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第8章 狼は実は大型犬だったようですわ

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 そんな私をよそに、ミーシャは苦い顔になる。

「うーむ。ファリアの娘……だからかなぁ」
「え? それってどういう意味……?」
「言葉通りだよ。辺境伯の娘であるファリアは、女だてらに私兵団を取りまとめて、自分自身も戦場に出るような女傑でしょ。武術だけじゃなく、魔法にも秀でているし。もし、そのファリアの娘を身内にいれるなら、その能力を伸ばす方に向けるか、もしくは、まったく使えなくするか」
「……なんで使えなくするのよ」

 ミーシャの言葉に、不安な気持ちが膨れてくる。そして、自分に向けられていた王妃の笑顔が目に浮かぶ。思い浮かぶのは、目だけ笑っていない作り笑顔。

「本当は、わかってるんじゃないの?」

 彼女の言葉に、ゴクリと喉を鳴らす。
 王太子の婚約者候補から、正式に婚約者になると変わることがある。
 それは、王都の屋敷ではなく、王宮内で生活することになることだ。そして、周囲の者も、辺境伯領から連れて行けるのは、一人か二人。味方といえる者がほとんどいない状況で、王宮で暮らすことになるのだ。
 当時の前世の記憶を思い出す前の私は、けして人付き合いが上手い方ではなかった。だからこそ、あの従姉と行動を共にし、頼ってすらいたのだ。
 自分でも予想はしていた。あの王宮に入ってしまえば、完全な籠の鳥になってしまうことに。
 伝達の魔法陣が使えなければ、私の持てるまともな連絡手段は、手紙しかなく、その手紙ですら、味方のいない状況で無事に実家に届くかすら怪しい。
 万が一、自分が窮地に陥っても、誰も助けには来てくれなかっただろう。

「……私は、都合のいい駒だったってことかな」

 大きなため息を零しながら、当時の自分のことを思い返す。
 思いもよらなかった王子との婚約の話に胸を震わせ、実際にお会いして素敵な笑顔に魅了されて、あっという間に恋に落ちた。
 それからは、必死に王子の隣に立つためにと、お妃教育も頑張った。
 学校では高位貴族の令嬢たちから、田舎者と揶揄されたりもしたけれど、いつも笑顔を浮かべて、何を言われても流せるようにもなった。
 そう。頑張ったのだ。あんな王子のために。

「話を聞くに、王都に行ってから、随分と性格が変わったらしいわね」
「もしかして、キャサリンから聞いたの? ……そうね……あの頃は、王子に愛されたくて必死だったから」
「……もう、キャサリンのことは許してあげたら?」

 わかってる。彼女がヘリウスに逆らえなかったことなど。
 王族であることもそうだし、Aランクの冒険者からの威圧がどういったものか、共に行動していたのだもの、キャサリンでは無理だったことは、理解しているのだ。

「……そうね。私が大人にならないといけないわね」
「フフフ、中身は十分に大人でしょうが」
「そうだけど! ダメねぇ。身体につられるのか、感情の抑えが効かないの」
「それは……王妃からの呪縛が解けてきているからかもね」
「そうなの……かしら」

 私は、窓の外へと目を向ける。
 二度と王都へなんて行きたくない。そう強く思った。
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