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第1章 私の方から、婚約破棄ですわ
閑話:メイド マーサ
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王城についてすぐ、王太子様がいつものように出迎えてくださったが、すぐにご用事があるとのことでその場で去られてしまった。
メイリン様が少し寂しげな笑みを浮かべていらしたけれど、私たちは用意された部屋へと向かうべく、王城内を進んでいく。
そんな私たちに向けられる周囲の視線が意味ありげで、何やらおかしい、というのは、すぐに気が付いた。
明日には婚約披露のパーティがあるのだ。その主役であるメイリン様に対し、あからさまに、気の毒そうな目を向けているのだ。
何か起きているのだろうか、と、私と一緒に来ていた護衛のキャサリンと二人で、訝しく思った。
メイリン様は、いつも小競り合いを繰り返す隣国のナディス王国の者たちからは、あまりの強さに『オーガ伯』と呼ばれるあの辺境伯が、目に入れても痛くないと言われるほどに溺愛されるお嬢様。
辺境伯にも、辺境防衛隊の隊長をなされているお母様のファリア様とも似ても似つかない、愛らしいお嬢様である。
当然、我々使用人たちだけではなく、領民にも愛されているお嬢様が、なぜ、あのような視線を向けられるのか、お嬢様を敬愛している我々は納得がいかなかった。
そして、耳にしてしまう。
メイリン様が親友ともお姉様とも慕っていらした、あのマリアンヌ嬢が、お嬢様の婚約者になられるアルフレッド様と裏で逢引きしているのだと。
それも頻繁に、王城に連れてきているというではないか。
それに気付かないでいるメイリン様がお可哀相だと、皆が皆、気の毒がっている。
何事につけ、必ず感謝を忘れないお嬢様。
城の者たちの多くは、優しく可愛らしい、控えめなメイリン様に好意的だ。逆に貴族たちは、そんなお嬢様を軽んじている傾向が見受けられる。
そばに『オーガ伯』がいれば、けして見せはしないのだろうが、お嬢様一人の時には意地悪をしたりもする。しかし、悲しそうな顔はされても、お嬢様はそれを悪く言うことはなかった。お母様のファリア様だったら、二倍にも三倍にしても返しているだろうに、本当に、ファリア様のお子様なのか、と不思議に思うくらいだ。
だからこそ、裏切りを働く王太子とマリアンヌ嬢には、使用人たちからは、かなり辛口の陰口が叩かれていた。
そして、恥知らずな二人は、このような日でも、愚かな行為を行っているという。
「アルフレッド様が、マリアンヌ様のお部屋へ……」
「……まったく、堪え性のない」
「明日には婚約発表があるというのに……」
「ああ、メイリン様、お可哀相に……」
使用人たちの噂話に、胸を痛めるキャサリンと私。
そして、なんの疑いもなく、「マリアンヌ様のところに行ってくるわ」と、いつも通りに柔らかな笑顔を浮かべて出ていかれたメイリン様。
まさか、とは思いながらも恐ろしい現実を見せつけられる可能性もないとはいえず、護衛のキャサリンとともに、すぐにでも王城から出ていける準備をしておいた。
やはり、とでも言うのだろうか。メイリン様の甲高い叫び声が聞こえた。
――ああ、お可哀相に。きっと涙を流されているに違いない。
私とキャサリンは気合を入れてお待ちしていたのだが……部屋に戻られたメイリン様は、まるで人が変わったように、無表情で冷静だった。
深窓の令嬢といった風情だったのに、スパスパッと物事を判断していく姿は、母親のファリア様の姿を連想させる。あのお優しかったメイリン様が……と思ったが、私たちに声をかける様子は、あまりお変わりにならなかった。
アルフレッド様への未練など、欠片も見せず、用意された馬車にさっさとお乗りになったメイリン様。こんな美しく聡明なお嬢様を蔑ろにしたのだ。
