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しおりを挟む俺のために色々と考えてくれて気遣ってくれるのはすごく嬉しい。――嬉しいけど、多分それじゃあダメなんだと思う。
「ありがとう兄ちゃん。………でも有難いけど、働く場所は自分で探すよ。というか、えへへ……実はもう目星は付けてたりするんだよね」
「…………どこだ」
「住み込みで働ける旅館だよ。長野県にあるんだ」
「……駄目だ」
「えっ!?なんで!?」
「何ででもだ」
「えー、いいじゃんっ。受かるかは分からないけど応募してみるだけでもいいでしょ?」
「駄目だ」
いっそ働くと決まったら母さんたちや兄ちゃんから遠く離れた場所で、一から自分を鍛える意味で働こうと思っていたんだけど、どうやら兄ちゃんは納得いってないようだ。確かに俺はダメダメ人間のクズ野郎で世話の掛かる奴だけど、少しは信頼をして欲しい。
「俺が提示した場所じゃ嫌なのかよ?」
「……嫌というか、それじゃあ兄ちゃんにも、その兄ちゃんの知り合いの人にも迷惑掛けちゃうじゃん。それはやっぱり気が引けるよ」
全く知らない他人に迷惑を掛けてしまうのと、知り合いに迷惑を掛けてしまうのだったら、やっぱり後者の方が断然に嫌に決まっている。
「そんなことお前が気にする必要ないだろ」
「き、気にするよっ。それに!もう俺はあそこで働かせてもらえるように頑張るって決めたから……!」
「……ふざけるな。そんな所で働くくらいなら一生働かなくていい。ずっと家に居ろ」
「な、なんで……っ!兄ちゃんだって俺に働けって前から言ってたじゃん」
「それは俺の目が届く範囲での話だ」
―――兄ちゃんの言っていることが分からない。……分からないけど、兄ちゃんがすごく機嫌が悪くて怒っていることだけは分かる。きっと兄ちゃんのことだから俺のことを応援してくれると思っていたのに、……なんでなんだよ。
「…………もうこの話は終わりだ。早く目当ての物買って帰るぞ」
兄ちゃんは思わず震えあがってしまいそうなほど低い声で俺にそう言うと、ブランコの鎖で鉄臭くなった俺の手を乱暴に握ってきた。……こんなにも機嫌の悪い兄ちゃんと対面するのはもしかしたら初めてかもしれない。なんで、……なんでこんなにも怒ってるんだよ。そんなに怒らせること言ったつもりないのに……。
――――すごく、すっごく怖い。
「や、やだ……!!」
「……っ、おい、」
俺は一刻も早く兄ちゃんから離れたくて、全力で兄ちゃんの手を振り払う。そうすれば、まさか俺がこんなことをするとは思っていなかったのか、意外にも簡単に拘束は緩んだ。
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