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第4章 面倒な相手に出会ったようです
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ヘリウス様が案内してくださった宿屋は、なかなかに高級な感じで、入口でちょっと腰が引けてしまった。今の私には、自分たちの予算とかけ離れ過ぎているのがわかるだけに、どうしようかと迷ってしまうのだ。
「なんだ、入らんのか」
「あ、いえ、では……失礼します」
先に宿屋の中に入ってたヘリウス様に、呼ばれて素直に入る私たち。
そして案内されたのは、最上階のVIPルーム。VIPルームというかワンフロアが、我々専用。中に入ってみれば、あまりに立派な部屋で、唖然とする。
いや、辺境伯領から王都に向かう時にも、いくつかの宿屋に泊まったし、それなりによい部屋に泊まった。たぶん、ここも同じくらいのランクの部屋だとは思う。しかし、前世の一般人の記憶が戻っている上に、こんな高級宿に泊まるのが久しぶりすぎて、ちょっと、びっくりしてしまったのだ。
王都から逃げ出してからのことを考えると、仕方ないと思う。
「奥の部屋はお嬢さんが使いな」
「私はメイです。そう呼んでください」
「……はいはい。で、そっちの」
「キャサリンです。よろしくお願いいたします」
キャサリンは私の隣の部屋になり、ヘリウス様は、まさかの入口そばの従者の部屋にするという。
「ヘリウス様! それはなりません。王族の貴方様にっ」
「おっと、メイ、それは無しだぜ。俺は王族じゃない。冒険者のヘリウスだ。護衛の仕事をしてるんだ。入口近くの部屋は当然だろう。それと、『様』付けもなしだ」
どしんっ、と華奢な椅子に腰をおろすヘリウス様。かなり立派な体格なだけに、椅子のほうが心配になる。颯爽と長い足が組まれる……ムカつくほど長い足だ。
「か、かしこまりました」
「敬語もだ」
「っ! しかし……」
「俺は、冒険者だ」
「……わ、わかったわ」
私はテーブルを挟んでヘリウスの正面の椅子に座り、キャサリンは私の背後に立った。
「さぁて。簡単な話はファリア殿から聞いている。一応、メイたちからも話を聞きたいんだが」
「あの、ヘリウス、は、お母様とは知り合いなの?」
辺境伯領にいた時には、獣人の姿など見たことがなかった。もっとも、滅多に外に出ることはなかった。
――あ、あら? そうだったかしら?
魔法の練習は母とした記憶はあるのだ。その練習は、外の演習場でやった。思い返してみれば、私は……それほど、箱入り娘ではなかったのではないか。
「ああ、ファリア殿とは戦場で何度か一緒になったかな」
「戦場!?」
記憶に、少し戸惑いを感じている私ををよそに、へリウス様が答えてくれた。
戦いなんて、最近でいえば、隣国との小競り合いくらい。それも、私が幼い頃のはず。
「失礼ですが、ヘリウスはおいくつなの?」
「俺か? もうすぐ40かな」
「よ、40!?」
見た目は、20代くらいにしか見えないのにっ!?