アルフレッド様……いや、王家は見事に失敗した。
――ざまぁ見ろ。
私は少し疲れたような表情のメイリン様の横顔を見ながらも、つい、口元を緩めてしまったのだった。
メイリン様が少し寂しげな笑みを浮かべていらしたけれど、私たちは用意された部屋へと向かうべく、王城内を進んでいく。
そんな私たちに向けられる周囲の視線が意味ありげで、何やらおかしい、というのは、すぐに気が付いた。
明日には婚約披露のパーティがあるのだ。その主役であるメイリン様に対し、あからさまに、気の毒そうな目を向けているのだ。
何か起きているのだろうか、と、私と一緒に来ていた護衛のキャサリンと二人で、訝しく思った。
メイリン様は、いつも小競り合いを繰り返す隣国のナディス王国の者たちからは、あまりの強さに『オーガ伯』と呼ばれるあの辺境伯が、目に入れても痛くないと言われるほどに溺愛されるお嬢様。
辺境伯にも、辺境防衛隊の隊長をなされているお母様のファリア様とも似ても似つかない、愛らしいお嬢様である。
当然、我々使用人たちだけではなく、領民にも愛されているお嬢様が、なぜ、あのような視線を向けられるのか、お嬢様を敬愛している我々は納得がいかなかった。
そして、耳にしてしまう。
メイリン様が親友ともお姉様とも慕っていらした、あのマリアンヌ嬢が、お嬢様の婚約者になられるアルフレッド様と裏で逢引きしているのだと。
それも頻繁に、王城に連れてきているというではないか。
それに気付かないでいるメイリン様がお可哀相だと、皆が皆、気の毒がっている。
何事につけ、必ず感謝を忘れないお嬢様。
城の者たちの多くは、優しく可愛らしい、控えめなメイリン様に好意的だ。逆に貴族たちは、そんなお嬢様を軽んじている傾向が見受けられる。
そばに『オーガ伯』がいれば、けして見せはしないのだろうが、お嬢様一人の時には意地悪をしたりもする。しかし、悲しそうな顔はされても、お嬢様はそれを悪く言うことはなかった。お母様のファリア様だったら、二倍にも三倍にしても返しているだろうに、本当に、ファリア様のお子様なのか、と不思議に思うくらいだ。
だからこそ、裏切りを働く王太子とマリアンヌ嬢には、使用人たちからは、かなり辛口の陰口が叩かれていた。
そして、恥知らずな二人は、このような日でも、愚かな行為を行っているという。
「アルフレッド様が、マリアンヌ様のお部屋へ……」
「……まったく、堪え性のない」
「明日には婚約発表があるというのに……」
「ああ、メイリン様、お可哀相に……」
使用人たちの噂話に、胸を痛めるキャサリンと私。
そして、なんの疑いもなく、「マリアンヌ様のところに行ってくるわ」と、いつも通りに柔らかな笑顔を浮かべて出ていかれたメイリン様。
まさか、とは思いながらも恐ろしい現実を見せつけられる可能性もないとはいえず、護衛のキャサリンとともに、すぐにでも王城から出ていける準備をしておいた。
やはり、とでも言うのだろうか。メイリン様の甲高い叫び声が聞こえた。
――ああ、お可哀相に。きっと涙を流されているに違いない。
私とキャサリンは気合を入れてお待ちしていたのだが……部屋に戻られたメイリン様は、まるで人が変わったように、無表情で冷静だった。
深窓の令嬢といった風情だったのに、スパスパッと物事を判断していく姿は、母親のファリア様の姿を連想させる。あのお優しかったメイリン様が……と思ったが、私たちに声をかける様子は、あまりお変わりにならなかった。
アルフレッド様への未練など、欠片も見せず、用意された馬車にさっさとお乗りになったメイリン様。こんな美しく聡明なお嬢様を蔑ろにしたのだ。
アルフレッド様……いや、王家は見事に失敗した。
――ざまぁ見ろ。
私は少し疲れたような表情のメイリン様の横顔を見ながらも、つい、口元を緩めてしまったのだった。
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