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十空間目
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しおりを挟む「……ずっと俺のこと嫌いなのかと、忘れてしまったのかと思ってました」
性格的に前向きに捉え続けることができないため、そんな風にマイナスに受け取っては一人で落ち込んでいた。それこそこんな気持ちを味わってしまうくらいなら出会わなければ良かったと思ってしまったくらいだ。……でもそれも全部いらない心配なのだと分かって俺は心底安堵する。
「そんなわけねえだろうが」
「……本当?」
「ああ」
そうすれば神田さんはそれをすぐさま否定してくれた。それがすごく嬉しい。だから俺は神田さんの胸板に埋めた顔を、甘えるようにグリグリと押し付けながら深く息を吸う。
「…………有希」
「なんですか?」
「こっち向け」
「……?」
そうやって神田さんの温もりと匂いを堪能していると、急に頭上から真剣な声で名前を呼ばれて俺は反射的に顔を上げる。
「……ん、っ!?」
その瞬間、神田さんの端正な顔がより近付いてきたかと思えば、……前触れもなくキスをされた。
「ん、ん?……っ、ん」
突然のことに驚くことしかできず俺は目を見開く。だってまさかこんな場所でいきなりキスされるなんて思わないだろ。いくら人気がないといってもどこで誰が見ているか分からない。
「……か、んださ、」
そんな状態で抱き締められながら熱烈なキスをされれば嬉しいという気持ちに浸る以上に、不安が勝ってしまう。いくらサングラスを掛けて帽子を深く被っていようとその芸能人特有の神々しいオーラは消せていない。もし俺のようなデブで不細工な男と神田さんがキスをしているところをスクープされてしまえば、神田さんにとってはかなりの痛手になるだろう。せっかく新事務所を設立して軌道に乗り始めたところなのに、俺なんかのせいでそれを全部無駄にしたくない。
「だ、だめっ、……んっ、や、やめ、」
「……はっ、今更止められるわけねえだろうが」
「ふぅ、っ、んん……っ」
「どれだけ我慢したと思ってるんだよ」
「ん……んっ、んん」
「……足りねえよ。もっと食わせろ」
「ひぁ、あっ……ん、ん、んっ」
高級車に押し付けられるように追いやられ、先程以上に濃厚なキスをされる。分厚くて熱い舌が口内に入ってきたかと思えば、絡め取られるように舌を舐められて上手く息をすることができなくなってしまった。……苦しいはずなのに、だけどそれ以上に酸欠状態もプラスして気持ちが良いと脳が勝手に判断をする。尖らせた舌先で歯列を舐められて上顎を刺激されれば、嫌でも神田さんのキスに溺れてしまう。
「……有希、好きだ」
「ん……ん、んぅ」
……だって俺も神田さんのことが好きだもん。
好きな人にキスをされて喜ばないわけがない。
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