425 / 972
第16章 片手間にいろいろしながら生きていこう
286.事なかれ主義者は初めて知った
しおりを挟む
本館で働いてくれていた奴隷たちを解放した後、ブライアンさんはホムラから謝礼を受け取るとそのまま帰る事になった。
屋敷の外まで見送りに出ると、赤色のワイバーンが騎手と一緒に待っていた。ブライアンさんが来るまで大人しく丸まっていたようだ。
「……大きいね」
「まあ、成体のワイバーンみてぇだからな。そりゃでけぇだろ」
「一部のギルドは飼い慣らして、ああして移動に利用したり軍事的に活用したりしているのよ?」
「へー」
ラオさんとルウさんの解説を聞きながら物珍しく赤いワイバーンを見ていると、ワイバーンはブライアンさんともう一人の男の人を乗せるとすぐに飛び立ってしまった。騎手の人が慌てた様子で手綱を操っているのが見える。
「何かいきなり飛び立ったけど大丈夫かなぁ」
「まあ、誰も落っこちてねぇから大丈夫なんじゃねぇか?」
「なんであんなに急いでたんだろうね。日が暮れて時間が経てば経つほど魔物がいっぱい出るからかな?」
「竜騎士としてはそうかもしれないけど、お姉ちゃんとしては別の理由があると思うわ」
ルウさんがスッと視線を世界樹の方に向けた。
釣られてそちらを見ても、夜の闇の中に世界樹が聳え立っている様子しか見えない。
僕の近くで静かに控えていたホムラが口を開いた。
「おそらくフェンリルのテリトリーから少しでも早く離れたかったのかと思います、マスター」
「あー、なるほど」
いつも木の根元で丸まって寝ているから全然意識してなかったけど、そういえばフェンリルも高ランクの魔物だったな。
「純粋に力比べとなったら半端なドラゴンよりはフェンリルのがつえぇからなぁ。当然と言えば当然だよな」
「普段はただの毛玉なのにね」
そんなに強い魔物には見えないけど、一歩町の外に出ると魔物たちの血肉が飛び交うからやばいよね。
面倒な事になるのは嫌だし、敵対する事がないように気を付けないと、と改めて思った。
ブライアンさんを見送った後は食事、という事だったのだが、本館の奴隷たち全員が奴隷から解放されたという事で、お祝いの宴会をする事となった。
レヴィさんがどこかからか連れてきた人たちが料理の準備や給仕をしてくれて、本館に住んでいた奴隷の皆も含めて、全員で食事をする。
「酒の匂いがするぞ!!」
そんな声と共に大きく扉が開かれた。
扉を開いたのはずんぐりむっくりな体型のドワーフ、ドフリックさんだ。
我が物顔でドフリックさんも宴会に加わり、ドフリックさんだけ参加するのは不公平だから別館の人たちも一緒に楽しむ事となった。
魔道具師のボルドは姿を見せないけど……まあ、彼はそういう人だから、と割り切って給仕の人に部屋まで持って行ってもらう。
彼らを見送っていると、ぬっと図太い腕がワインボトルを差し出してきた。
赤ら顔のドフリックさんが胡乱気な様子で僕を見ている。
「お主、全然飲んでないのか。ほら、もっと飲め!」
「僕はまだ大人じゃないからジュースで……」
「なんじゃ、儂の酒が飲めないのか」
「私が代わりに飲んでやるじゃん」
ひょいっとドフリックさんからワインボトルを搔っ攫ったのは狼人族のシンシーラだった。
彼女はボトルから直接ぐびぐびと飲んでいく。
上を向いて一気飲みした彼女の首元には、魔法陣が刻まれた首輪があった。
「奴隷の首輪を外したのに、それがあるとやっぱり前と変わらない感じになっちゃうよね。やっぱり腕輪にしようか?」
「必要ないじゃん。これはもう貰ったものだから返すつもりもないじゃん!」
ボワッと栗毛色の尻尾を逆立たせたシンシーラが大きな声でノーと告げる。
どうしたものか、と視線を彷徨わせていると、同じ魔道具を首に嵌めたエミリーと目が合った。
「んー……エミリーはどう思う?」
「わ、私も返すつもりはないです! 腕に着けていると邪魔ですから!」
「ふーん……ペンダントタイプとかもできそうだよ? それなら邪魔にならないんじゃないの?」
「そ、そうですけど……」
歯切れ悪くもにょもにょと口元を動かすエミリーは、狐人族の少女だ。
お酒をだいぶ飲んでいるのか、顔が赤くなっている。
シンシーラの方を見ると、彼女も頬が赤くなっていてそっぽを向いてしまった。
……魔道具がうまく機能してないのかな。
うーん、と首を傾げているとドフリックさんが何やら思案気な様子で僕たちの様子を見ていたけど、そっと近づいてきて耳を貸せとジェスチャーで伝えられた。
腰を屈ませてドフリックさんの顔の近くに耳を持っていく。……酒臭い。
「……シズト。お主、小娘共に首輪をプレゼントしたのか?」
「プレゼント……っていえばそうなるのか。したね」
「そうか。そう言えばお主、異世界から来たとか何とか言っておったのう。だったら知らなくても仕方ないと言えばそうなんじゃが……獣人の娘にな、男が首輪をプレゼントするという事はつまり、プロポーズのような物なんじゃ」
「……はい?」
「強者を尊ぶ者たちじゃからな。強い者が首輪を相手に送るという事は『俺の物になれ』という意味合いが強いとかそんな感じじゃった気がするのう。奴隷の首輪はそういう物じゃから、そうとは捉える者はいないがな。それとは別に首輪をプレゼントしたという事は、そういう事なんじゃ。お主がそういうつもりはなくとも、獣人の娘っ子共が勘違いしても仕方あるまい?」
