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小さな変化
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水無瀬さんがお店にやってくるというレアな体験をした翌朝、俺は普段と同じような態度で学校へと登校していた。
そして教室に着いてから自分の席に座ろうとした瞬間、
「あっ、おはよう萩原くん!」
昨日お店で聞いたばかりの人懐っこい声が耳元まで届いてきて、俺はハッとして顔を上げる。
すると視線の先に映るのは、仲の良い友達に囲まれながらこちらに向かって手を振っている水無瀬さんだ。
「お、おはよう」
今まで水無瀬さんから名だしで挨拶されたことがなかった俺はついぎこちない口調で返事をしてしまう。
そしてそのまま再び席に座ろうとした瞬間、今度はバシンと背中を叩かれた。
「いってーな! いきなり何すんだよ」
思わずそんな声を上げて後ろを振り返れば、そこにいるのはニヤニヤとした笑みでこちらを見下ろしている快人だった。
「なんや翔太、ついに姫奈ちゃん狙いになったんか?」
「ばか、ただ挨拶してただけだろ」
「ただ挨拶しただけって、今まで姫奈ちゃんとまともに挨拶なんかしてなかったやん」
「いやまあそうなんだけど……」
余計なところだけ勘が鋭いようで、快人の指摘に俺はつい言葉を濁してしまう。
何だか面倒なことになりそうだと思いながらも、このままだと快人が好き勝手にあらぬ誤解をかけてきそうだと危惧した俺は、昨日の出来事についてしぶしぶながらも話しをした。
すると案の定……。
「お前! なんでそんな楽しそうなイベントに俺を呼んでくれへんかってん!」
「いやなんでお前をわざわざ呼ばなきゃいけないんだよ」
声を上げてそんなバカなことを言ってくる相手に、俺は呆れ返った口調で言い返す。
「だいたいお前が店にくるといつも茜とぎゃーぎゃー言い争ってるからうるさいんだよ」
「いやいや、それは俺のせいやなくてお前の幼なじみが口うるさく文句を言ってくるからやろ」
俺の反論に、今度はうげーとした表情でそんなことを言い返してくる快人。
幼なじみ同士の俺と茜がコンシェルジュで働いていることはもちろん快人も知っていて、以前はよく冷やかしがてらお店に顔を出しに来ていたのだが、コイツが来るたびに茜が怒っていたので最近はあまり来ることが無くなったのだ。
互いにコテコテの大阪弁を話す二人なので気が合うのかと思いきや、同じ関西人でも相性というものは存在するらしい。
まあそのおかげで快人が冷やかしに来なくなったので良かったが、なんてことをぼんやりと考えながらチラリと窓際の方を見た時だった。
先ほどまで友達と話していた水無瀬さんが珍しく白峰の方へと近づいていく姿が見えた。
フレンドリーな水無瀬さんのことなので、おそらく昨日のことについて話しでもするつもりなのだろう。
白峰のやつ、ちゃんと話せるのかな……。
俺は窓際の方を見つめながらついそんなことを思ってしまう。
いつもの白峰なら誰かに話しかけられても冷たく返しているのだが、日々接客を指導している俺からすれば、できれば学校でも愛想良くみんなと接してほしいところ。
果たしてどうなのか、と先行きを見守っていると水無瀬さんが白峰の肩をポンポンと叩いて声をかけた。
緊張の一瞬に、思わずゴクリと唾を飲み込んでしまう。
その直後、視線の先にいる白峰がふっと顔を上げ、そしてぽつりぽつりとではあるが水無瀬さんと話し始めた姿を見て俺はほっと息を吐き出すのであった。
そして教室に着いてから自分の席に座ろうとした瞬間、
「あっ、おはよう萩原くん!」
昨日お店で聞いたばかりの人懐っこい声が耳元まで届いてきて、俺はハッとして顔を上げる。
すると視線の先に映るのは、仲の良い友達に囲まれながらこちらに向かって手を振っている水無瀬さんだ。
「お、おはよう」
今まで水無瀬さんから名だしで挨拶されたことがなかった俺はついぎこちない口調で返事をしてしまう。
そしてそのまま再び席に座ろうとした瞬間、今度はバシンと背中を叩かれた。
「いってーな! いきなり何すんだよ」
思わずそんな声を上げて後ろを振り返れば、そこにいるのはニヤニヤとした笑みでこちらを見下ろしている快人だった。
「なんや翔太、ついに姫奈ちゃん狙いになったんか?」
「ばか、ただ挨拶してただけだろ」
「ただ挨拶しただけって、今まで姫奈ちゃんとまともに挨拶なんかしてなかったやん」
「いやまあそうなんだけど……」
余計なところだけ勘が鋭いようで、快人の指摘に俺はつい言葉を濁してしまう。
何だか面倒なことになりそうだと思いながらも、このままだと快人が好き勝手にあらぬ誤解をかけてきそうだと危惧した俺は、昨日の出来事についてしぶしぶながらも話しをした。
すると案の定……。
「お前! なんでそんな楽しそうなイベントに俺を呼んでくれへんかってん!」
「いやなんでお前をわざわざ呼ばなきゃいけないんだよ」
声を上げてそんなバカなことを言ってくる相手に、俺は呆れ返った口調で言い返す。
「だいたいお前が店にくるといつも茜とぎゃーぎゃー言い争ってるからうるさいんだよ」
「いやいや、それは俺のせいやなくてお前の幼なじみが口うるさく文句を言ってくるからやろ」
俺の反論に、今度はうげーとした表情でそんなことを言い返してくる快人。
幼なじみ同士の俺と茜がコンシェルジュで働いていることはもちろん快人も知っていて、以前はよく冷やかしがてらお店に顔を出しに来ていたのだが、コイツが来るたびに茜が怒っていたので最近はあまり来ることが無くなったのだ。
互いにコテコテの大阪弁を話す二人なので気が合うのかと思いきや、同じ関西人でも相性というものは存在するらしい。
まあそのおかげで快人が冷やかしに来なくなったので良かったが、なんてことをぼんやりと考えながらチラリと窓際の方を見た時だった。
先ほどまで友達と話していた水無瀬さんが珍しく白峰の方へと近づいていく姿が見えた。
フレンドリーな水無瀬さんのことなので、おそらく昨日のことについて話しでもするつもりなのだろう。
白峰のやつ、ちゃんと話せるのかな……。
俺は窓際の方を見つめながらついそんなことを思ってしまう。
いつもの白峰なら誰かに話しかけられても冷たく返しているのだが、日々接客を指導している俺からすれば、できれば学校でも愛想良くみんなと接してほしいところ。
果たしてどうなのか、と先行きを見守っていると水無瀬さんが白峰の肩をポンポンと叩いて声をかけた。
緊張の一瞬に、思わずゴクリと唾を飲み込んでしまう。
その直後、視線の先にいる白峰がふっと顔を上げ、そしてぽつりぽつりとではあるが水無瀬さんと話し始めた姿を見て俺はほっと息を吐き出すのであった。
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