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しおりを挟む「俺、一人で帰るから……!」
「おい、ゆずるっ」
兄ちゃんが怖くて仕方がないという気持ちがあると同時に、俺の話を全く聞き受けてくれずに傲慢な態度を取る兄ちゃんに腹が立ってしまっている。兄ちゃんのことは信頼しているし大好きだけど、それでも今は一緒に居たくないという気持ちが大き過ぎて、俺は手を振り払ってそのまま逃げるように走り出した。
背後から兄ちゃんの焦りと怒りを含んだ声が聞こえてきたが、俺はそれを無視して公園から飛び出す。
「ゆずる、てめえ。おい、俺から離れるな!」
「やだやだやだ!追ってくんなっ、バカ―!!」
だけど俺が先に走り出したといっても、引きこもりのニートに比べて、運動神経抜群の兄ちゃんに足の速さで勝てるわけがない。すぐさま距離が縮まってきそうなことに焦って、俺は階段を二段ほど飛ばして下りようと試みる。兄ちゃんが近所迷惑なくらいに「危ねえからやめろ」と怒鳴ってきたがそんな言葉も無視して駆け下りようとしたのだが…………、
「…………っ、!?」
「……ゆず……!」
20段ほどの階段を普通に上るくらいですぐに息切れをしてしまうほどの運動不足な俺が、そんな無謀な行動を取って華麗に下りきれることはなく……、そのままバランスを崩してしまい、前のめりで階段から転げ落ちそうになってしまった。
――フワリと、嫌な浮遊感が身体を襲う。本当ならば一瞬の出来事のはずなのに、まるで落ちる瞬間がスローモーションに見えるような不思議な感覚に陥る。俺は背後から強く引き寄せられ、抱き締められながら、そのまま身体中を襲う強い衝撃に気を失ってしまったのだった…………
♢♢♢♢♢
「………………ん……、」
…………蛇に強く締め付けられる夢を見た。
嫌な夢のはずなのに、なんだか温かくて心地良くて目覚めるのが勿体なく感じる自分が居る。だけどいつまでも寝続けているわけにはいかない。だって、無職の俺が朝から何もせずにぐーすか眠り続けるのはいくらなんでも気が引けるから……。
そう思いながら、重たい瞼をゆっくりと開ければ……、
「……!?」
―――俺の身体を強く抱き締めて寝ている兄ちゃんの顔がすぐ傍にあってビックリしてしまった。
「……あ、あれ?俺、また今日も兄ちゃんに一緒に寝てもらったんだっけ?」
寝る前の記憶が一切ない。
…………というか、俺は本当に寝てただけなんだっけ……?寝ているはずだというのに、まるで俺を離さないという強い意志を感じるほど、俺の身体を痛いほど抱き締めてきている兄ちゃんを見て俺は首を傾げた。
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