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第17章 結婚しながら生きていこう

幕間の物語156.お嫁さんたちは話し合った

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「結局、誰も手を出してないのですわ?」

 レヴィアの問いかけに、誰も返事をしない。
 シズトが住む屋敷の二階にある談話室に置かれた円卓を囲んでいるのは、パメラを除いたシズトの配偶者たちだ。今日はパメラがお世話係の日のため、ここにはいない。シズトの部屋で今頃一緒に過ごしているだろう。
 ここ数日、パメラと同じように一緒の布団で寝ているはずの面々をレヴィアは順繰りに見ていくが、誰も目を合わせようとしない。
 シズトの誕生日からもうすぐ一週間が経とうとしているが、誰一人として一線を越えた者はいなかった。

「私の事は気にしないでいいと言っていたはずなのですわ! 夜の様子を参考にしようと思っていたのに……これじゃあ何をすると喜んでもらえるのか分からないのですわ~」
「お言葉ですが、レヴィア様。気にしなくても良いと言われても、気にしてしまうのは仕方ない事かと」

 目を合わせようとしない面々を擁護したのは、レヴィアの専属侍女であるセシリアだ。夜も遅い時間というのにいまだにメイド服を着ている。
 ただ、普段はレヴィアの後ろに静かに控えている彼女だったが、今は同じ円卓を囲み座っていた。

「む~~~。ジューンが何もしなかったのは想定外ですわ! てっきりそこから毎日するものだと思っていたのですわー」

 話の矛先を向けられたジューンは苦笑いを浮かべた。
 緩く波打っている金色の髪をくるくると指で弄りながら彼女は口を開いた。

「え~っとぉ、シズトちゃんがとても悩んでいる様でしたのでぇ、いつも通りお休みしちゃいましたぁ。ただぁ、以前よりくっついて眠ってみましたぁ」
「……少しだけ進展があったようで何よりですわ」

 何とも言えない表情になったレヴィアは、諦めてジューンの隣に座っていたモニカに視線を移した。
 彼女は表情を変える事もなく、黒い瞳でレヴィアを見返す。

「モニカはどうして手を出さなかったのですわ?」
「強引にいって、振りだしに戻ってしまったら元も子もないじゃないですか。レヴィア様もそうでしょう?」
「それは……そうですわね」
「それに、レヴィア様と違って私たちは雇われの身でもあるのでどうしても上下関係は意識してしまいます。こちらから手を出すのは難しいですね。あ、ちなみに私は寝る前に頬にキスはしました。両親がしていたと伝えるとそのくらいならまあ、とお許しを頂けたので」

 さらっとなんでもない事のように話すモニカだったが、円卓を囲んでいる一部の者たちは「次は自分もしよう」と心に決めた様子だ。
 その中の一人であるレヴィアは、情報を仕入れる事ができたので次の人に視線を移す。
 ボワッと白い尻尾が膨らんだエミリーに、レヴィアは問いかけた。

「エミリーたちは真っ先にすると思っていたのですわ。どうしてしなかったのですわ?」
「……スキンシップをしている間に、シズト様が寝てしまわれたのです」
「同じくじゃん」

 エミリーの隣では、茶色の尻尾と耳が垂れているシンシーラがため息を吐いた。
 レヴィアはそれは仕方ない、と思いつつもスキンシップがどの様なものだったか気になり、聞いてみたが「レヴィア様には絶対無理な事です」とエミリーは言おうとしない。

「言いたくないなら無理には聞くつもりはないのですけれど、そう言われると気になってしまうのですわ」
「言いたくないわけじゃないですけど……」

 エミリーがシンシーラに視線を向けると、彼女も同じ内容をしていた様子で肩をすくめた。

「レヴィア様、私たちみたいな耳と尻尾はないじゃん?」
「…………そうですわね」
「シズト様、尻尾を触る事に関しては躊躇いがなくなってきているじゃん」
「夫婦になった事も踏まえて、好きなだけ触ってもらってみたんです。その……触ってもらうと、気持ちいい、ですし」
「長い時間触っていたじゃん。いつ私からも触ろうかと迷っていたじゃん。ただ、気が付いた時にはシズト様が寝落ちしていたじゃん」
「私もそんな感じです……」

