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準備
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親父の運転に揺られること一時間ほど。俺たちは大阪北方にある箕面に訪れていた。
ここは箕面の滝など有名な観光スポットがある地域で、この時期になると川辺でバーベキューや場所によってはニジマス釣りなんかもできるところがあったりする。
懐かしいなここ……。
辺りに映る光景を見渡しながら、俺はそんなことを心の中で呟いた。
このバーベキュー場は昔よく親父や母さん、そして茜の家族と一緒に毎年訪れていた場所だ。
「まさに絶好のバーベキュー日和って感じやな!」
そんな陽気な声と共に車から降りてきたのは快人だ。いつの間に持参していたのか、うちわをパタパタとあおいで気持ちよさそうに涼んでいる。
「アンタそんなこと言うてんとさっさと荷物降ろしてや」
続けて車を降りてきた茜が怖い顔をして快人に向かって言った。
おうおうさっそく火花を散らす二人だなと思っていたら、「翔太もやで!」といきなりこちらにも火の粉が飛んできたので俺も慌てて荷運びを手伝う。……うぅ、ほんと茜さんって怖いよね!
「へぇ、大阪にもこんなところがあるのね」
「わたしも来るのは初めてだよ!」
後部座席から降りてきた白峰と水無瀬さんが辺りを見回しながら言った。バーベキューということもあるのか、珍しく白峰の口調は心なしかいつもより楽しそうだ。
「よーしっ、今日はみんなで思う存分楽しもうじゃないか!」
最後に車から降りてきた親父がやたらとデカい声でそんなことを言う。
なんで親父が一番テンション高いんだよ、と冷めた視線を送りながら快人と共に車から荷物を下ろしていると、再び親父が言った。
「それじゃあ翔太、バーベキューの進行は頼んだぞ」
「え、なんで俺なんだよ」
そのままの勢いで親父が場を仕切るのかと思いきや、今度は突然そんなこと言ってくる相手に俺はすかさず言い返した。
すると親父が意味ありげにニヤリと笑う。
「これも一つのコミュニケーションの特訓だ。せっかくお店で働くスタッフも一緒にいることだし、これからの仲を深める意味でも重要なミッションだぞ」
「……」
なんだか妙に真面目な顔つきでそんなことを言ってくる親父に対して、俺はつい黙り込んでしまう。……というより、コミュニケーションが必要なのは俺よりも茜と白峰の二人だと思うんですけど?
そんなことを思うも親父が言い出したら聞かないことは百も承知なので、俺は小さくため息を吐き出すと仕方なく進行を進める。
「そしたら俺と親父、快人の3人でコンロの準備をするから、茜たちは食材の準備の方を頼む」
「はーいっ、了解です!」
俺の言葉に真っ先に明るい声音と笑顔で返事をしてくれたのは水無瀬さんだ。
そして続く茜と白峰はというと、俺に指示されることは不服なのか「はいはい」といった具合にしぶしぶと頷いている。……いやせめてバーべーキューの時ぐらい素直に頷いてくれても良いんですよ?
そんなことを思うも、もちろん声にして言うわけにはいかないので「じゃあ頼んだ」という俺の言葉を合図に、女子三人組はお肉やら野菜が入ったクーラーボックスを持って近くにある水場へと向かって行った。
「翔太はもう少し女の子たちを盛り上げられるようにならないといけないな」
「……」
ニヤリとした笑みを浮かべたままそんなことを言ってくる親父に、俺はついムッとした表情を浮かべてしまう。
けれどもここで反論すると何だか負けた気がするので、「とりあえず俺たちも準備を始めるか」と快人に向かって言うと自分たちも作業を始めた。
「おい翔太、これどんな風に組み立てたらええんや?」
「どうもこうも見たまんま組み立てたらいいだけだろ」
まずはこうやって脚を連結させてだな、と俺はそんなことを言いながら快人の前で手際よくコンロを組み立てていく。昔はよくここでバーベキューをやっていたので、けっこう間が空いているとはいえ、どうやら組み立て方も身体が覚えているようだ。
そのおかげでコンロはあっという間に完成した。
「さすが翔太やな! 一人でも余裕で組み立てるやん」
「おいちょっと待て。さてはお前、最初から俺に組み立てさせるつもりだったな?」
わざとらしい褒め言葉を送ってくる友人に対して俺は目を細めながら疑いの視線を向ける。……ったく、このお調子者め。あとでコイツには口うるさい茜の相手をしてもらうから覚えとけよ!
「コンロができたら次はテーブルセットの準備だな」
俺の思考を遮るかのように親父はそんなことを言うと、荷物の中から木製で出来た折りたたみ式のテーブルを取り出した。
赤茶の濃淡が特徴的なそのテーブルはアカシア材という木材で作られたもので、シンプルなデザインながら天板にはヘリンボーン調の彫り込みが入っているのがワンポイントでオシャレだ。
ちなみにアカシア材は耐衝撃性や耐久性、それに腐食にも強いので屋外でも活躍する素材である。
「ところで親父、なんでチェアが四つしかないんだよ?」
準備を手伝おうとして折り畳まれたいるチェアを見た瞬間、思わずそんな言葉が出た。
今日のメンバーの顔ぶれを考えると、どう数えても二人分足りない。
「あれ、たしか人数分持ってきたつもりだったんだが」
じゃあ俺と翔太は立ちっぱなしだな、と親父は何が面白いのかわははっと愉快げに笑う。
あの……まさかとは思いますけど、このおっさんもう酔っぱらったりしてませんよね?