私もキャサリンもびっくりだ。しかし、40であれば、隣国ナディス王国との小競り合いの頃であっても、戦場に出ていてもおかしくはないのかもしれない。
「獣人は初めてか?」
「え、ええ。お若く見えるんですね」
「ハハハ、獣人は人間のそれよりもゆっくりと年齢を重ねるからな。まぁ、俺にしても獣人の中でいえば、人間でいう20代半ばくらいだ」
そ、そうなんだ。じゃあ、見かけ通りではあるのか。
「では、ナディスとの戦いの時に」
「ああ、当時は傭兵として参加してたな」
「お、王族なのに、傭兵ですか!?」
「うちは子供がたくさんいたからな。俺にしたって8番目だしな」
「8番目?」
「おう、上に7人いるんだ。まぁ、俺のことはさておき、お前さんたちのことだ」
へリウスは話を強引に終わらせると、組んでいた足を下ろして両手を握り、真剣な顔になった。
「なんだ、入らんのか」
「あ、いえ、では……失礼します」
先に宿屋の中に入ってたヘリウス様に、呼ばれて素直に入る私たち。
そして案内されたのは、最上階のVIPルーム。VIPルームというかワンフロアが、我々専用。中に入ってみれば、あまりに立派な部屋で、唖然とする。
いや、辺境伯領から王都に向かう時にも、いくつかの宿屋に泊まったし、それなりによい部屋に泊まった。たぶん、ここも同じくらいのランクの部屋だとは思う。しかし、前世の一般人の記憶が戻っている上に、こんな高級宿に泊まるのが久しぶりすぎて、ちょっと、びっくりしてしまったのだ。
王都から逃げ出してからのことを考えると、仕方ないと思う。
「奥の部屋はお嬢さんが使いな」
「私はメイです。そう呼んでください」
「……はいはい。で、そっちの」
「キャサリンです。よろしくお願いいたします」
キャサリンは私の隣の部屋になり、ヘリウス様は、まさかの入口そばの従者の部屋にするという。
「ヘリウス様! それはなりません。王族の貴方様にっ」
「おっと、メイ、それは無しだぜ。俺は王族じゃない。冒険者のヘリウスだ。護衛の仕事をしてるんだ。入口近くの部屋は当然だろう。それと、『様』付けもなしだ」
どしんっ、と華奢な椅子に腰をおろすヘリウス様。かなり立派な体格なだけに、椅子のほうが心配になる。颯爽と長い足が組まれる……ムカつくほど長い足だ。
「か、かしこまりました」
「敬語もだ」
「っ! しかし……」
「俺は、冒険者だ」
「……わ、わかったわ」
私はテーブルを挟んでヘリウスの正面の椅子に座り、キャサリンは私の背後に立った。
「さぁて。簡単な話はファリア殿から聞いている。一応、メイたちからも話を聞きたいんだが」
「あの、ヘリウス、は、お母様とは知り合いなの?」
辺境伯領にいた時には、獣人の姿など見たことがなかった。もっとも、滅多に外に出ることはなかった。
――あ、あら? そうだったかしら?
魔法の練習は母とした記憶はあるのだ。その練習は、外の演習場でやった。思い返してみれば、私は……それほど、箱入り娘ではなかったのではないか。
「ああ、ファリア殿とは戦場で何度か一緒になったかな」
「戦場!?」
記憶に、少し戸惑いを感じている私ををよそに、へリウス様が答えてくれた。
戦いなんて、最近でいえば、隣国との小競り合いくらい。それも、私が幼い頃のはず。
「失礼ですが、ヘリウスはおいくつなの?」
「俺か? もうすぐ40かな」
「よ、40!?」
見た目は、20代くらいにしか見えないのにっ!?
私もキャサリンもびっくりだ。しかし、40であれば、隣国ナディス王国との小競り合いの頃であっても、戦場に出ていてもおかしくはないのかもしれない。
「獣人は初めてか?」
「え、ええ。お若く見えるんですね」
「ハハハ、獣人は人間のそれよりもゆっくりと年齢を重ねるからな。まぁ、俺にしても獣人の中でいえば、人間でいう20代半ばくらいだ」
そ、そうなんだ。じゃあ、見かけ通りではあるのか。
「では、ナディスとの戦いの時に」
「ああ、当時は傭兵として参加してたな」
「お、王族なのに、傭兵ですか!?」
「うちは子供がたくさんいたからな。俺にしたって8番目だしな」
「8番目?」
「おう、上に7人いるんだ。まぁ、俺のことはさておき、お前さんたちのことだ」
へリウスは話を強引に終わらせると、組んでいた足を下ろして両手を握り、真剣な顔になった。
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