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第18章 ニホン観光をしながら生きていこう

338.事なかれ主義者は予想が外れた

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 カガワの国の王様である香川真琴様……? に返事を書いたらとんとん拍子に数日後トネリコで会う事になった。
 こちらが提示した条件は全て了承されただけでなく、向こうの護衛は外で待機する、と向こうから申し出があった。

「流石に何か罠があるんじゃない? 大丈夫?」

 僕がそう尋ねると、ジュリウスはゆっくりと頷いた。

「おそらく大丈夫でしょう。ニホン連合の国主たちは代々加護の使い方を継承されてきた事もあり、一騎当千の者ばかりです。護衛など不要なのでしょう」
「事前に私とお話をする事も了承しているのですわ。その時に邪な考えを持っていないか確認するのですわ!」
「レヴィさんが危なくない?」

 僕が心配する事くらいみんな想定しているようだ。
 レヴィさんの後ろに控えていたメイドのセシリアさんがアイテムバッグから水晶玉のような物を取り出した。
 だいぶ前に作った嘘を見破る魔道具だ。確か今は魔道具店で情報の確認のために使っていた気がする。

「こちらの魔道具を使って簡単な確認を事前にしておきます。それに加え、万が一の事が起きないよう誓文も交わしてもらうので大丈夫です」

 誓文を交わしても破る事は可能らしいけど、この世界の人たちは誓文書への信頼がすごい。
 それだけ破った時のペナルティが重たい物なんだろう。
 神様を介した約束だからだろうか……分からん。
 何はともあれ、僕の心配をよそにトネリコで会談する日が近づいていた。
 クーたちは手紙を届けたらすぐに出発してもらったので、観光をする事もなく、世界樹の世話をしながらせっせと魔道具を作り、夜にはルウさんやジューンさんに色々されて過ごした。
 どうやらお嫁さんたちの間で、夜の営みの情報が共有されているらしい。
 色々して僕の反応を見てコレが良かった、アレは微妙だったと話し合っているんだとか。
 ……だから最近皆色々してくるんですね。
 最低限のプライバシーは守って欲しいなぁ、なんて思うけど正妻と側妻の仲が良い場合はそういう情報共有はよくある事だとセシリアさんが言っていた。
 一夫多妻ってそういうものなのか、と諦めた。
 そんな感じで過ごしていると、あっという間に約束の日になった。
 朝、目が覚めるとベッドの横にジューンさんはいなかった。
 すでに着替え終えていて、ベッドに腰かけて僕の寝顔を見ていたようだ。

「シズトちゃん、おはようございますぅ」
「おはよう」
「服などはすでに用意してありますのでぇ、それを着てくださいねぇ。それではぁ、失礼しますぅ」

 ジューンさんは言いたい事だけ言うと、朝の支度があるからと部屋を出て行った。
 扉が閉まる音を確認してから掛布団から這い出る。
 今日も今日とて生まれたままの姿で寝ていたようだ。
 ジューンさんが用意してくれたであろうガウンを羽織り、クリーンルームに行って体を綺麗にしてから元の部屋へ戻る。
 ベッドの端の方に着替えが綺麗にたたまれて置かれていた。
 カガワの国の王様とは世界樹の使徒として会うため、甚兵衛ではなく真っ白な布地に植物の刺繍をされたエルフの正装に着替える。
 着替え中に部屋の扉がノックされた。今日の世話係のモニカだろう。

「ちょっと待ってて」

 待つように指示を出せばモニカは勝手に入ってくる事はない。
 のんびりと着替えを済ませてノックされた方の扉から外に出ると、黒髪の女の子モニカが待っていた。

「おはようございます、シズト様」
「うん、おはよう」

 綺麗なお辞儀と共に挨拶をされたので挨拶を返し、食堂へと向かう。
 その道中、今日のモニカの予定を聞く。

「今日もモニカはドランに行くんだっけ?」
「はい。お客様がいらっしゃるかもしれませんから」
「そっか」

 モニカの髪と瞳は黒く、日本人の血を色濃く受け継いでいる。
 その事から、ニホン連合の人とは極力関わらないつもりのようだ。
 ニホン連合で観光を一緒にしようと思ったけど、万が一があるといけないからと断られちゃったし。
 ……僕と同じように変装すればいい気がするんだけどなぁ。
 まあ、無理強いは良くないからいいか。
 食堂に着くとラオさんとルウさん以外全員揃っていた。
 ここにいない二人は今もダンジョン探索に行っているはずだ。何事もなく戻ってくるといいな。
 席に座り、食事前の挨拶をみんなで唱和する。
 早食いの二人がいないから比較的ゆっくりとした雰囲気で食事が進んでいたけど、青いドレスを着たレヴィさんが今日の流れの確認をし始めた。

「既に香川真琴様はトネリコに着いている様ですわ。食事が終わったら魔道具を使って敵意がないか確認した後、私と対談する予定ですわ」
「護衛は予定通り、ドーラさんと近衛兵だけ?」
「ん、頑張る」
「あとは侍女のセシリアが同席するくらいですわね」
「誓文を交わしているとはいえ、他の勢力から襲撃される可能性もあるでしょう。トネリコの番人には、昨日から警戒するよう伝えてあります」

 ジュリウスが補足してくれたけど、万が一の事があるかもしれないからレヴィさんたちだけじゃなく、護衛にも最近せっせと増産していた『帰還の指輪』を渡しておいてもらおう。

「私との対談が終わったらシズトに来てもらうのですわ。同席するのは私とジューン、それからセシリアとドーラですわね。護衛としてジュリウスも同席してもらうのですわ」
「他の面々は外の警戒に回します」
「わかった。よろしくね」

 確認すべき事は確認したので手早く朝ご飯を食べ終え、皆と一緒にトネリコへと転移した。
 褐色肌のドライアドたちにお出迎えされ、僕はジュリウスと一緒に皆と別れて別行動だ。
 別行動と言っても、ただ世界樹トネリコのお世話をするだけなんだけどね。
 手早くお世話を終わらせて、レヴィさんたちが向かった建物へ移動すると、まだ話が始まったばかりだった。
 ………魔道具でも作って待つか。
 そうしてせっせと魔道具を作っていると、ジュリウスがアイテムバッグの中に入れられていたレヴィさんからの手紙に気付いた。共有のアイテムバッグなので速達箱のような使い方もできる。
 ジュリウスに案内されて廊下を進み、レヴィさんたちが待っている部屋へと向かう。
 部屋の前ではジューンさんがすでに待っていた。
 ジュリウスは扉の前で立ち止まり、僕の方を見る。

「こちらです。準備はよろしいですか?」
「ちょっと待って」

 一度深呼吸して気持ちを落ち着かせ、ジュリウスに目配せをすると、彼は一度頷いて扉を開けた。
 僕が中に入った後、中にいた近衛兵たちが外に出て行く。
 そうして残されたのは僕たちと、元々部屋にいたレヴィさんたちと黒髪の来訪者だけだ。
 日本人離れした体躯のその黒髪の人物は、僕を立って出迎えた。

「お初にお目にかかります。カガワの国の国主香川真琴です。以後お見知りおきを」

 綺麗なお辞儀をした香川真琴さんは、大きな体の男性だった。
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