ここは箕面の滝など有名な観光スポットがある地域で、この時期になると川辺でバーベキューや場所によってはニジマス釣りなんかもできるところがあったりする。
懐かしいなここ……。
辺りに映る光景を見渡しながら、俺はそんなことを心の中で呟いた。
このバーベキュー場は昔よく親父や母さん、そして茜の家族と一緒に毎年訪れていた場所だ。
「まさに絶好のバーベキュー日和って感じやな!」
そんな陽気な声と共に車から降りてきたのは快人だ。いつの間に持参していたのか、うちわをパタパタとあおいで気持ちよさそうに涼んでいる。
「アンタそんなこと言うてんとさっさと荷物降ろしてや」
続けて車を降りてきた茜が怖い顔をして快人に向かって言った。
おうおうさっそく火花を散らす二人だなと思っていたら、「翔太もやで!」といきなりこちらにも火の粉が飛んできたので俺も慌てて荷運びを手伝う。……うぅ、ほんと茜さんって怖いよね!
「へぇ、大阪にもこんなところがあるのね」
「わたしも来るのは初めてだよ!」
後部座席から降りてきた白峰と水無瀬さんが辺りを見回しながら言った。バーベキューということもあるのか、珍しく白峰の口調は心なしかいつもより楽しそうだ。
「よーしっ、今日はみんなで思う存分楽しもうじゃないか!」
最後に車から降りてきた親父がやたらとデカい声でそんなことを言う。
なんで親父が一番テンション高いんだよ、と冷めた視線を送りながら快人と共に車から荷物を下ろしていると、再び親父が言った。
「それじゃあ翔太、バーベキューの進行は頼んだぞ」
「え、なんで俺なんだよ」
そのままの勢いで親父が場を仕切るのかと思いきや、今度は突然そんなこと言ってくる相手に俺はすかさず言い返した。
すると親父が意味ありげにニヤリと笑う。
「これも一つのコミュニケーションの特訓だ。せっかくお店で働くスタッフも一緒にいることだし、これからの仲を深める意味でも重要なミッションだぞ」
「……」
なんだか妙に真面目な顔つきでそんなことを言ってくる親父に対して、俺はつい黙り込んでしまう。……というより、コミュニケーションが必要なのは俺よりも茜と白峰の二人だと思うんですけど?
そんなことを思うも親父が言い出したら聞かないことは百も承知なので、俺は小さくため息を吐き出すと仕方なく進行を進める。
「そしたら俺と親父、快人の3人でコンロの準備をするから、茜たちは食材の準備の方を頼む」
「はーいっ、了解です!」
俺の言葉に真っ先に明るい声音と笑顔で返事をしてくれたのは水無瀬さんだ。
そして続く茜と白峰はというと、俺に指示されることは不服なのか「はいはい」といった具合にしぶしぶと頷いている。……いやせめてバーべーキューの時ぐらい素直に頷いてくれても良いんですよ?
そんなことを思うも、もちろん声にして言うわけにはいかないので「じゃあ頼んだ」という俺の言葉を合図に、女子三人組はお肉やら野菜が入ったクーラーボックスを持って近くにある水場へと向かって行った。
「翔太はもう少し女の子たちを盛り上げられるようにならないといけないな」
「……」
ニヤリとした笑みを浮かべたままそんなことを言ってくる親父に、俺はついムッとした表情を浮かべてしまう。
けれどもここで反論すると何だか負けた気がするので、「とりあえず俺たちも準備を始めるか」と快人に向かって言うと自分たちも作業を始めた。
「おい翔太、これどんな風に組み立てたらええんや?」
「どうもこうも見たまんま組み立てたらいいだけだろ」
まずはこうやって脚を連結させてだな、と俺はそんなことを言いながら快人の前で手際よくコンロを組み立てていく。昔はよくここでバーベキューをやっていたので、けっこう間が空いているとはいえ、どうやら組み立て方も身体が覚えているようだ。
そのおかげでコンロはあっという間に完成した。
「さすが翔太やな! 一人でも余裕で組み立てるやん」
「おいちょっと待て。さてはお前、最初から俺に組み立てさせるつもりだったな?」
わざとらしい褒め言葉を送ってくる友人に対して俺は目を細めながら疑いの視線を向ける。……ったく、このお調子者め。あとでコイツには口うるさい茜の相手をしてもらうから覚えとけよ!
「コンロができたら次はテーブルセットの準備だな」
俺の思考を遮るかのように親父はそんなことを言うと、荷物の中から木製で出来た折りたたみ式のテーブルを取り出した。
赤茶の濃淡が特徴的なそのテーブルはアカシア材という木材で作られたもので、シンプルなデザインながら天板にはヘリンボーン調の彫り込みが入っているのがワンポイントでオシャレだ。
ちなみにアカシア材は耐衝撃性や耐久性、それに腐食にも強いので屋外でも活躍する素材である。
「ところで親父、なんでチェアが四つしかないんだよ?」
準備を手伝おうとして折り畳まれたいるチェアを見た瞬間、思わずそんな言葉が出た。
今日のメンバーの顔ぶれを考えると、どう数えても二人分足りない。
「あれ、たしか人数分持ってきたつもりだったんだが」
じゃあ俺と翔太は立ちっぱなしだな、と親父は何が面白いのかわははっと愉快げに笑う。
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