上 下
16 / 24

15

しおりを挟む



そしていつの間にか近付いてきていた先程の怪物の鼻先を軽く撫でてみせながら、続けて彼はこう言ったのだ。

「ここでは落ち着いてお話をすることもできませんかね。詳しい事情をお話させていただきますので、私と一緒に来てくれませんか?」
「お前のような不審者にか?断る」
「に、兄ちゃん……」

初対面の相手にそんなにも強い対応をする必要なんてないんじゃないか。さすがに可哀想だし、失礼だと思うけど……。

「ですが、此処は辺境の地ですよ。そうそう人が通るところではありません。私のように貴方たちに用がある者ではなければ、わざわざ此処を訪れることはないでしょう。……体力が少ない弟君おとうとぎみがこんな場所で野晒しにされては数日ともたないでしょうが、それでもよろしいのでしょうか?」
「…………」
「貴方様が一番大切に想っていらっしゃるのがどなたなのかは重々存じております。少々不躾な言い回しとなってしまいましたが、そのお気持ちを私としても尊重させていただきたいのです。どうぞご理解をお願いいたします」
「…………チッ。分かった」
「ありがとうございます」

二人の張り詰めた空気に耐え切れず傍から見守ることしかできなかったのだが、どうやら無事に話がついたらしい。あの気難しい兄ちゃんを見事アニさんが説得しきったのだ。俺でさえも一度もないというのに、素晴らしい話術で兄ちゃんを説得してみせたことを尊敬するしかできない。憧れの眼差しでアニさんを見つめていると、兄ちゃんに腰を掴まれて軽く抱き寄せられた。

「ゆずる」
「え?な、なに?」
「俺から離れるなよ。俺は完璧にあいつを信じたわけじゃない。…………だが、ここは一先ず利用させてもらうしかないからな」
「り、利用するとかそんなこと言わないのっ!」

わざとアニさんに聞こえるように言わないで欲しい。助けてくれると言ってくれているのに、それはあまりにも失礼だ。身体は兄ちゃんに抱き寄せられているため近づけないが、俺は失礼ながらも顔だけをアニさんに向けて謝罪を述べる。

「……アニさん、失礼なことばかり言ってしまってすみません」
「いえ、私は大丈夫です。ですが、お気遣い感謝いたします。貴方様はとても心優しい人なんですね」
「い、いえっ。俺なんかはべつにそんな……。アニさんこそ見ず知らずの俺たちを助けてくれるなんて……、本当にありがとうございます」

深々と頭を下げれば、耳元で兄ちゃんの舌打ちが聞こえてきた。

「おい。俺の許可なく勝手にゆずると話すな」
「……に、兄ちゃん……!」
「ゆずる、お前もだ。そいつと気安く話すな」
「俺が誰と話そうが俺の勝手でしょ!」

そこまで俺に過保護にならなくていいというのに、兄ちゃんはアニさんが現れてから余計にピリピリしている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~

白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。 そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!? 前世は嫌われもの。今世は愛されもの。 自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!! **************** というようなものを書こうと思っています。 初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。 暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。 なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。 この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。 R15は保険です。

どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。

彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。 だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。 どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。

残業リーマンの異世界休暇

はちのす
BL
【完結】 残業疲れが祟り、不慮の事故(ドジともいう)に遭ってしまった幸薄主人公。 彼の細やかな願いが叶い、15歳まで若返り異世界トリップ?! そこは誰もが一度は憧れる魔法の世界。 しかし主人公は魔力0、魔法にも掛からない体質だった。 ◯普通の人間の主人公(鈍感)が、魔法学校で奇人変人個性強めな登場人物を無自覚にたらしこみます。 【attention】 ・Tueee系ではないです ・主人公総攻め(?) ・勘違い要素多分にあり ・R15保険で入れてます。ただ動物をモフッてるだけです。 ★初投稿作品

弟は僕の名前を知らないらしい。

いちの瀬
BL
ずっと、居ないものとして扱われてきた。 父にも、母にも、弟にさえも。 そう思っていたけど、まず弟は僕の存在を知らなかったみたいだ。 シリアスかと思いきやガチガチのただのほのぼの男子高校生の戯れです。 BLなのかもわからないような男子高校生のふざけあいが苦手な方はご遠慮ください。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

賢者となって逆行したら「稀代のたらし」だと言われるようになりました。

かるぼん
BL
******************** ヴィンセント・ウィンバークの最悪の人生はやはり最悪の形で終わりを迎えた。 監禁され、牢獄の中で誰にも看取られず、ひとり悲しくこの生を終える。 もう一度、やり直せたなら… そう思いながら遠のく意識に身をゆだね…… 気が付くと「最悪」の始まりだった子ども時代に逆行していた。 逆行したヴィンセントは今回こそ、後悔のない人生を送ることを固く決意し二度目となる新たな人生を歩み始めた。 自分の最悪だった人生を回収していく過程で、逆行前には得られなかった多くの大事な人と出会う。 孤独だったヴィンセントにとって、とても貴重でありがたい存在。 しかし彼らは口をそろえてこう言うのだ 「君は稀代のたらしだね。」 ほのかにBLが漂う、逆行やり直し系ファンタジー! よろしくお願い致します!! ********************

魔法菓子職人ティハのアイシングクッキー屋さん

古森きり
BL
魔力は豊富。しかし、魔力を取り出す魔門眼《アイゲート》が機能していないと診断されたティハ・ウォル。 落ちこぼれの役立たずとして実家から追い出されてしまう。 辺境に移住したティハは、護衛をしてくれた冒険者ホリーにお礼として渡したクッキーに強化付加効果があると指摘される。 ホリーの提案と伝手で、辺境の都市ナフィラで魔法菓子を販売するアイシングクッキー屋をやることにした。 カクヨムに読み直しナッシング書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLove、魔法Iらんどにも掲載します。

処理中です...