上 下
53 / 81
第8章 狼は実は大型犬だったようですわ

46

しおりを挟む
 憂鬱な気分に押しつぶされそうになった時、部屋のドアが叩かれた。

 ドンドンッ

 ドアをノックする音で、相手がわかる。使用人たちは、もう少し遠慮気味にノックする。こうも遠慮のない叩き方をするのは、ミーシャだ。

「はい」
『入ってもいい?』

 やっぱり。
 短い滞在期間だというのにすぐにわかってしまって、つい笑みが零れてしまう。

「どうぞ~」
「……あれ、寝てた?」
「あ、ううん。ちょっと横になってただけ」

 ベッドから身を起こしたところを見られた。まぁ、ミーシャだからいいか。

 彼女が、まさかの日本人だと言うのを教えてもらったのは、こちらに戻った翌日のこと。それも、私のように転生ではなく、死にかけのところを強引に召喚されたらしい。その召喚した連中は、すでにそれなりの報いを受けているそうだ。
 そして、今では薬師として、あちこちを点々としているとか。

 私が転生者だというのは、『ロリコン』というキーワードが決定打になった。そりゃそうだ。こっちにはそんな言葉はないもの。
 その上で、神様から聞いた話、ということで転生のことについて教えてもらった。
 なんでも、地球からの転生自体が珍しいことなのだとか。ミーシャがこちらに来て、まだ数年らしいのだが、そんなところに、短期間のうちに私がいるのはおかしいらしい。
 もしかしたら、すでに私自身が過去に一度、あるいは、何度か、こちらで輪廻転生の輪に入っていたのではないか、というのだ。
 でも、私とミーシャの会話の感じからも、大きな時代の誤差は感じられない。ほぼ同時期じゃない? って思うのだけれど、もしかしたら、地球と、こちらの世界とでは、時間の流れというのも、違うのかもしれない。
 なんとも不思議な話で、そもそもが神様と話をした、なんて、普通なら信じられないし、そうなの? としか言いようがない。だけど、自分の前世、なのか、前々世なのか、その記憶があることを考えると、一概に信じられない話ではないのかもしれない。

「そろそろ帰ろうかと思って、挨拶に来たの」
「え、帰るって」
「うん、これでも一応、お世話になっている家があるのよ。その保護者から、そろそろ帰ってこいってお達しが」

 苦笑いしながら言うミーシャ。そんな彼女にも帰るところがあったことに、少し、ホッとする。

「それでね。メイリンちゃんに渡しておきたいものがあってね」
「え、何々」

 ミーシャが掌を私の方に差し出した。

「……うん?」
「あ、見えないか」

 空っぽの掌を見せられて、首を傾げている私に、ミーシャが今更気付いたみたいに言葉にする。

「姿を見せて」

 ミーシャの言葉に、ぽわんと淡く緑に光る玉が掌の上に浮かぶ。

「え、な、何、これ」

 ふわふわと浮かぶソレに目が釘付け。

「この子は風の精霊」
「せ、精霊!?」
 
 その言葉に反応したのか、スルリと宙を舞う光の玉。そして、驚きで声がでない私。
 魔法のある世界にいるのは自覚してはいたものの、精霊までいるとは知らなかった。
 光の玉は私の方に近寄ってきたので、私も掌を開いてみせると、その上にとまった。顔があるわけでもないのに、何やらこの子はご機嫌なのが伝わってくる。

「普通は姿は見せないんだけどね。一応、精霊魔法を使う人とか、一部の人には見えるみたいだけど。この子を置いていくね。ていうか、メイリンちゃん、王都で勉強してたって聞いたけど、なんで、そんなに驚いてるの?」
「……魔法関係はまったく教えてもらえなかったのよ。おかげで、伝達の魔法陣も使えないの。前世で使ってた電話とかメールとか思い出したら、もう、不便で不便で。逃亡中の苦労ったらないわ。今思うと、なんでって思うくらい魔法とは接してなかったわ」

 私の掌の上で、ポヨポヨ浮かぶ光の玉に自然と口角があがる。うむ、可愛い。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

『番』という存在

恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。 *基本的に1日1話ずつの投稿です。  (カイン視点だけ2話投稿となります。)  書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。 ***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

離縁してください旦那様

ルー
恋愛
近年稀にみる恋愛結婚で結ばれたシェリー・ランスとルイス・ヤウリアは幸せの絶頂にいた。 ランス伯爵家とヤウリア伯爵家の婚姻は身分も釣り合っていて家族同士の付き合いもあったからかすんなりと結婚まで行った。 しかしここで問題だったのはシェリーは人間族でルイスは獣人族であるということだった。 獣人族や龍族には番と言う存在がいる。 ルイスに番が現れたら離婚は絶対であるしシェリーもそれを認識していた。 2人は結婚後1年は幸せに生活していた。 ただ、2人には子供がいなかった。 社交界ではシェリーは不妊と噂され、その噂にシェリーは傷つき、ルイスは激怒していた。 そんなある日、ルイスは執務の息抜きにと王都の商店街に行った。 そしてそこで番と会ってしまった。 すぐに連れ帰ったルイスはシェリーにこう言った。 「番を見つけた。でも彼女は平民だから正妻に迎えることはできない。だから離婚はなしで、正妻のまま正妻として仕事をして欲しい。」 当然シェリーは怒った。 「旦那様、約束は約束です。離縁してください。」 離縁届を投げつけ家を出たシェリーはその先で自分を本当に愛してくれる人と出会う

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

処理中です...