上 下
18 / 24

17

しおりを挟む



フワリとなんともいえない浮遊感に見舞われる。決して怖いわけではないけど、俺は眩しさに耐え切れず目を閉じて、兄ちゃんの手をギュッと握った。

「着きましたよ」
「……え?」

想像していた以上に“それ”はすぐだった。
アニさんの言葉を聞いて閉じていた目をゆっくりと開けると、もう先程の自然溢れる光景はそこにはなかった。俺が一瞬だけ目を閉じていた間に、なんと本当に瞬間移動をしていたのだ。今現在俺の視界に映っているのは、高級そうな赤い絨毯と、キラキラして派手なシャンデリアと、これまた高級そうなダイニングテーブルがある広く綺麗な部屋の中だった。

「すっごい!兄ちゃん、兄ちゃん!マジで瞬間移動しちゃったよ俺たち!」
「…………みたいだな」
「俺眩しくて思わず目を閉じちゃったよ!くそー、勿体ないことしちゃったなぁ。兄ちゃんはちゃんと見てた?」
「……ああ」
「本当?ねえねえ、どんな感じだった!?」
「……べつに。なにもない」
「え?」
「ただの無だ」
「……んー?そうなんだ」

兄ちゃんの言っていることは上手く俺には伝わらなかった。だけどもしかしたら本当にその通りなのかもしれない。もしまたこのような経験があれば絶対に目を閉じないでおこう。そうすれば兄ちゃんの言っていることが分かるはずだ。

「―――それで、俺たちに話すこととはなんだ?」

そんなことを思っている内に、兄ちゃんは早速アニさんに突っかかっていた。初対面の相手だというのに本当に失礼過ぎる。いつもよりも刺々しい兄ちゃんの対応に相変わらず冷や冷やさせられていると、アニさんは気にした様子一つ見せず、二つ分の椅子を引いて俺たちに座るように促してくれた。
断ることもできず、俺は「ありがとうございます」と言って椅子に座る。俺たち二人が椅子に座ったのを確認して、アニさんはゆっくりと話し始めた。

「あまり長々と説明するのはよろしくないと思いますので、それでは端的に話をさせていただきます」
「……お、お願いします」
「貴方達お二人がこの場にいらっしゃるのは、間違いなく私たちが呼び寄せたからです」
「呼び寄せた、ですか?」
「はい。……と言いましても、ゆずる様までもがこの場に来てしまったのは全くの予想外でした。恐らく召喚の際になんらかの問題が起こってしまったのでしょう。本当にゆずる様には申し訳ないと思っております」

つまりは俺は間違って呼ばれた存在ということなのだろう。アニさん達の目的は兄ちゃんを呼び寄せることのようだ。……もちろん悪意はないと思うけれど、それでもなんか少しだけ悲しい。だって俺はどこに居ても、役には立たないっていうことなのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~

白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。 そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!? 前世は嫌われもの。今世は愛されもの。 自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!! **************** というようなものを書こうと思っています。 初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。 暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。 なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。 この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。 R15は保険です。

どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。

彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。 だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。 どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。

残業リーマンの異世界休暇

はちのす
BL
【完結】 残業疲れが祟り、不慮の事故(ドジともいう)に遭ってしまった幸薄主人公。 彼の細やかな願いが叶い、15歳まで若返り異世界トリップ?! そこは誰もが一度は憧れる魔法の世界。 しかし主人公は魔力0、魔法にも掛からない体質だった。 ◯普通の人間の主人公(鈍感)が、魔法学校で奇人変人個性強めな登場人物を無自覚にたらしこみます。 【attention】 ・Tueee系ではないです ・主人公総攻め(?) ・勘違い要素多分にあり ・R15保険で入れてます。ただ動物をモフッてるだけです。 ★初投稿作品

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

魔法菓子職人ティハのアイシングクッキー屋さん

古森きり
BL
魔力は豊富。しかし、魔力を取り出す魔門眼《アイゲート》が機能していないと診断されたティハ・ウォル。 落ちこぼれの役立たずとして実家から追い出されてしまう。 辺境に移住したティハは、護衛をしてくれた冒険者ホリーにお礼として渡したクッキーに強化付加効果があると指摘される。 ホリーの提案と伝手で、辺境の都市ナフィラで魔法菓子を販売するアイシングクッキー屋をやることにした。 カクヨムに読み直しナッシング書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLove、魔法Iらんどにも掲載します。

ヒロインの兄は悪役令嬢推し

西楓
BL
異世界転生し、ここは前世でやっていたゲームの世界だと知る。ヒロインの兄の俺は悪役令嬢推し。妹も可愛いが悪役令嬢と王子が幸せになるようにそっと見守ろうと思っていたのに…どうして?

処理中です...