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第19章 自衛しながら生きていこう
幕間の物語187.公爵家の女主人はお使いを頼まれた
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クレストラ大陸の三分の一ほど占める巨大な国ヤマトと国土が隣接している国の一つであるラグナクアは、クレストラ大陸の中で二番目に大きな国だ。
ラグナクアの北には魔の山から流れる巨大な河があり、北の国との国境線となっている。
また、縦に長い国土を二つに分けるかのように『亜竜の連山』と呼ばれる低い山が続いていた。
ラグナクアは亜竜と呼ばれる龍種の中でもランクの低い魔物を使役している事で有名な国だった。
首都は大河と亜竜の連山の間の北側にある事から、亜竜の連山の南側に公爵家の領地があった。
南側の貴族たちのまとめ役兼監視役でもあるマグナ公爵家は、北に亜竜の連山、西に海がある広大な領地を治めている。
領都は海と山に近い所にあり、国の北側や海外との交易が盛んだった。
その領都の中央にある城の一室で、二人の女性が話をしていた。
一人は、公爵家の女主人であるレスティナ・マグナだ。
腰まである赤っぽい茶色の髪は後ろで一つに結ばれている。
今年で三十五歳になる彼女は、女性らしい体つきで大人の色香が漂っていた。
レスティナの正面に座っているのは、ラグナクアを治めている女王エリナベル・ラグナクアだ。
日本人の血が色濃く表れている彼女の髪と瞳は黒く、どこか幼さが残る顔立ちをしていた。体の凹凸も少ない。
正反対の見た目の彼女たちだったが、同年代という事もあって気安げに最近の婚活事情についてなど話をしていた。
「この年になって流石に相手がいないのはまずいわよねぇ」
「エリナはまだいいでしょ、若作りできるんだから」
「僻みかしら? 散々幼児体型とか言った罰じゃないの?」
「貴女だって私に対して悪口を言っていたからお互い様でしょ?」
「まあ、そうだけどね。……そういえば、世界樹フソーの面倒を見ている人はどうだったの? 珍しい加護持ちという事であれば候補に入るんだけど」
「あれは無理ね。下手に手を出して面倒事にはしたくないわ。話のついでだから聞くけど、転移門の方はどうなの?」
「どうって?」
「都市国家フソーと繋げるようになってもう一週間くらい経つでしょう?」
「ああ……まあ、予想通り経済への影響は大きいわね。大きすぎる、と言っても過言ではないわ。あれが普及するのであれば街と街の小さな宿場町なんて必要なくなってしまうわ」
「自領にお金を落としてもらいたいから何とも言えないけど、それを考えても話を聞いていると転移門のメリットが大きいのよね」
「行商人たちから北の国々に広まるのにしばらくかかりそうだけど、新しく来た世界樹を育てる加護を持つ子はしばらく忙しく過ごす事になりそうね」
「転移門が求められるかもしれない、って伝えておくわ。それで? まさか婚活が上手くいかない話と転移門の話をするためだけに来たわけじゃないんでしょう?」
「まあ、ね。これを見て貰えるかしら」
合図とともにエリナベルの後ろに控えていた侍従が一歩前に出て、封筒を机の上に置いた。
その中にはいくつもの書類が入れられている。
レスティナは一通りそれを確認すると、小さくため息を吐いた。
「同盟国の中で一つだけ足並みをそろえていないと思っていたけれど、やっぱりヤマトが裏で糸を引いているのね」
「私の密偵が調べられる事を向こうが知らないとは思えないけれど……何かしら取引をしているんじゃないかしら」
「大方、次期国王にしてやるとかなんとか言ったんじゃないかしら。新興貴族はだいたいヤマト側だと思って間違いないのかしら?」
「少なくとも、前回エクツァーの交渉人としてやってきた者は間接的にヤマトの支援があるようね」
前回、転移門で繋がった国々とシズトという異世界転移者との交渉の際に随分と挑発的な交渉をしていたエクツァーの交渉人の事が気になり、レスティナは女王であるエリナベルに確認するように進言をしていた。
そうして報告された内容は、エンゲルト・ツー・ヴァルティッシュが間接的にヤマトの商人から援助を受けて成り上がった新興貴族だ、という事だった。
そこから芋づる式にヤマトと関わっているであろう新興貴族の情報が手に入り、報告書にまとめられている。
その報告書には、ヤマトと関係があるであろう者たちを要職につけている第二王子は気づいていないのかもしれないが、調べた情報を彼に伝える事はしていないとも書かれている。気づいていて放置している可能性もあったからだ。
「第一王子側に伝えるくらいはしても良かったんじゃないかしら?」
「以前会った事があるけど、頭のいい子だからもういろいろ勘づいているんじゃないかしら? 同盟国同士、密偵を送り合っている事くらい知っているでしょうし、何かあれば向こうからコンタクトがあるでしょう。それがないっていう事は今ではない、と判断しているのかもしれないわね」
「内乱になってしまったらそれこそヤマトの思うつぼでしょうからね」
レスティナは報告書を机の上に置くと、新しく手に入れた魔道具を使って淹れた紅茶を一口飲む。
水を入れて魔力を流しただけなのだが、香りは豊かで味は上品な物だった。
エリナベルも先程からそれを飲んでいたのだが、レスティナの様子を見て思い出したように口を開いた。
「これ、便利だから私も欲しいわ」
「私費で手に入れた物だからあげないわよ」
「今度の交渉はいつだったかしら?」
「数日後だったはずだけど……それがどうしたの?」
