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お邪魔します……
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学校から帰宅する頃はまだ真上で輝いていた太陽は、俺が店を出た時には少し西に傾き始めていた。
ほんのりと赤みを帯びた住宅街の道を歩いていると、犬の散歩をしているおじーちゃんや小さな公園で無邪気な笑い声上げて遊んでいる小学生たちの姿が映る。
そしてそんないつもと変わらない日常の風景を眺めていた後、今度はチラリと隣を見てみれば――
「……」
視界に映るのは、無表情で無口なままの白峰さんだ。
なんでこうなるんだよ……。
俺は心の中でついそんなそことを呟き、ため息を吐き出してしまう。
そう。自分は今、親父の迷惑極まりない狂言のせいで彼女の家へと向かっているのだ。
通い慣れた道も誰と歩くかによってデスロードに見えてくるんだな、なんてことを絶望しながら俺は半歩早く歩く白峰の隣を同じく無言のままでついて行く。
その間頭の中に浮かんでくるのは、つい先ほどの店でのやり取りだ。
テーブルを買いにきたと主張する白峰に対して、それだったら俺が下見に行けばいいと気軽に言い出した親父。
そんな親父の提案を聞いて、いくら下見とはいえ同級生の男子が家に来ることなんて絶対に嫌がるだろうと期待していた俺だったのだが、予想に反して白峰からは「別に構わない」とまさかの恐ろしいお言葉を頂いてしまったのだ。
というより……俺なんかが白峰の家に行って本当に大丈夫なのか?
ふとそんな不安が頭の中によぎり、今度はゴクリと唾を飲み込んでしまう。
だってそうだろ。テーブルを買いに行ったはずの娘が帰ってきたら何故か男を連れてきました、ってどう考えても意味不能過ぎるし、もし俺が父親なら「誰だその男は!」と怒鳴り声を上げてぶっ飛ばすかもしれない。
つまり俺は今から白峰の父親から殴られるのか? なんてことを青ざめて考えていたら、目の前に見えてきたのはまるでバベルの如く聳え立っているタワーマンションだ。
そして白峰はというと、何の躊躇もなくそのマンションの入り口へと向かっていくではない
か。
「……マジかよ」
マンション入り口でカードキーを取り出している白峰の後方で、俺は頭上を見上げながら思わず呟いた。まあ確実に五十階以上はありますよねこちらの物件。
「し、白峰の家ってけっこうお金持ちなんだな」
「……そうね」
自動ドアをくぐり抜ける白峰の背中に向かってそんなことを尋ねれば、素っ気ない口調で返事が返ってくる。
これはいよいよぶっ飛ばされる可能性が濃厚になってきたと、サングラスに金のネックレスをつけた白峰の父親の姿を想像しながら、重圧感たっぷりのエレベーターに閉じ込められることほんの十数秒。
チン、と間の抜けた音と共に開いた扉を抜けてふかふかの絨毯が敷き詰められた廊下を歩いていくと、白峰が3605号という部屋番の前で立ち止まった。
「ここが私の家よ」
「……」
正直、緊張のあまりすでにチビりそうだった。
今までもお客さんの家に初めて訪れる時は緊張したが、今回はそんな比ではない。
俺が感じるプレッシャーも尿意も一切知らない白峰は淡々とした様子で再びカードキーを取り出すと、それをドアの取っ手にかざしてロックを解除した。
「お、お邪魔しますぅ……」
ドアが開いた瞬間、俺はつい引け腰で挨拶をしてしまう。
目の前に現れた廊下は薄暗く、誰かがいる気配もなければ声が返ってくる様子もない。どうやらラッキーなことに、白峰の親は留守にしているらしい。
パッと自動でついた玄関の灯りの下、白峰は丁寧な手つきで靴を脱ぐと先に廊下へと上がり、「どうぞ」と今度は俺の方を一瞥してきた。
「し、失礼します!」
そう言って俺は慌てて玄関に入り靴を脱ぐと、白峰と同じように廊下へと上がる。その間白峰が家の中の電気をつけてくれたのだが、もはや気分はお化け屋敷に入った時のような不安と恐怖しかない。
