上 下
536 / 972
第18章 ニホン観光をしながら生きていこう

359.事なかれ主義者は落ち着かない

しおりを挟む
「いやぁ……やっぱり、ちょっとやりすぎたよね」

 お城勤めのメイドさんに案内された部屋で、クーを膝の上に乗せながらここ数日の事を思い返す。



 世界樹フソーに転移してから、世界樹の周りの森の外側にいた大国ヤマトの人とコンタクトを取った後の事だ。
 大陸間の転移には、それ相応の魔石が必要であるためあまり頻繁に行ったり来たりできない事に加えて、ファマリーのお世話は頻繁にする必要があるからさっさと大王に伝える事を伝えて帰りたかった。
 だから、少しだけ自重する事をやめて作った魔改造された馬車……というか魔力で動く車『魔動車』を移動手段とする事にした。
 レヴィさんたちは馬車で首都まで送る、と提案されたみたいだけど丁重にお断りしてもらった。首都に向かうだけで二週間以上かかるのは無理だ。
 森から出たところで囲まれて何か言われたけど、気にせずに『魔動車』をクーに出してもらった。
 大きすぎてアイテムバッグに入らないから、クーの空間魔法で収納してもらっていたのだ。

「あらためて見ると派手だねぇ」

 車全体が金色に輝いている。
 アダマンタイトを薄く伸ばして車体全体に張り付けたからこんな見た目なんだけど、もう少し落ち着いた色にするべきだっただろうか?
 なんて事を、魔動車に乗り込みながら考える。
 馬車の御者席に座ったジュリウスが魔動車を運転する事になった。
 僕たちの中で二番目に魔力が多く、近距離も遠距離もある程度戦えるからだ。
 夜は魔動車に設置しておいた転移陣を使って世界樹フソーに戻り、元々あった建物で寝泊まりした。
 建物の安全確認は事前に、レヴィさんについてやってきていた近衛兵たちが済ませてくれていた。
 ゆっくりと休み、翌日の朝ご飯を食べてから車内に転移すると、景色が変わっていた。
 魔動車の護衛として残っていたライデンが御者席に座って、街道に添って運転してくれていたらしい。
 日が昇っている間はジュリウスが、日が暮れてからはライデンが交代で運転してくれたおかげで、数日で大国ヤマトの首都に到着する事ができていた。昼夜問わず猛スピードで走り続け、途中で街にもよらなかったからこんな早く移動できたようだ。
 轢き殺した魔物の解体を途中でしていなかったらもっと早く着いたかもしれない。
 王城まで案内されて、魔動車から降りると周囲の視線が魔動車に集まっていた。
 そのままにしておくと厄介事になりそうだったからクーにしまってもらった。
 そして今に至るという訳だ。
 暇なのでここ数日の事を思い出していたけど、思考が魔動車の改善案にシフトする。
 サスペンションが良くなかったのか、アダマンタイトで覆ってしまったのがダメだったのか、スピードを出し過ぎたのがいけなかったのか……何がいけないのか分からないけど車体の揺れがそこそこあった。
 レヴィさんの付き人であるセシリアさんがグロッキーになっていた。
 やっぱり中途半端に自重せず、空を駆ける車を作ればよかった。そうしたら揺れも多分ないし。
 んー、と首を傾げながらクーの空のように青い髪を優しく撫でていると、僕の心を読んだレヴィさんが口を開いた。

「空を移動するのであれば車輪は必要ないような気がするのですわ」
「いや、常に空中に浮遊しているわけじゃないし、止まる時には地面の上に停車するわけだから必要だと思う」

 まあ、それとは関係なく車輪があった方がそれっぽいから付けときたいんだよね。
 ……出来れば機関車を作って夜の空を走らせてみたいんだけど……いや、トナカイにひかせたソリも捨てがたいな? でっかい船を作って空を飛ばすのも面白そうだ。
 くだらない事を考えていると、まだ若干顔が青いままのセシリアさんが僕の方に視線を向けた。

