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六空間目
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しおりを挟む「…お、怒ってるんですか?」
俺のような凡人で、どうでもいい存在から言われた言葉を覚えていたくらいだ。
もしかしたら怒っているか、もしくは傷付いているのかもしれない。
「べつに」
「……判断し難い言葉を返さないでくださいよ」
それでは謝るに謝れないじゃないか。
申し訳なくて少しでも下手に出るように、目線だけで神田さんを見上げれば、神田さんも俺の事を見下ろしていた。
「神田さん…」
「ハァ、世間一般的な目なんて、もうどうだっていいって言ってるんだよ」
「それは、つまり……」
芸能界は辞めるってことだろうか。
……そう思うと少し寂しいような、残念のような複雑な気持ちになる。
本当の人格は置いておいて、神田さんのトークは見ていて面白かったし、演技は同じ男として敬いたくなるくらい格好良かった。
そうか、もう見られないのか。
しょんぼりと、俯いてトボトボ歩いていると。
足を止めていた神田さんから「おい」と声を掛けられた。
「……はい、何ですか?」
「誰も辞めるとは言ってねえだろ」
「えっ、本当ですか!?」
「だからといって、続けるとも言ってねえけどな」
「………そう、ですか」
俺の一喜一憂する様子を見て、ニヤニヤ笑う神田さんは、本当に意地の悪い性格をしている。
「ふっ、バーカ。まあ、暫くは続けるつもりだ」
「……本当に?」
「だって有希は“テレビの中の俺が好き”なんだろ?」
「…………その言い方では語弊がありますけどね」
俺は「どちらが好きだ」と訊ねられたから、渋々答えただけだ。
それでは俺が、『テレビの中の神田さんが大好き!』みたいじゃないか。……まあ、確かにファンだったけれど。
「その内、“俺の全部が好き”だと言わせてやるよ」
「…どんなマニアックな変態ドエム野郎ですか、俺は…」
「ったく、相変わらず上の口は素直じゃねえな。下の口は俺のことが好きだって、痛えくらいに締め付けて、」
「ッ、うわあああああ!ば、馬鹿!」
「うるせえよ」
「う、煩いのは、神田さんです!!」
…他の人達に聞かれたらどうするつもりだ。
猫被りどころか、バイでB専だとバレるぞ!
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