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第一話
ヘッドスパ
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「乾かして整えるのは、ヘッドスパのあとね」
くるりと私の椅子を回して、白いカットクロスをはずす。
なぜだろう。今日は、疲れる。
パワー充電するつもりできたのに、いつもと違う緊張感。
妄想しすぎかな。そうなら、自業自得。
今日は苦笑いばっかり浮かんでしまう。
一緒にいる時間が、とても嬉しいはずなのに。
ヘッドスパ専用のスペースに移動して、専用の椅子にゆったりと背を預ける。
「さて、じっくりいこうか」
「お願いします」
いつもの優しい笑顔。なのに、目に感情がないように見えるのは気のせい?
どこか懐かしい感じのハワイアンとともに、聞こえてくるさざ波のBGM。
フルーティな甘いアロマオイルの香りが、スペースに充満する。
彼の指先に力が入る。
「だいぶ固くなってるね」
……そうですか。
返事のない私に、続けて優しい声で問いかけてくる。
「最近、忙しい?」
「……ですね」
「そうなんだ」
「……他にも……いろいろあって」
「ふぅん」
首のこりをほぐし、肩へと大きな掌が動いていく。
――素直に気持ちいい。このまま寝てしまいそう。
「寝ていいんだよ」
再び、優しい声が耳元で聞こえてくる。
私の心の声が聞こえてるんだろうか?
案の定、私はものの数秒で、暗闇に落ちていた。
どれくらい寝てたのか。そんなたいした時間ではないと思う。
でも、とてもスッキリしたのは確か。
「どう?」
「なんか、スッキリしました」
「ふふふ」
黒川さんの意味深な笑顔。
「じゃあ、一度流してから、乾かして少し整えましょう」
大きな鏡で自分の顔を見る。
さっきよりも顔色がいいかも。マッサージのおかげかな。
黒川さんの手は魔法の手じゃないか、と本気で思いそうだ。
「はい、お疲れ様でした」
普段通りの笑顔。
「いい顔になったね」
「いつも思いますけど、黒川さんって、すごいですね」
「ふふふ」
優しい笑顔のはずなのに、怪しい笑顔に見えるのは、なぜだろう?
「また来月、お待ちしてます」
「はい」
会計を終えてドアを開けると、もう、外は暗くて、商店街の明かりがついている。
家路を急ぐ人々が、流れていく。
振り返ると、彼はまだ、ドアのところにいた。
「気を付けてね」
その言葉に、ぺこりと頭を下げる。
次に会えるのは、一か月先。今から待ち遠しい、と思ってしまう。
襟足がスッキリしている私に、後ろ髪なんてないけど、黒川さんへの惹かれる想いに、足取りはけして軽くはなかった。
くるりと私の椅子を回して、白いカットクロスをはずす。
なぜだろう。今日は、疲れる。
パワー充電するつもりできたのに、いつもと違う緊張感。
妄想しすぎかな。そうなら、自業自得。
今日は苦笑いばっかり浮かんでしまう。
一緒にいる時間が、とても嬉しいはずなのに。
ヘッドスパ専用のスペースに移動して、専用の椅子にゆったりと背を預ける。
「さて、じっくりいこうか」
「お願いします」
いつもの優しい笑顔。なのに、目に感情がないように見えるのは気のせい?
どこか懐かしい感じのハワイアンとともに、聞こえてくるさざ波のBGM。
フルーティな甘いアロマオイルの香りが、スペースに充満する。
彼の指先に力が入る。
「だいぶ固くなってるね」
……そうですか。
返事のない私に、続けて優しい声で問いかけてくる。
「最近、忙しい?」
「……ですね」
「そうなんだ」
「……他にも……いろいろあって」
「ふぅん」
首のこりをほぐし、肩へと大きな掌が動いていく。
――素直に気持ちいい。このまま寝てしまいそう。
「寝ていいんだよ」
再び、優しい声が耳元で聞こえてくる。
私の心の声が聞こえてるんだろうか?
案の定、私はものの数秒で、暗闇に落ちていた。
どれくらい寝てたのか。そんなたいした時間ではないと思う。
でも、とてもスッキリしたのは確か。
「どう?」
「なんか、スッキリしました」
「ふふふ」
黒川さんの意味深な笑顔。
「じゃあ、一度流してから、乾かして少し整えましょう」
大きな鏡で自分の顔を見る。
さっきよりも顔色がいいかも。マッサージのおかげかな。
黒川さんの手は魔法の手じゃないか、と本気で思いそうだ。
「はい、お疲れ様でした」
普段通りの笑顔。
「いい顔になったね」
「いつも思いますけど、黒川さんって、すごいですね」
「ふふふ」
優しい笑顔のはずなのに、怪しい笑顔に見えるのは、なぜだろう?
「また来月、お待ちしてます」
「はい」
会計を終えてドアを開けると、もう、外は暗くて、商店街の明かりがついている。
家路を急ぐ人々が、流れていく。
振り返ると、彼はまだ、ドアのところにいた。
「気を付けてね」
その言葉に、ぺこりと頭を下げる。
次に会えるのは、一か月先。今から待ち遠しい、と思ってしまう。
襟足がスッキリしている私に、後ろ髪なんてないけど、黒川さんへの惹かれる想いに、足取りはけして軽くはなかった。
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