「これからの事ですが……」
「無理しなくて話さなくてもいいよ?」
「いえ、大丈夫です。これからの事ですが、礼儀作法はしっかり覚えていますか?」
「………」
「身なりだけそれっぽく取り繕ってもそういう所でぼろが出るので、しっかりと復習しましょう」
「あ、はい」
「シズトは異世界からの転移者だから、ある程度の不作法は目を瞑るのが暗黙の了解のはずですわ」
「その暗黙の了解を無視する者も一定いますし、『ある程度』がそれぞれの基準ですからできた方が良いです」
「でも、向こうの使者はとっても失礼だったのですわ~」
「向こうの使者と同じくらいの事をしても大丈夫、とは限りませんから。向こうが私たちを下に見ている場合は面倒事になるかもしれません。そういう面倒事を回避するために、ある程度の作法を身に着けるべきなのです」
「あ、はい」

 ちょっと心配だからレヴィさんと一緒にセシリアさんから作法を教えてもらっていると、煌びやかな装備を身に着けた兵士が「準備が整いました」と呼びに来てくれた。
 僕は今一度自分の身なりを確認する。
 世界樹の使徒としてここにいるので、エルフの正装である真っ白な布が基調の服を着ている。
 どこにも皺も汚れもない。
 絡みつく蔦を表現しているのか、裾から胸元まで金色の刺繍が施されている。
 髪型も大丈夫かな、と不安になっているとレヴィさんが「大丈夫ですわ」と小声で教えてくれた。
 そのレヴィさんは瞳の色と同色のドレスを着ていた。
 露出は全くないというのに規格外の胸のせいでむしろ目のやり場に困ってしまう。
 兵士の案内にレヴィさんと並んでついて行く。
 僕たちの後ろにはセシリアさんとジュリウス、ライデン、クーが歩いてついて来る。
 自分で歩かされているクーは不満そうだけど、流石に一国の王に正式に会う時におんぶや肩車はダメだと思うんだ。
 長いスカートで歩き辛そうなので、レヴィさんの歩調に合わせてゆっくり歩きながらきょろきょろと周囲を見ていると、レヴィさんが手袋を嵌めた手で僕の手を握ってきた。

「少しは落ち着くのですわ?」
「んー……むしろ別の意味でドキドキして落ち着けないかも?」
「フフッ。そう言えるのであれば大丈夫そうなのですわ~」

 レヴィさんは楽しそうに無邪気に笑っている。
 その笑顔が可愛いな、と思ったら筒抜けだったようで、ちょっと顔を赤らめてそっぽを向かれてしまった。
 ……直球で褒めれば主導権握れるのかな? とか考えたら握られていた手がギュウッと強く握られて結構痛かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

転生幼児は夢いっぱい

meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、 ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい?? らしいというのも……前世を思い出したのは 転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。 これは秘匿された出自を知らないまま、 チートしつつ異世界を楽しむ男の話である! ☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。 誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。 ☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*) 今後ともよろしくお願い致します🍀

スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~

暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。  しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。 もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。

前世で眼が見えなかった俺が異世界転生したら・・・

y@siron
ファンタジー
俺の眼が・・・見える! てってれてーてってれてーてててててー! やっほー!みんなのこころのいやしアヴェルくんだよ〜♪ 一応神やってます!( *¯ ꒳¯*)どやぁ この小説の主人公は神崎 悠斗くん 前世では色々可哀想な人生を歩んでね… まぁ色々あってボクの管理する世界で第二の人生を楽しんでもらうんだ〜♪ 前世で会得した神崎流の技術、眼が見えない事により研ぎ澄まされた感覚、これらを駆使して異世界で力を開眼させる 久しぶりに眼が見える事で新たな世界を楽しみながら冒険者として歩んでいく 色んな困難を乗り越えて日々成長していく王道?異世界ファンタジー 友情、熱血、愛はあるかわかりません! ボクはそこそこ活躍する予定〜ノシ

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

処理中です...