だがしかし。そんな感情は白峰に続いてリビングに足を踏み入れた瞬間、すぐに吹き飛ばされた。
ほんのりと赤みを帯びた住宅街の道を歩いていると、犬の散歩をしているおじーちゃんや小さな公園で無邪気な笑い声上げて遊んでいる小学生たちの姿が映る。
そしてそんないつもと変わらない日常の風景を眺めていた後、今度はチラリと隣を見てみれば――
「……」
視界に映るのは、無表情で無口なままの白峰さんだ。
なんでこうなるんだよ……。
俺は心の中でついそんなそことを呟き、ため息を吐き出してしまう。
そう。自分は今、親父の迷惑極まりない狂言のせいで彼女の家へと向かっているのだ。
通い慣れた道も誰と歩くかによってデスロードに見えてくるんだな、なんてことを絶望しながら俺は半歩早く歩く白峰の隣を同じく無言のままでついて行く。
その間頭の中に浮かんでくるのは、つい先ほどの店でのやり取りだ。
テーブルを買いにきたと主張する白峰に対して、それだったら俺が下見に行けばいいと気軽に言い出した親父。
そんな親父の提案を聞いて、いくら下見とはいえ同級生の男子が家に来ることなんて絶対に嫌がるだろうと期待していた俺だったのだが、予想に反して白峰からは「別に構わない」とまさかの恐ろしいお言葉を頂いてしまったのだ。
というより……俺なんかが白峰の家に行って本当に大丈夫なのか?
ふとそんな不安が頭の中によぎり、今度はゴクリと唾を飲み込んでしまう。
だってそうだろ。テーブルを買いに行ったはずの娘が帰ってきたら何故か男を連れてきました、ってどう考えても意味不能過ぎるし、もし俺が父親なら「誰だその男は!」と怒鳴り声を上げてぶっ飛ばすかもしれない。
つまり俺は今から白峰の父親から殴られるのか? なんてことを青ざめて考えていたら、目の前に見えてきたのはまるでバベルの如く聳え立っているタワーマンションだ。
そして白峰はというと、何の躊躇もなくそのマンションの入り口へと向かっていくではない
か。
「……マジかよ」
マンション入り口でカードキーを取り出している白峰の後方で、俺は頭上を見上げながら思わず呟いた。まあ確実に五十階以上はありますよねこちらの物件。
「し、白峰の家ってけっこうお金持ちなんだな」
「……そうね」
自動ドアをくぐり抜ける白峰の背中に向かってそんなことを尋ねれば、素っ気ない口調で返事が返ってくる。
これはいよいよぶっ飛ばされる可能性が濃厚になってきたと、サングラスに金のネックレスをつけた白峰の父親の姿を想像しながら、重圧感たっぷりのエレベーターに閉じ込められることほんの十数秒。
チン、と間の抜けた音と共に開いた扉を抜けてふかふかの絨毯が敷き詰められた廊下を歩いていくと、白峰が3605号という部屋番の前で立ち止まった。
「ここが私の家よ」
「……」
正直、緊張のあまりすでにチビりそうだった。
今までもお客さんの家に初めて訪れる時は緊張したが、今回はそんな比ではない。
俺が感じるプレッシャーも尿意も一切知らない白峰は淡々とした様子で再びカードキーを取り出すと、それをドアの取っ手にかざしてロックを解除した。
「お、お邪魔しますぅ……」
ドアが開いた瞬間、俺はつい引け腰で挨拶をしてしまう。
目の前に現れた廊下は薄暗く、誰かがいる気配もなければ声が返ってくる様子もない。どうやらラッキーなことに、白峰の親は留守にしているらしい。
パッと自動でついた玄関の灯りの下、白峰は丁寧な手つきで靴を脱ぐと先に廊下へと上がり、「どうぞ」と今度は俺の方を一瞥してきた。
「し、失礼します!」
そう言って俺は慌てて玄関に入り靴を脱ぐと、白峰と同じように廊下へと上がる。その間白峰が家の中の電気をつけてくれたのだが、もはや気分はお化け屋敷に入った時のような不安と恐怖しかない。
だがしかし。そんな感情は白峰に続いてリビングに足を踏み入れた瞬間、すぐに吹き飛ばされた。
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