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第19章 自衛しながら生きていこう

392.事なかれ主義者は鷲掴みにされている

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 帰還したドローンゴーレムとコントローラーにそれぞれ【付与】を追加でして、ドローンゴーレムを追いかけて戻ってきたドライアドたちに謝罪の品としてシグニール大陸の珍しい植物を献上すると共にしばらくの間【生育】で植物を育てる手伝いを約束して、一段落着いたところで偵察を再開した。
 先程とは別のルートで、木々の上を通っていく事にした。
 これならば急襲されたとしても被害は最小限になるんじゃないかと思う。最初からこうすればよかったのでは? 等という考えをしないように心を無にして様子を見守る。
 眼下に広がる森の海が途切れがちになり、金色に輝く檻がどんどん近くなってきた。

「もう少し上に行って」
「分かったのですわ」
「……この魔道具が出回ったら斥候が必要なくなりそうよね」
「便利」
「便利って言葉で片付けられるような代物じゃねぇだろ」
「軍事利用はお断りしたいなぁ」
「軍事的じゃなくても、スタンピードの兆候がないか偵察したり、魔物の集落ができていないか索敵したりとか使い方はいろいろあると思うぞ」
「スタンピードの兆候が見受けられたらすぐにギルドに報告するように、という事になってたけど、そういう報告が上がる頃にはもう何名かは冒険者に被害が出ている事が多いのよね。アレもゴーレムならゴーレム使いも同じ事できるかも……って思ったけど、みんな近くで動かしていたのよね。難しいのかしら」
「魔物使い」
「あー、たしかに魔物を使役して偵察してた奴いたな。だいたい魔物は弱い奴だったから使い捨てだったけど。それと比べるとあのゴーレムは壊れねぇから偵察にはもってこいだろ。さっきみたいに踏ん張りは効かねぇみたいだからぶっ飛ばす系の技や魔法には弱いだろうけど」

 ソファーの後ろからスクリーンの様子を見ているラオさんとルウさんがドーラさんと話をしている間にもぐんぐんとドローンゴーレムは進んでいき、世界樹を囲う森の境目まで辿り着いた。
 金色の格子の向こう側にはたくさんの兵士が並んでいる。
 その兵士たちの最前列にいたのは、見覚えのある黒髪の男性だった。
 ポカンと口を開けて目を丸くし、こちらを見上げている。
 …………そうだ。
 レヴィさんのコントローラーに口を近づけ、喉を叩きながら「ワレワレハウチュウジンダ」と言うと、さらに目を見開いていた。
 その様子を見て、我慢しきれなくなったのでコントローラーから離れてひとしきり笑っていると、ラオさんが「何やってんだお前」と呆れた様子で僕を見ていた。



 キャトルミューティレーションもどきをする機能を思いついたけど、ラオさんから「これ以上機能を付けるな」と拳骨を頭頂部にいただいたので頭を摩りながら思考を元に戻した。
 異大陸……というか、こちらの大陸で勇者として有名な大和修一さんと視線が合うくらいの高さでドローンゴーレムを浮かせてもらっている。
 宇宙人ごっこの後、しばらく使い物にならなくなった僕を放っておいてレヴィさんは淡々と自分たちについてとドローンゴーレムについて伝えていた。
 そして、今は大和修一さんの言い分を聞いている所だった。

「……だいたい言いたい事は分かったのですわ。会談中に勝手に帰った上に、私たちが誹謗中傷をしているからあなたは派遣されたのですわ?」
『今なら寛大な大王様はお許しになってくれるってよ。今のうちに謝罪をしにきたらどうだ?』

 自分の後ろ盾が強大だからか、それとも自分の実力を信じ切っているのか分からないけど、修一さんはとても強気だった。
 だけどレヴィさんも強気のようだ。

「謝罪なんてするつもりはないのですわ~。会談中に帰ったのはそちらがシズトを捕まえて利用しようという醜い心を読んだからですし、ありもしない誹謗中傷ではなく、記録をもとにした客観的事実を伝えて回っているだけですわ。むしろ私たちが暮らしている土地を荒らした事を謝るのですわ~」
『そーだそーだ~』
『あやまれ~』
『……あやまったらゆるすのー?』
『なやむねー』

 画面外から聞こえてくる高い声はおそらくドライアドたちだろう。
 ワーワー好き勝手騒いでいるようだ。
 修一さんは森の中から聞こえてくる声に苛立った様子だけど、剣を抜く様子はない。

『どうせ都合の良いように幻影魔法か何かで作り上げた記録だろ』
「あー、なるほど。そういうふうに捉える事もできるのか。確かにイメージを見せる魔法あるみたいだからできなくもないかも? でもリアルな描写をするの難しいと思うけどなぁ」
「そうなのですわ?」
「そうだよ。見たまんまをそのまま絵にできる人ってすごいでしょ? イメージで映像を作る時もそんな感じで細かく想像する必要があるみたい」

 後ろにいたラオさんの手が僕の頭頂部に乗せられた。
 ……軽く頭を鷲掴みにしてるのは何でですかね。

「話が脱線するからちょっと黙ってろ。後で聞くから」
「…………はい」
『その声、シズトだな? 余計な事しやがって。すぐにこっちに来れるなら俺も連れて行けよ。お前のせいで俺の立場が危うくなっただろうが』

 ……黙っておけって言われたけど、返事した方が……はい、レヴィさんに任せますね。
 アイアンクローが解かれるまでは静かにしてよう。

「独自のルートがある事は事前にシズトが伝えたのですわ。それをそっちが勝手に船だと勘違いしただけなのですわ~」
『大陸間を移動できる方法があるとは思う訳ねぇだろ!?』
「情報収集不足をこっちのせいにするのはやめていただきたいですわ~。シズトが使っている移動手段は隠していないですし、ちょっと調べれば察する事ができたと思うのですわ~」

 修一が何か小さな声で呟いた見たいだけど、流石にドローンゴーレムでは聞き取れなかった。
 レヴィさんに視線を向けると、肩をすくめる。

「画面越しだと加護は意味がないみたいですわ」
「そっか」

 小さな声でのやり取りは向こうには伝わっていないみたいだ。
 僕の頭を鷲掴みにしたラオさんの手も力が籠められることはなかった。
 結局その後、話は進む事はなかった。
 修一さんが『そこは俺たちの領地だからすぐに開け渡せ!』とか言ってたけど、レヴィさんは「ヤマト以外の国から元都市国家フソーの自治を認められているから私たちの土地ですわ~」と言い返していた。

『どうなっても知らねぇからな!』
「それはこちらのセリフですわ~。早めに私たちの領地から出て行く事をオススメするのですわ~」
『ハッ。立て籠もってるだけで何もできないくせに何言ってんだか』

 修一さんが背を向けて兵士たちの下へと去っていく。
 その様子を見ながら、僕はいつまで頭を鷲掴みにされてるのかなぁ、なんて考えていた。
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