 獣人の二人はしょんぼりと肩を落とし、シンシーラは「エミリーに事前に聞いておけばよかったじゃん」と反省し始めた。
 あんまり触れない方が良いだろう、と判断したレヴィアは唯一他事をしながら参加していた人物に視線を向ける。
 ハーフエルフのノエルだ。彼女は新しくシズトに作ってもらった魔道具をじっくりと観察している。
 ただ、話は聞いていたようで、エルフよりは短いが人間よりも長く先が尖っている耳がピクピクッと動いていた。

「ノエルは……聞くまでもないですわね」
「ご想像の通りだと思うっすよ」

 レヴィアはそれ以上追及する事はなかった。
 話題が途切れたところで、腕を組んでそれまで静かにしていたラオがレヴィアを見る。

「それで、いろいろ聞いていたけどよ、レヴィアはできんのかよ」
「で、できるのですわ!」
「シズトちゃんが嫌がったら出来なさそうよね」
「そ、そんな事は……あるのですわ……」

 読心の加護を持っているからこそ、本心が分かってしまうレヴィアも恐らく手を出す事は難しいだろう。
 加護無しの指輪を嵌めていればいいだけの話なのだが、相手が本心では嫌がっているかも? と思うと結局手を出す事はないだろう、というのがラオの見立ての様だったが、実際その通りだとレヴィアも思っていた。

「……人の事をとやかく言えないですわね」
「大丈夫ですよ、レヴィア様。私がお手伝いさせていただきますから」

 セシリアはやる気満々のようだ。淡々と言いたい事だけ述べると、紅茶を口の中に含む。
 円卓を囲んでいるメンバーの中でレヴィアとセシリアだけがお世話係を二人体制でやっているのは、お世話の仕方を何も知らないレヴィアが心配だから、という理由をシズトに説明していたのだが、どうやら他の意図もあるようだ。

「となると、一番手はレヴィアで決まりか」
「お話、楽しみにしているわ」

 そうなるよな、とラオは独り言ち、その隣に座っているルウはニコニコしながらレヴィアを見る。
 レヴィアは「が、頑張るのですわ」とか細い声で呟いたが、セシリアがまた口を挟んだ。

「おそらく一番手はレヴィア様ではないかと」
「そうなのですわ?」
「あー、まあ手本でお前が一番手になるのはあり得るか」
「じゃあセシリアちゃんからのお話も楽しみにしているわ」
「いえ、私でもありません」
「じゃあ、誰なのですわ?」

 レヴィアに問われたセシリアが視線を移すと、全員がそちらの方を向く。
 そこには、無表情で姿勢よく座っているホムラがいた。円卓を囲んでいるほとんど全員の視線が集まったというのに顔色を変える様子もないが、こくりと頷いた。

「おそらく、シズト様のはじめてを頂くのは私かと」
「そうね。その次は私かしら」

 ホムラの隣で気だるそうに頬杖をついて話を聞いていたユキも付け加えるように呟いた。
 二人の発言に対して、他のメンバーが異論をはさむ事はない。

「ただ……マスターが普段のように『お願い』ではなく『命令』をした場合は分かりませんが」
「私たちは基本的にご主人様の命令には従うように作られているからねぇ」

 ホムンクルスである二人の発言に、円卓を囲んでいた全員が「それもそうか」と納得する反面、いつもの様子を見ているので少しだけ疑問を抱く。ただ、口には出さなかった。ただ一人を除いて。

「……ほんとっすかね」

 思った事をそのまま言ってしまったノエルは、少し経った後に失言をしたと思ったのだろう。
 椅子が倒れるほど勢いよく立ち上がると「そろそろ寝る時間っす~~~」と言って嵐のように去っていった。

「……追わなくていいのですわ?」
「はい、マスターへの無礼な発言ではありませんから」
「そうね。それよりも、この世界の性行為について聞いておきたいわ」
「任せるのですわ。と言っても、私も知識しかないのですけれど……」
「この中で実際にそういう事をしている面子はいねぇだろ」
「一応奴隷になった際にそういう手ほどきは受けた事あるじゃん。ただ、商品価値が下がるから知識だけじゃん」
「ホムラちゃん、シズトくんの知識を受け継いでいるっていってなかったかしら? そういう知識はないの?」
「そうですね……ご満足いただけるほどの内容かは不明ですが、お話しする事は可能かと。ただ、シズト様も見た事があるだけで経験はありませんから具体的にどのようにするのか曖昧な所もあります」
「じゃあお互いに情報を出し合うのですわ!」

 そうして、夜遅くまで夜の営みについて話し合いが行われているのだが、シズトは知る由もなかった。
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