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親父、その提案はマジで勘弁してくれ。

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「翔太、今戻った――おっ、これはまた随分と可愛いお客さんが来てるじゃないか」

 そんな呑気な言葉と共に現れたのは、佐々木さんの家にスツールを届けに行っていた親父だった。どうやら約束通り早めに戻ってきてくれたらしい。
 俺たちの状況を一切知らない親父はニコニコと人懐っこい笑顔を浮かべながらこちらへと近づいてくる。

「もしかして翔太の友達が遊びにきてくれたのか?」

「いや友達っていうか……」

 親父の問いかけに、俺は思わず苦笑いを浮かべしまう。
 白峰が俺と同じ学校の制服を着ているのを見てそう思ったのだろう。
 けれども残念ながら俺には美少女の友達なんていないし、それにコイツとは友達になりたいとも思わない。

 とりあえず親父の登場によってさすがの白峰もこれで冷やかしはできないだろうとホッと安堵していたら、目の前にいる相手が再び口を開く。

「違います。私はただテーブルを買いにきただけです」

「……」

 どうやら白峰は相手が大人でも強気な口調は変わらないらしい。っというよりコイツ、冷やかしじゃなくてマジでテーブル買いに来たんだな。

 さすがの親父もまさか高校生の女の子相手にそんなことを言われるなんて思わなかったようで、珍しくきょとんとした表情を浮かべていた。かと思えば、いきなり豪快に笑い始めた。

「わっはは! 最近の高校生は随分とお金持ちだな。俺がガキの頃なんて友達とうまい棒どれだけ買えるか競い合ってた時代だぞ」

「いやそれも意味わかんないから!」

 白峰相手でもいつもの調子でボケをかましてくる親父。ダメだ、救世主の登場かと期待したけどどうやら使い物にならないらしい。

 このままだと余計ややこしい展開になりそうだと思った俺は、ここは心を鬼にして白峰に対してハッキリと告げる。

「いいか白峰。テーブルを買うっていってもデザインにサイズ、それに素材とか塗装方法とか選ぶ上で大切なポイントがたくさんあるんだよ。だから適当に決めていいものじゃないし、買うからには自分の家にとって本当に合った物じゃなきゃダメだ」

 俺は白峰の目を真っ直ぐに見つめながら真剣な声音で言った。

 実際、家具を買うときには考えなければいけないことがいくつもある。

 先に挙げたポイントもそうだが、その家具を置くことによって自分たち家族の生活がどう変わるのか、あるいはどんな生活がしたいのかまでしっかりとイメージできなければ、どれだけオシャレな家具を買ったところでただの宝の持ち腐れになってしまう。
 そうなってしまっては買った本人だけでなく、買ってもらった家具たちだって可哀想だ。

 そんな俺の想いが少しは相手にも届いのか、白峰は何も反論せずただ黙ったままこちらを見つめてくる。

「たしかに翔太の言う通りだ。どんな家具も買い手が求める生活とその家具が持つ魅力とがマッチしてこそ初めて理想のコーディネートが完成する。たとえ椅子一脚、いやお皿の一枚だって適当に選んでしまうことほど、インテリア好きな人間にとってこれほど悲しいことはない」

「親父……」

 俺の想いを汲み取って珍しく真面目な表情でそんなことを話し出した親父に、俺はつい声を漏らしてしまう。
 
 本当に心豊かな生活を求めるのであれば、家具は愛情を持って選ばなければいけない。

 いつも自分にそう教えてくれるのは、長い間そんな志を持って家具を販売してきた俺の両親だ。
 普段はちゃらんぽらんな印象もあるが、やはり締めるべきところはしっかりと締めてくれるんだな、と息子の俺が感心していたら、親父は真面目な顔つきで話しを続ける。

「だからこそ翔太、お前の出番だ。お前がその子の家に行ってどんなテーブルがピッタリ合うのか見てやれば問題ないだろう」

「ああそうだな、俺もそれが一番無難だと思……って、ちょっと待ってッ⁉︎」

 お父さんっ⁉︎  と俺は思わず目を見開いて親父のことを凝視した。
 真面目なことを話しているのかと思いきや、この人いきなり何言っちゃってるのッ⁉︎

 突然の爆弾発言に驚愕の表情を浮かべて固まっていると、何故か親父は「わははっ」と愉快げに笑う。

「そんなに慌てることはないだろ。翔太もたまにお客さんの家に行ってどんな家具が合うのか下見してくるじゃないか」

「いやそうだけど、今回は事情が違って……」

 たしかに親父の言う通り、俺もこの店で働く一人のスタッフとしてどんな家具が合うのかお客さんの家に下見で訪れることはある。
 けれどもそれはあくまで仲の良いご近所さんの場合であって、見ず知らずの人の家にいきなり行ったことはない。
 ましてや相手はクラスメイトの女の子であの白峰華煉だ。男子が家に訪れるなど、ビンタどころかマジで刺し殺される未来しか浮かばない。

 そんなことを考えて怯えていると、親父との会話を聞いて何を思っているのか相変わらず感情が読めない無表情のまま黙り込んでいる白峰。

 早いとこ前言撤回してくれという意味も込めて親父の方をギロリと睨めば、親父はもうその気なのかニカッと笑ってサムズアップしてくる始末。

 初対面でビンタをかます白峰もたいがいだが、どうやらウチの親父の頭もかなりぶっ飛んでいたらしい。
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