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しおりを挟むそしていつの間にか近付いてきていた先程の怪物の鼻先を軽く撫でてみせながら、続けて彼はこう言ったのだ。
「ここでは落ち着いてお話をすることもできませんかね。詳しい事情をお話させていただきますので、私と一緒に来てくれませんか?」
「お前のような不審者にか?断る」
「に、兄ちゃん……」
初対面の相手にそんなにも強い対応をする必要なんてないんじゃないか。さすがに可哀想だし、失礼だと思うけど……。
「ですが、此処は辺境の地ですよ。そうそう人が通るところではありません。私のように貴方たちに用がある者ではなければ、わざわざ此処を訪れることはないでしょう。……体力が少ない弟君がこんな場所で野晒しにされては数日ともたないでしょうが、それでもよろしいのでしょうか?」
「…………」
「貴方様が一番大切に想っていらっしゃるのがどなたなのかは重々存じております。少々不躾な言い回しとなってしまいましたが、そのお気持ちを私としても尊重させていただきたいのです。どうぞご理解をお願いいたします」
「…………チッ。分かった」
「ありがとうございます」
二人の張り詰めた空気に耐え切れず傍から見守ることしかできなかったのだが、どうやら無事に話がついたらしい。あの気難しい兄ちゃんを見事アニさんが説得しきったのだ。俺でさえも一度もないというのに、素晴らしい話術で兄ちゃんを説得してみせたことを尊敬するしかできない。憧れの眼差しでアニさんを見つめていると、兄ちゃんに腰を掴まれて軽く抱き寄せられた。
「ゆずる」
「え?な、なに?」
「俺から離れるなよ。俺は完璧にあいつを信じたわけじゃない。…………だが、ここは一先ず利用させてもらうしかないからな」
「り、利用するとかそんなこと言わないのっ!」
わざとアニさんに聞こえるように言わないで欲しい。助けてくれると言ってくれているのに、それはあまりにも失礼だ。身体は兄ちゃんに抱き寄せられているため近づけないが、俺は失礼ながらも顔だけをアニさんに向けて謝罪を述べる。
「……アニさん、失礼なことばかり言ってしまってすみません」
「いえ、私は大丈夫です。ですが、お気遣い感謝いたします。貴方様はとても心優しい人なんですね」
「い、いえっ。俺なんかはべつにそんな……。アニさんこそ見ず知らずの俺たちを助けてくれるなんて……、本当にありがとうございます」
深々と頭を下げれば、耳元で兄ちゃんの舌打ちが聞こえてきた。
「おい。俺の許可なく勝手にゆずると話すな」
「……に、兄ちゃん……!」
「ゆずる、お前もだ。そいつと気安く話すな」
「俺が誰と話そうが俺の勝手でしょ!」
そこまで俺に過保護にならなくていいというのに、兄ちゃんはアニさんが現れてから余計にピリピリしている。
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