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第20章 魔国を観光しながら生きていこう

405.事なかれ主義者はストライクゾーンを主張する

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 ランチェッタさんと披露宴を行ってから一週間ほど経ち、ドタウィッチ王国の内壁を越えて王城に行く事にした。
 ノエルは先週から「すぐにでも魔道具師が欲しいっす!」とアピールしてたけど、クレストラ大陸の様子が気になったし、世界樹フソーの根元で待機してくれているホムンクルスのライデンに任せたい事も出来たから、ライデンと入れ替わりでクレストラ大陸に数日滞在した。
 ライデンが対応してくれたのか、既に大国ヤマトと国境が接している四ヵ国の同盟国や友好国とは転移門で繋がっていた。転移門は分解して持ち運びしやすいようにしておいたけど、一週間ほどで行き届いたのは転移魔法の使い手や竜騎士などが活躍したらしい。
 ヤマトの兵士を追い出して確保した旧市街地の南側に新しく開かれた大市場も連日大賑わいで、経済効果は大変な事になってそうだ。
 大国ヤマトが何もしてこないのは、町の地面を鉄が覆っているのもあるだろうけど、商人たちと一緒に兵士たちも大勢やってきて、旧市街地を囲む城壁の外側に展開しているからだろう。今まで四ヵ国を抑え込んでいたヤマトだったけど、さすがに国が倍増したら下手に手出しできないよね。
 四ヵ国同盟が八ヵ国同盟になった変化は、軍上層部にも影響を与えていて「力を合わせてヤマトを攻めよう」という意見が出てきているらしい。
 ただ、その相談を受けたライデンが「シズト様は嫌がるだろうなぁ」と言って保留になっているんだとか。
 うん、嫌がります。
 大市場は「ヤマトが攻めてきたらおしまい」って事にしてたけど「こちらが攻めてもおしまい」にしようか悩み中だ。
 ただ、僕に直接意見を求められていないので何も聞かなかった事にした。
 世界樹フソーよりも北側にある残りの国々は、大市場の噂が広まりつつあるらしい。
 その内、自分の国も繋げて欲しい、と申し出があるかもしれないとレヴィさんが言っていた。また転移門を作っておいた方が良いかな……。
 ヤマトがこの流れに乗り遅れるのかどうかは大王様にかかっているんだけど、その大王様は僕とは相いれない思想をお持ちの方だし、どうやって現状を解決すればいいのか分からない。
 大王様、変わってくれないかなぁ、とか思っている。
 一週間考えても名案は思い付かなかったので、時間が解決してくれる事を祈ってシグニール大陸に帰ってきたのが昨日の事だ。
 お留守番のために新しくホムンクルスも作った事だし、大丈夫だろう。
 ガレオールも転移門の設置が順調に進んでいるみたいだし、今日はドタウィッチに集中する事ができそうだ。

「内壁を越えると一気に魔法の国みたいな感じになるね」
「そうですわね。内壁の外側は下民街と呼ばれている魔力があっても上手く魔法が使えない者たちが暮らしている場所ですわ。奴隷ほどではないですけれど、単純労働をするために集められた者たちで、魔法の研究の恩恵を受けられるのは一番最後の人たちですわね」
「……魔法が使えないけど、内壁に入ってもトラブルにならない?」
「そこは問題ありません。向こうが招いた側ですから」

 招かれてないと問題になる、という事っすかね。
 じゃあやっぱりノエルと一緒に入らなくてよかったな。
 なんて事を考えながら馬車の窓から見える景色を眺めると、そこにはファンタジーな風景が広がっていた。……まあ、今更なんだけど。
 空飛ぶ絨毯で移動している人もいるし、馬車を引いているのは馬じゃなくてペガサスだったりグリフォンだったりゴーレムだったりといろいろだ。
 至る所に浮遊している両手に収まりそうなサイズの丸い物体もゴーレムらしいけど、あれは偵察用の物だろう、という事だった。
 ジーッと目玉のような球体に見られている気がしたので見返していると別の方を向いてしまった。

「あ、そろそろ着くかな?」
「そうですわね。クーをそろそろ起こしておいた方が良いかもしれないですわ」

 レヴィさんが僕の膝の上に頭を置いてスヤスヤと寝息を立てている女の子に視線を向けた。
 先程から僕の膝の上で気持ちよさそうに眠っているのは、以前僕が作ったホムンクルスの内の一人であるクーだ。空のように青い髪の毛を優しく撫でると長い睫が動いた。

「ん~………すやぁ」
「狸寝入りやめようね。ほら、起きて起きて」
「………すやすや」
「寝てる人は口ですやすやなんて言わないからね」

 小柄なクーは軽いので無理矢理起こす事も簡単だ。
 レヴィさんと一緒に様子を見守ってくれていた侍女のセシリアさんが準備してくれた紐を受け取って、いつでも背負えるように準備をしておく。
 それからしばらくすると馬車が停まった。
 セシリアさんが「到着したようです」と立ち上がったので僕も立ち上がり、背中に飛びついてきたクーを紐で固定した。
 最初にセシリアさんが降りて、その後にレヴィさんが続いた。
 僕が最後に降りると、出迎えのために外にわざわざ出て来てくれたフランシス様が真っ白な髭を弄りながら僕たちを見た。
 一瞬、僕の肩辺りを見た気がしたけど、クーを見たんだろうか。

「一週間ぶりじゃのう、シズト殿」
「そうですね、フランシス様。本日はお招きいただきありがとうございます」
「堅苦しい挨拶は無用じゃ。早速部屋に移動して話でもしようかのう」

 身の丈ほどあって、先端に大きな宝石のような物がついている真っ白な杖をフランシス様が無造作に振るが、何も起きなかった。
 ピクッと眉を動かしたフランシス様が視線を僕の肩にもう一度向けた。

「あーしの前で、お兄ちゃんをどこかに飛ばそうとするなんていい度胸じゃん?」
「なるほど、小さなお嫁さんだと思ったが、空間魔法の使い手か」
「クーは嫁じゃないです!」

 イエス、ロリータ! ノー、タッチ! っていうし!

「シズト、今重要なのはそこじゃないと思うのですわ」
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