「お金をある程度渡すから、コレとお風呂の魔道具を買ってきて頂戴。あと、貴女が私費で買う物もお願いするわ。交渉のついでだからいいでしょ?」
「…………はぁ。まあ、いいわよ」
やった~、と無邪気に喜ぶその仕草を見て、だから子どもっぽいって言われるのよ、と呆れた様子で童顔の女性を見るレスティナだった。
ラグナクアの北には魔の山から流れる巨大な河があり、北の国との国境線となっている。
また、縦に長い国土を二つに分けるかのように『亜竜の連山』と呼ばれる低い山が続いていた。
ラグナクアは亜竜と呼ばれる龍種の中でもランクの低い魔物を使役している事で有名な国だった。
首都は大河と亜竜の連山の間の北側にある事から、亜竜の連山の南側に公爵家の領地があった。
南側の貴族たちのまとめ役兼監視役でもあるマグナ公爵家は、北に亜竜の連山、西に海がある広大な領地を治めている。
領都は海と山に近い所にあり、国の北側や海外との交易が盛んだった。
その領都の中央にある城の一室で、二人の女性が話をしていた。
一人は、公爵家の女主人であるレスティナ・マグナだ。
腰まである赤っぽい茶色の髪は後ろで一つに結ばれている。
今年で三十五歳になる彼女は、女性らしい体つきで大人の色香が漂っていた。
レスティナの正面に座っているのは、ラグナクアを治めている女王エリナベル・ラグナクアだ。
日本人の血が色濃く表れている彼女の髪と瞳は黒く、どこか幼さが残る顔立ちをしていた。体の凹凸も少ない。
正反対の見た目の彼女たちだったが、同年代という事もあって気安げに最近の婚活事情についてなど話をしていた。
「この年になって流石に相手がいないのはまずいわよねぇ」
「エリナはまだいいでしょ、若作りできるんだから」
「僻みかしら? 散々幼児体型とか言った罰じゃないの?」
「貴女だって私に対して悪口を言っていたからお互い様でしょ?」
「まあ、そうだけどね。……そういえば、世界樹フソーの面倒を見ている人はどうだったの? 珍しい加護持ちという事であれば候補に入るんだけど」
「あれは無理ね。下手に手を出して面倒事にはしたくないわ。話のついでだから聞くけど、転移門の方はどうなの?」
「どうって?」
「都市国家フソーと繋げるようになってもう一週間くらい経つでしょう?」
「ああ……まあ、予想通り経済への影響は大きいわね。大きすぎる、と言っても過言ではないわ。あれが普及するのであれば街と街の小さな宿場町なんて必要なくなってしまうわ」
「自領にお金を落としてもらいたいから何とも言えないけど、それを考えても話を聞いていると転移門のメリットが大きいのよね」
「行商人たちから北の国々に広まるのにしばらくかかりそうだけど、新しく来た世界樹を育てる加護を持つ子はしばらく忙しく過ごす事になりそうね」
「転移門が求められるかもしれない、って伝えておくわ。それで? まさか婚活が上手くいかない話と転移門の話をするためだけに来たわけじゃないんでしょう?」
「まあ、ね。これを見て貰えるかしら」
合図とともにエリナベルの後ろに控えていた侍従が一歩前に出て、封筒を机の上に置いた。
その中にはいくつもの書類が入れられている。
レスティナは一通りそれを確認すると、小さくため息を吐いた。
「同盟国の中で一つだけ足並みをそろえていないと思っていたけれど、やっぱりヤマトが裏で糸を引いているのね」
「私の密偵が調べられる事を向こうが知らないとは思えないけれど……何かしら取引をしているんじゃないかしら」
「大方、次期国王にしてやるとかなんとか言ったんじゃないかしら。新興貴族はだいたいヤマト側だと思って間違いないのかしら?」
「少なくとも、前回エクツァーの交渉人としてやってきた者は間接的にヤマトの支援があるようね」
前回、転移門で繋がった国々とシズトという異世界転移者との交渉の際に随分と挑発的な交渉をしていたエクツァーの交渉人の事が気になり、レスティナは女王であるエリナベルに確認するように進言をしていた。
そうして報告された内容は、エンゲルト・ツー・ヴァルティッシュが間接的にヤマトの商人から援助を受けて成り上がった新興貴族だ、という事だった。
そこから芋づる式にヤマトと関わっているであろう新興貴族の情報が手に入り、報告書にまとめられている。
その報告書には、ヤマトと関係があるであろう者たちを要職につけている第二王子は気づいていないのかもしれないが、調べた情報を彼に伝える事はしていないとも書かれている。気づいていて放置している可能性もあったからだ。
「第一王子側に伝えるくらいはしても良かったんじゃないかしら?」
「以前会った事があるけど、頭のいい子だからもういろいろ勘づいているんじゃないかしら? 同盟国同士、密偵を送り合っている事くらい知っているでしょうし、何かあれば向こうからコンタクトがあるでしょう。それがないっていう事は今ではない、と判断しているのかもしれないわね」
「内乱になってしまったらそれこそヤマトの思うつぼでしょうからね」
レスティナは報告書を机の上に置くと、新しく手に入れた魔道具を使って淹れた紅茶を一口飲む。
水を入れて魔力を流しただけなのだが、香りは豊かで味は上品な物だった。
エリナベルも先程からそれを飲んでいたのだが、レスティナの様子を見て思い出したように口を開いた。
「これ、便利だから私も欲しいわ」
「私費で手に入れた物だからあげないわよ」
「今度の交渉はいつだったかしら?」
「数日後だったはずだけど……それがどうしたの?」
「お金をある程度渡すから、コレとお風呂の魔道具を買ってきて頂戴。あと、貴女が私費で買う物もお願いするわ。交渉のついでだからいいでしょ?」
「…………はぁ。まあ、いいわよ」
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