろうがっ!」
ガシッと右手で受け取るへリウスだったが、痛くないんだろうか。何せ、あの母が投げたのだ。チラリと見上げるが、彼は彼で、ムッとした顔で母のほうを見ている。
……うん、痛くはないのだろう。
私は、抱えられているへリウスの腕を軽く、ポンポンと叩いたが、へリウスは余計に力をこめてきた。うーん、これって、お気に入りの玩具を取られたくないって感じなのかしら。
仕方がないから、思い切りつねったら、嫌そうな顔をしながら、やっと放してくれた。
「お母様……お母様は、私がへリウスと結ばれたほうがいいと言われますの?」
あの物言いは、そうとしか受け取れない。困惑しながら問いかけると、母はニヤリと何やら悪そうな笑みを浮かべる。
「元々、王家との政略結婚の予定だったメイリンだ。ここで、ウルトガ王室と関係のあるへリウスと婚姻を結んでも悪くはないんじゃないか?」
「お、お母様!?」
「アッハッハッハッ、まぁ、それは冗談だがな。あの女としては、トーレス王家の血筋を残したいんだろうが……アレが、一度逃げ出したメイリンをどう扱うか、わかったもんじゃない」
そこまで酷い扱いをされていた記憶はないが、第三者視点で見れば、実際には違っていたのかもしれない。
「いまだに、王家からは正式な婚約の発表はなされていないしな。あくまで、婚約者候補のままだ。何せ、主役が婚約パーティをすっぽかしたからな」
「……謝りませんわよ」
「フフフ、構わないさ。どうせ、うちは元々王家には睨まれている家だ。それに、メイリンが王都に連れていかれた時とは、違うしな」
当時の記憶があやふやなのだが、その頃のゴードン辺境伯領は、隣国のナディス王国との小競り合いが続いていて、疲弊していたそうだ。そこに王家からの援助というのもわずかながらにあったらしい。そのどさくさに紛れて、私を婚約者候補として王都に連れていかれたのだそうな。
その話を聞いて、改めてトーレス王家の意地の悪さが薄っすら見えた気がした。
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