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第19章 自衛しながら生きていこう

375.事なかれ主義者は聞き返した

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 世界樹フソーの周辺に広がる森をすっぽりと包み込むようにアダマンタイトを加工して檻のような物を作ったら、ご立腹っぽい巨大な鳥に声をかけられた。
 世界樹の枝に止まっていたその鳥は、見た目はフクロウだった。
 灰色の毛は遠目から見てもモッフモフだ。

『聞いておるのか、人の子よ』
「あ、はい。聞こえております」
『ならば答えよ。我を閉じ込めてどうするつもりだ』
「えっと……別にどうもしないですね。森に侵入してくる人たちが入って来れないようにしたかっただけなので……」
『………』

 返答が何もないのが気まずい。
 ジュリウスとライデンも警戒を解く事はせず、鋭い眼差しをフクロウに向けていた。
 さっきまで気配もなかったのにいきなり現れた事から魔物だとは思うんだけど、やっぱり強いんだろうか。
 世界樹の根元で出会う魔物って基本的に強いもんな。
 そんな事を考えている間にも睨み合いは続いていたのだが、遠くから駆け寄ってきたドライアドによって状況が変わった。

「人間さん、おはようございます。何を見ているんですか? フクちゃん?」
「フクちゃん?」
「フクロウのフクちゃんです。恥ずかしがり屋な子ですから、いつも隠れているのにどうしたんですか?」

 世界樹を見上げて問いかけるのは頭の上に大きな菊の花を咲かせたお菊ちゃんだ。
 彼女の後を追ってぞろぞろと他のドライアドたちも姿を現したけど、フクちゃんと呼ばれたフクロウがいる事に驚いた様子はない。

『そこの人間が我を閉じ込めたのでな。どういうつもりなのか聞いていたところだ』
「そうなんですね。……でもフクちゃんって、今までずっと森の中から出なかったですよね? 問題ないんじゃないですか?」
『出る事ができるが出ないのと、出る事ができないのとでは大きく違うのだ』
「なるほどー、そういうものなんですね」
『そういうものなのだ』
「話は変わりますけど、最近『人間風情がわらわらわきおって、面倒だ!』って怒ってましたよね。あれがあればたくさん入ってくる事は防げると思いますけど……」
『………』

 フクロウとお菊ちゃんの話を見守っているだけでなんだか許されそうな気がする。
 ただ、おそらくファマリアのフェンリルやユグドラシルのグリフォンのような感じでフソーの主みたいなものだろうから、ある程度良好な関係を築いておきたい。
 念のため確認しておこう。

「あなたが通れるくらいの隙間を上の方に開けといた方が良いですか? 北側の人間とは話がついているのでそちらに隙間を作ったら入ってくる確率は下げられるかなぁ、って思うんですけど」
『………………』

 おや、黙ってしまった。
 しばらく待っても返答がない。
 お菊ちゃんが「フクちゃんが考え始めると長いです。人間さんは好きな事してていいですよ」と言ったけど、大丈夫かな。
 話の途中でどこかに行ったら普通怒らない?
 他のドライアドたちは「かいさーん」と言って散り散りになっていったけど、いつもこういう感じなんすか。

「大丈夫ですよ。私が代わりに話をしておきますから」
「じゃあ……お願いします」

 お菊ちゃんたちにはアダマンタイトの檻の必要性はしっかりと説明していた。
 それをあのフクロウにもしてくれるのだろう。
 世界樹の幹を上り始めたお菊ちゃんを見送って、もう一度フクロウを見る。

「……それにしても、でかいなぁ」

 アレがいきなり目の前に現れたらびっくりするわ。
 ……だから遠く離れた木の上から話しかけてくれたんだろうか。
 まあ、とりあえずやるべき事はやったし、朝ご飯でも食べるか。



 セシリアさんが準備してくれた朝ご飯を食べ終わった後もフクロウのフクちゃんは考え込んでいる様で、木の枝に止まったままだった。その隣にはちょこんとお菊ちゃんが座っていて、改めてフクロウの大きさを実感した。

「それじゃあ、今回は皆帰るから何かあったらランチェッタ様に言ってね」
「はーい!」

 元気に返事をするお見送りのドライアドたち。
 向こうの世界樹のお世話もあるし、ニホン連合のキョウトに既についているという連絡もあったので一度帰る事にした。
 今回はライデンも一緒にシグニール大陸に戻る。
 獣人の国の店をだいぶ開けていたのでどうなっているかちょっと心配だから戻るように言ったけど、ライデンは「特に問題が起きているってれんらくはねぇけどなぁ」とどうでもよさそうだった。
 戻ったらクーにライデンを連れてってもらわないと。
 ……転移陣を設置してないのはやっぱり不便だよな。こっそりつけちゃうか?
 でもそれがばれた時面倒そうだしなぁ。ぞれぞれの族長から許可を取るのも面倒だし、クーが嫌がるまでとりあえずこのままでいいか。
 転移陣を使うと、一瞬で景色が様変わりする。
 世界樹ファマリーの周囲は畑が広がっているだけで、森はないので町がよく見えた。
 世界樹もフソーと比べるとまだまだ小さい。あれくらい大きくなるまでにどれだけの時間がかかるんだろうか。
 そんな事を考えていると、フェンリルが空から降ってきて、ドスンと音を立ててファマリーの根元に着地した。日課のアンデッド退治をしてきたのだろう。レヴィさんがいなくてもしっかりやっているようで良かった。

「人間さん、行ってきまーす」
「あ、行ってらっしゃい」

 こちらで暮らしている白い肌のドライアドたちのまとめ役である青バラちゃんが、別の転移陣を使ってその場から消えた。
 ドワーフの国に作った魔道具店で店番をしに行ったのだろう。
 まだ開店前の時間だけど、向こうに置いてある植木鉢に水やりをするために少し早く出ているらしい。

「ちょっと畑を見てくるのですわ!」
「レヴィア様、そんなに急がなくても畑は逃げませんよ」
「ん、言っても無駄」

 レヴィさんを追いかけてセシリアさんとドーラさんが離れて行った。
 ライデンはクーに運んでもらうためにクーが乗っている馬車と繋がっている転移陣を使ってその場から消える。
 僕の護衛であるラオさんとルウさん、ジュリウスの三人と一緒にとりあえず屋敷に戻った。
 ジュリウスが開けてくれた扉の先にはメイド服を着た黒髪の女の子――モニカがいた。 
 ちょうどドランの屋敷の方へ向かう所だったようだ。

「お帰りなさいませ、シズト様」
「ただいま。僕がいない間、何かあった?」
「はい。勇者様御一行がいらっしゃいました」
「ふーん、そっか。何の用だろうね…………………今、勇者って言った?」

 モニカが特に大した事でもない様子でさらりと言ったからちょっと聞き間違えたかもしれない。
 確認を込めて尋ねると、モニカはこくりと頷いた。

「はい。三人組の方の勇者様です。国王陛下に招かれてドラゴニアに来たついでに挨拶をしに来たそうですよ」
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