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少々楽観的に考えていた自分の愚かさに後悔する。ただでさえ普通の家族よりも、父さんと母さんは俺に対して過保護なんだ。それなのに兄ちゃんも俺も二人して一気に行方不明となると、物凄い不安を与えてしまうんじゃないだろうか。
……異世界に来てしまった自分たちのことよりも、俺は父さんと母さんが心配だ。

「ですが、時間は掛かれどきっと目覚めるでしょう。力を持った術者の生命力は人一倍高いですので。……ただ、すぐにはお戻りになれないことはご理解いただけると幸いです」
「だけどそこまでして兄ちゃんを呼び寄せたい理由があったんですか?だってその人は万が一死ぬのも承知の上だったってことですよね?」
「はい。我が国では血筋など関係なく、代々信託が導くままに王が選ばれます。王に選ばれた方には、必ず国をお救いになるお力を持っていらっしゃるのです」
「……つまりは、この国はなんらかのピンチに陥っているということですか?」
「…………左様で御座います」
「そんなもの知るか。俺には関係ない。それにその信託の導きとやらが間違いの可能性だってあるだろ」
「た、確かに……!兄ちゃんの言う通り間違いで呼ばれた可能性とかないんですか?」

俺が一緒に召喚されてしまったことが間違いだったように、そもそも兄ちゃんさえも間違って呼び出された可能性だってあるかもしれない。

「いえ、それは絶対に有り得ません。…………それに、そのことは勇斗様ご自身が一番お気付きになられているんじゃないでしょうか?」
「…………」
「……え?どういう意味ですか?兄ちゃんなにかあったの?」

アニさんの言葉と、それに沈黙を決める兄ちゃんに俺は焦ってしまう。

「勇斗様の手の甲に刻まれているその紋章が、紛れもなく王の証なのです」
「…………紋章……?」

未だに繋いだままの兄ちゃんの左手に目を落とす。――しかし、そこには何もなかった。
つまりは逆の手だ。俺は急いで兄ちゃんの右手に視線を向けると、……そこには先程アニさんが言っていた通りの複雑な紋章が刻まれていた。

「い、いつの間に……?兄ちゃんいつからそうなってたの?」
「……知らん。気が付いたら刻まれていた」
「…………痛くない?大丈夫?」
「全く痛みはないから心配するな」
「そっか。それならよかった」

だけどその複雑な紋章を見て、改めて実感する。
『兄ちゃんがこの国の王』なんだって。

前触れもなく異世界のような場所に召喚されて、急に兄ちゃんがこの国の王様だと言われて、なんだか展開に上手く付いていけそうにないけれど。これだけは確実に分かる。

「……兄ちゃん、格好いいね!!」

―――俺の兄ちゃんは、想像以上に格好いいのだと。
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