33 / 50
水無瀬さん家 〜その2〜
しおりを挟む「「おぉっ」」
二度目の衝撃は、先ほどこの家に足を踏み入れた時よりも大きかった。
さすがデンマークの血筋を持つ水無瀬さんの部屋というだけあって、そこに広がる光景はもはや高校生とは思えないほどハイセンスなものだった。
明らかに俺の部屋よりも広い空間には廊下と同じくオーク材のフローリング、そして左手の壁には外壁と同じブルーグレーのアクセントカラーが入っていてすでにこれだけでも北欧感がすごい。
さらには床材と同じオーク材で作られたベッドや勉強机、それにチェストはシンプルなデザインながらも洗礼された美しさがあり、長年大切に使われていることがわかるぐらいに木目も赤みがかかって経年変化している。
ちなみにチェストの上には写真立てやフレグランスなどの小物がバランス良く飾られているのでもはやそのセンスに感無量の一言。
まるでデンマークの部屋に訪れたかのような空間に一人大興奮していると、「うっ」と隣で茜が何やら悔しそうな声を漏らした。
「ま……まあまあオシャレやな」
「……」
うわー、コイツほんと負けず嫌いなやつだな。
素直に水無瀬さんのセンスを認めようとはしない幼なじみに俺は思わずジト目を向けてしまう。
まあ一応インテリアショップで働く店員として茜もそこは譲れないのだろう。
「たしかにまあまあね」
「おいっ、お前がそのセリフを言うか」
茜と同じく何故か対抗心を燃やしてきた白峰に向かって今度はつい反論してしまった。
するとすぐさま「何か問題でも?」と鋭い声音と視線が返ってきたので、チキンな俺はすいませんと言ってすぐに目を逸らしてしまう……ってほんと情けないなオイ。
そんなバカなやり取りを俺たちがしていたら、部屋の中を歩き始めた水無瀬さんが再び口を開いた。
「この机が汚れちゃったんだけど綺麗に戻せるかな?」
先ほどまでの明るい声音とは違い、少ししゅんとした口調で尋ねてきた水無瀬さん。その視線の先には教科書やノートなどが綺麗に整理整頓された勉強机がある。
そして机の天板を見てみると、たしかに一部分だけ輪っかのような染みが付いていた。
「あー『輪染み』ができちゃったのか」
「輪染み?」
俺の言葉を聞いて白峰と水無瀬さんが首を傾げた。
輪染みとは、木材の家具に水気のあるものを置いた時に付いてしまう染みのことだ。よく起こってしまうのは、ダイニングテーブルの上にコースターを使わずにコップを直接置いてしまい出来てしまうこと。
だからお店でもテーブルを販売する時にはそういった注意点も必ず説明するようにしている。
「やっぱり綺麗に戻すのは難しいかな?」
不安げな表情でそんなことを尋ねてくる水無瀬さん。
俺はそんな彼女のもとまで近づくと、指先で机の天板にそっと触れてみた。
「……いや、この勉強机は見たところ無垢材のオイル仕上げだからこれぐらいの輪染みなら綺麗に消すことができるぞ」
「ほんとに?」
俺の言葉に、水無瀬さんの表情がパッと明るくなる。そんな彼女に「ああ」と答えると、俺は手にしていた紙袋の中から紙ヤスリを取り出した。
「そんなもの何に使うの?」
「まあ見てろって」
今度は白峰からの質問にそう答えると、俺は躊躇なくその紙ヤスリで輪染みのついた天板を擦っていく。
「こうやって削ってると染みが徐々に消えてきて……」
そんなことを話しながら紙ヤスリで天板を削っていくと輪染みは少しずつ薄くなっていき、そして最後はほとんど目立たないぐらいにまで消えてしまった。
「すごい! 本当に綺麗になった!」
「へぇ、こんなメンテナンスの方法があるのね」
俺の作業を後ろで見ていた水無瀬さんと白峰が驚きの声をあげる。
ふふふ、どうだ見ただろ。これが磨きに磨き上げてきた俺のスキルの一つ、その名もペーパーサンド……。
「ちょっと翔太、紙やすりで削ったら終わりちゃうで」
「はいはいわかってますよ」
頭の中でオタクの快人みたいに決め台詞を考えていたら、隣から茜の邪魔が入ってきてしまい俺はすぐさま冷静に戻る。
そして今度は紙袋から布切れと一本のボトルを取り出した。
「これは何に使うの?」
ボトルを開けてその中身を布巾に染み込ませていると、またも水無瀬さんが不思議そうな声で尋ねてきた。
「これはオイル塗装の家具をメンテナンスする時に使う植物性のオイルだよ。これを塗ってあげることで乾燥によるひび割れを防いだり、木目のツヤ感を綺麗に保つことができるんだ」
「へぇ、そんなのがあるんだぁ」
俺の話しに水無瀬さんが興味津々といった具合にふむふむと頷いている。
天然木の家具は温度や湿度の変化に弱く、特にオイル仕上げやソープ仕上げといった家具はこういったメンテナンスを定期的に行うことが大切なのだ。
オイルを塗りこました布切れで机を拭いて手際よく作業を進めていると、何やら水無瀬さんがその青い瞳を輝かせながら俺のことを見つめてくる。
「こんなことできるとか、萩原くんってカッコいいね!」
「ああ、家具のことなら任せてくれ。困ったことがあればいつだって水無瀬さんの家に飛んでくるから」
クラスのアイドルである水無瀬さんが誉めてくれたので、俺はここぞとばかりにサムズアップを決める。
と、その直後。視界の隅で茜と白峰がやたらと怖い目で睨んでくることに気づいてしまい、俺はビビってそっと親指を降ろしたのだった。
7
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
今日はパンティー日和♡
ピュア
ライト文芸
いろんなシュチュエーションのパンチラやパンモロが楽しめる短編集✨
おまけではパンティー評論家となった世界線の崇道鳴志(*聖女戦士ピュアレディーに登場するキャラ)による、今日のパンティーのコーナーもあるよ💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる