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第109話 5000km³ を超える体積について
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生暖かい潮風が吹いていた。
空を覆い隠している分厚い雲から落ちてくる雨の質量が、肌に当たると分かるくらいに少しずつ増えてきている。
海上は地獄絵図さながらに荒れ始め、ところどころに渦潮が発生していた。
旗艦ポラリスは、時折襲ってくる片波に攫われ、船体が90度近く傾くこともあるが、ペンギンの圧倒的な演算能力と神技的な操舵技術により、ロール状になる波の中を滑っていた。
伝説の波乗りペンギンと自負するだけのことはある。
私は落下防止用の手摺りに掴まり、もう一つの片手で指揮棒を振るうペンギンを抱きかかえ、時折、風に吹かれているような状態になっていた。
風になびく旗を見ていると気持ちよさそうにしているように思えていたが、実際に旗の立場になってみると、そうでもないのだとよく分かる。
見るとやるとでは大違いとはこのことなのかしら。
甲板の上には、既に7、8kmは引き離されている木目模様の綺麗な流線型をした船の立体フォログラム映像が映し出されている。
漂流者達が閉じ込められ、イムセティと契約した緋色が呼び寄せたラーの軍船だ。
クラーケン達の攻撃をすり抜け、淡々とした感じで地上世界へ進んでいたが、今は荒れ狂う波によりコントロールを失っていた。
海上にはクラーケン達の姿はない。深海へ退避してしまったようだ。
ペンギンが深海から上がってきているヨムンガルドについて獲得した情報を報告してきた。
「三華月様。ヨムンガルドの全長は約400km。体積は5000km³ を超えるようです。」
「海底1万mにて、体積が5000km³ を超える物体が動くだけで、海面は大惨事になるということですか。」
「はい。既に推察されているようですが、5000km³ を超える物体が海面へ上がってきたとしたら、ここは今以上の地獄のような状態になってしまいます。」
「この状況も大概かと思いますが、実際にポラリスはこの難局を乗り切れるのでしょうか?」
「三華月様。私の操舵技術をもってしても、
残念ながら現状況下を凌ぐのが精一杯です。
「つまり、ヨムンガルドがこのまま上昇し続けてきたら、もたないということですか。とはいうものの、ポラリスが沈没してしまったとしても、ペンギンさんの場合は海を泳げるので問題ないでしょう。私についても、スキル『壁歩』で海上を歩けるので、とりあえずは大丈夫です。」
「三華月様。ポラリスが沈没してしまうと、帝国から受けた七武諸島に物資を運ぶというクエストを失敗してしまうことになりますが、本当にそれでよろしのですか!」
「そうでした。確かに、それはまずい。」
「はい。クエストを失敗し、七武列島の者が餓死してしまうと、三華月様の信仰心が下がるかもしれません。」
「今更ながらにですが、深海から昇ってきているヨムンガルドをなんとかする必要性があるものと認識しました。」
「やはり、ポラリスが転覆寸前なこの状況において、何も考えることなくのほほんとされていたのですね。」
「…。」
はい。図星です。
本当は、ラスボスみたいなヨムンガルドが深海から昇ってきたとしても、軍船が無事に地上世界に戻ってくれたら問題ないと呑気にしていた。
ペンギンから指摘されたとおり、ポラリスがいつ横転し、七武列島へ物資を届けるクエストに失敗してしまう事態は避けなければならない。
とはいうものの、月の加護が受けられない時間帯である私には、ヨムンガルド本体をどうにかする事は出来ない。
「三華月様。約8km先にいる軍船をなんとかするしかないのではありませんか。」
「ペンギンさんは、ヨムンガルドが深海から上がってきている原因が、あの軍船にあると考えているわけですね。」
「はい。現状況からの推測になりますが、それ以外には考えられません。」
「何とかするといっても、軍船には漂流者達が乗っており、破壊することはできません。」
「はい。軍船を航行不能な状態にすれば良いかと思います。」
「軍船を航行不能な状態ですか。」
「三華月様。既に軍船のエンジン動力部分の場所を割り出しております。ここから撃ち抜いてはいかがでしょう。」
「さすがペンギンさんです。そうですね。ここから軍船のエンジンを狙い撃たせてもらいましょう。」
「最も耐久値のダマスカス鋼を撃ち抜くには、物干し竿を使用してはいかがでしょう。」
物干し竿か。
月の加護を得て絶対回避の効果を持っているアダマンタイト装甲を破壊した運命の矢のことだ。
それを使用すれば耐久値の高い金属といえども、簡単に貫通することができるだろう。
ペンギンが造りだしている立体フォログラム映像に映る軍船の船尾に、『Engine』と書かれた文字が現れている。
あそがエンジンだというのか。
距離にして約8km。
「ペンギンさん。ここから軍船のエンジン室を撃ち抜きます。」
私はスキル『ロックオン』を発動します。
もう一つ。足場が悪いという問題がある。
この荒れ狂う海の中を航行する甲板から狙い撃つには、標的を『ロックオン』している状態でも難しい。
あまりやりたくはないが、ここは静止した時間の中で撃ち抜かさせてもらいましょう。
空を覆い隠している分厚い雲から落ちてくる雨の質量が、肌に当たると分かるくらいに少しずつ増えてきている。
海上は地獄絵図さながらに荒れ始め、ところどころに渦潮が発生していた。
旗艦ポラリスは、時折襲ってくる片波に攫われ、船体が90度近く傾くこともあるが、ペンギンの圧倒的な演算能力と神技的な操舵技術により、ロール状になる波の中を滑っていた。
伝説の波乗りペンギンと自負するだけのことはある。
私は落下防止用の手摺りに掴まり、もう一つの片手で指揮棒を振るうペンギンを抱きかかえ、時折、風に吹かれているような状態になっていた。
風になびく旗を見ていると気持ちよさそうにしているように思えていたが、実際に旗の立場になってみると、そうでもないのだとよく分かる。
見るとやるとでは大違いとはこのことなのかしら。
甲板の上には、既に7、8kmは引き離されている木目模様の綺麗な流線型をした船の立体フォログラム映像が映し出されている。
漂流者達が閉じ込められ、イムセティと契約した緋色が呼び寄せたラーの軍船だ。
クラーケン達の攻撃をすり抜け、淡々とした感じで地上世界へ進んでいたが、今は荒れ狂う波によりコントロールを失っていた。
海上にはクラーケン達の姿はない。深海へ退避してしまったようだ。
ペンギンが深海から上がってきているヨムンガルドについて獲得した情報を報告してきた。
「三華月様。ヨムンガルドの全長は約400km。体積は5000km³ を超えるようです。」
「海底1万mにて、体積が5000km³ を超える物体が動くだけで、海面は大惨事になるということですか。」
「はい。既に推察されているようですが、5000km³ を超える物体が海面へ上がってきたとしたら、ここは今以上の地獄のような状態になってしまいます。」
「この状況も大概かと思いますが、実際にポラリスはこの難局を乗り切れるのでしょうか?」
「三華月様。私の操舵技術をもってしても、
残念ながら現状況下を凌ぐのが精一杯です。
「つまり、ヨムンガルドがこのまま上昇し続けてきたら、もたないということですか。とはいうものの、ポラリスが沈没してしまったとしても、ペンギンさんの場合は海を泳げるので問題ないでしょう。私についても、スキル『壁歩』で海上を歩けるので、とりあえずは大丈夫です。」
「三華月様。ポラリスが沈没してしまうと、帝国から受けた七武諸島に物資を運ぶというクエストを失敗してしまうことになりますが、本当にそれでよろしのですか!」
「そうでした。確かに、それはまずい。」
「はい。クエストを失敗し、七武列島の者が餓死してしまうと、三華月様の信仰心が下がるかもしれません。」
「今更ながらにですが、深海から昇ってきているヨムンガルドをなんとかする必要性があるものと認識しました。」
「やはり、ポラリスが転覆寸前なこの状況において、何も考えることなくのほほんとされていたのですね。」
「…。」
はい。図星です。
本当は、ラスボスみたいなヨムンガルドが深海から昇ってきたとしても、軍船が無事に地上世界に戻ってくれたら問題ないと呑気にしていた。
ペンギンから指摘されたとおり、ポラリスがいつ横転し、七武列島へ物資を届けるクエストに失敗してしまう事態は避けなければならない。
とはいうものの、月の加護が受けられない時間帯である私には、ヨムンガルド本体をどうにかする事は出来ない。
「三華月様。約8km先にいる軍船をなんとかするしかないのではありませんか。」
「ペンギンさんは、ヨムンガルドが深海から上がってきている原因が、あの軍船にあると考えているわけですね。」
「はい。現状況からの推測になりますが、それ以外には考えられません。」
「何とかするといっても、軍船には漂流者達が乗っており、破壊することはできません。」
「はい。軍船を航行不能な状態にすれば良いかと思います。」
「軍船を航行不能な状態ですか。」
「三華月様。既に軍船のエンジン動力部分の場所を割り出しております。ここから撃ち抜いてはいかがでしょう。」
「さすがペンギンさんです。そうですね。ここから軍船のエンジンを狙い撃たせてもらいましょう。」
「最も耐久値のダマスカス鋼を撃ち抜くには、物干し竿を使用してはいかがでしょう。」
物干し竿か。
月の加護を得て絶対回避の効果を持っているアダマンタイト装甲を破壊した運命の矢のことだ。
それを使用すれば耐久値の高い金属といえども、簡単に貫通することができるだろう。
ペンギンが造りだしている立体フォログラム映像に映る軍船の船尾に、『Engine』と書かれた文字が現れている。
あそがエンジンだというのか。
距離にして約8km。
「ペンギンさん。ここから軍船のエンジン室を撃ち抜きます。」
私はスキル『ロックオン』を発動します。
もう一つ。足場が悪いという問題がある。
この荒れ狂う海の中を航行する甲板から狙い撃つには、標的を『ロックオン』している状態でも難しい。
あまりやりたくはないが、ここは静止した時間の中で撃ち抜かさせてもらいましょう。
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