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八空間目
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しおりを挟む「もう絶対に傷付けないから、勝手に俺の前から消えないでくれ」
「…………うん」
「どんなに探しても会えないなんて、もう二度と経験したくない」
傷付けないと言われても帝のことはまだまだ怖い。だけどあんな目に遭わされたというのに、俺は帝のことを嫌いにはなれない。というよりもそういう考えに至ったことすらない。だってどう足掻いても俺たちは血の繋がった兄弟なのだ。そう簡単には嫌いになれやしない。
……でもだからといって兄弟として好きかと問われれば、すごく微妙というか、答えはノーだけれども。だけど俺のことを恋愛感情として好きだと言ってくれた帝に対して、率直にそんなことを言えるわけもなく俺は口を閉じた。
「……ん?なんだこの痕?」
……だけど次の瞬間、俺は嫌でも口を開くこととなった。
「あ?なんだよこれ?」
「……へ?」
「……キスマークか?」
「はぁ?」
俺の首筋をジッと見つめてきたかと思えば、帝はある部分を指でなぞってきた。どうやらその部分にキスマークのような痕が付いているらし。
だけど到底自分では目視できない場所だし、なにより昨夜はキス以上は何もしていないから、そんな痕が付く機会なんてなかったはずだ。身に覚えは全くない。
「蚊に噛まれたのかなぁ。言われてみれば、痒くなってきかも」
「……本当か?」
「本当もなにもそれ以外なにもないよ」
これが本当に神田さんに付けられたキスマークだったとしたらどれほど嬉しいだろうか。だけど悲しいことに、それは絶対に有り得ない。キスをして抱き着いて寝ただけだから、そんな痕が付く時間は一切なかったはずだ。
「ふーん。まあ、とりあえずその言葉を信じるか。後で薬でも塗っとけよ」
「うん、そうする」
自然に帝と話せていることに内心驚きつつも、俺は素直に頷いた。
……もう二度と普通の兄弟のように話すことはないと思っていた。あの仲良かった頃には戻れないと思っていた。だけど数年ぶりにこうして話せて嬉しく思う。
「なに笑ってんだ?」
「……え?いや、まあ、べつに?」
「なんだよ、気持ち悪いな」
「ははっ、相変わらず酷い言い方だな」
「そういう兄貴は相変わらず読めねえ人間だな」
「……それは褒め言葉?」
「違えよ、バーカ」
頬が緩んでいることを指摘されてしまった。
帝が俺に求めているのはこの先なのかもしれない。だけどその好意を俺は受け取ることは一生ないだろう。だって俺たちは兄弟なんだし、それに実質失恋してしまったけれど、俺には好きな人が居るんだ。
だけどそれでも俺の口角は自然と上がってしまった。
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