ドフリックさんは言いたい事を言い終わると、バンバンと強く僕の背中を叩く。
「してしまった事は仕方ない。しっかりとしでかした事の責任を果たすのが男というものじゃ」
「パパンが言っても説得力ない。酒のトラブル、解決するのいつも周りの人」
「そうだったかのう、覚えとらんわーい」
「……シズト、パパンに酔い覚ましの首輪作って」
「ちょっと、今それどころじゃないっす……」
耳をピーンと立たせてこちらの話を聞いている様子の二人をどうするか、ちょっと考えないといけないので……。
屋敷の外まで見送りに出ると、赤色のワイバーンが騎手と一緒に待っていた。ブライアンさんが来るまで大人しく丸まっていたようだ。
「……大きいね」
「まあ、成体のワイバーンみてぇだからな。そりゃでけぇだろ」
「一部のギルドは飼い慣らして、ああして移動に利用したり軍事的に活用したりしているのよ?」
「へー」
ラオさんとルウさんの解説を聞きながら物珍しく赤いワイバーンを見ていると、ワイバーンはブライアンさんともう一人の男の人を乗せるとすぐに飛び立ってしまった。騎手の人が慌てた様子で手綱を操っているのが見える。
「何かいきなり飛び立ったけど大丈夫かなぁ」
「まあ、誰も落っこちてねぇから大丈夫なんじゃねぇか?」
「なんであんなに急いでたんだろうね。日が暮れて時間が経てば経つほど魔物がいっぱい出るからかな?」
「竜騎士としてはそうかもしれないけど、お姉ちゃんとしては別の理由があると思うわ」
ルウさんがスッと視線を世界樹の方に向けた。
釣られてそちらを見ても、夜の闇の中に世界樹が聳え立っている様子しか見えない。
僕の近くで静かに控えていたホムラが口を開いた。
「おそらくフェンリルのテリトリーから少しでも早く離れたかったのかと思います、マスター」
「あー、なるほど」
いつも木の根元で丸まって寝ているから全然意識してなかったけど、そういえばフェンリルも高ランクの魔物だったな。
「純粋に力比べとなったら半端なドラゴンよりはフェンリルのがつえぇからなぁ。当然と言えば当然だよな」
「普段はただの毛玉なのにね」
そんなに強い魔物には見えないけど、一歩町の外に出ると魔物たちの血肉が飛び交うからやばいよね。
面倒な事になるのは嫌だし、敵対する事がないように気を付けないと、と改めて思った。
ブライアンさんを見送った後は食事、という事だったのだが、本館の奴隷たち全員が奴隷から解放されたという事で、お祝いの宴会をする事となった。
レヴィさんがどこかからか連れてきた人たちが料理の準備や給仕をしてくれて、本館に住んでいた奴隷の皆も含めて、全員で食事をする。
「酒の匂いがするぞ!!」
そんな声と共に大きく扉が開かれた。
扉を開いたのはずんぐりむっくりな体型のドワーフ、ドフリックさんだ。
我が物顔でドフリックさんも宴会に加わり、ドフリックさんだけ参加するのは不公平だから別館の人たちも一緒に楽しむ事となった。
魔道具師のボルドは姿を見せないけど……まあ、彼はそういう人だから、と割り切って給仕の人に部屋まで持って行ってもらう。
彼らを見送っていると、ぬっと図太い腕がワインボトルを差し出してきた。
赤ら顔のドフリックさんが胡乱気な様子で僕を見ている。
「お主、全然飲んでないのか。ほら、もっと飲め!」
「僕はまだ大人じゃないからジュースで……」
「なんじゃ、儂の酒が飲めないのか」
「私が代わりに飲んでやるじゃん」
ひょいっとドフリックさんからワインボトルを搔っ攫ったのは狼人族のシンシーラだった。
彼女はボトルから直接ぐびぐびと飲んでいく。
上を向いて一気飲みした彼女の首元には、魔法陣が刻まれた首輪があった。
「奴隷の首輪を外したのに、それがあるとやっぱり前と変わらない感じになっちゃうよね。やっぱり腕輪にしようか?」
「必要ないじゃん。これはもう貰ったものだから返すつもりもないじゃん!」
ボワッと栗毛色の尻尾を逆立たせたシンシーラが大きな声でノーと告げる。
どうしたものか、と視線を彷徨わせていると、同じ魔道具を首に嵌めたエミリーと目が合った。
「んー……エミリーはどう思う?」
「わ、私も返すつもりはないです! 腕に着けていると邪魔ですから!」
「ふーん……ペンダントタイプとかもできそうだよ? それなら邪魔にならないんじゃないの?」
「そ、そうですけど……」
歯切れ悪くもにょもにょと口元を動かすエミリーは、狐人族の少女だ。
お酒をだいぶ飲んでいるのか、顔が赤くなっている。
シンシーラの方を見ると、彼女も頬が赤くなっていてそっぽを向いてしまった。
……魔道具がうまく機能してないのかな。
うーん、と首を傾げているとドフリックさんが何やら思案気な様子で僕たちの様子を見ていたけど、そっと近づいてきて耳を貸せとジェスチャーで伝えられた。
腰を屈ませてドフリックさんの顔の近くに耳を持っていく。……酒臭い。
「……シズト。お主、小娘共に首輪をプレゼントしたのか?」
「プレゼント……っていえばそうなるのか。したね」
「そうか。そう言えばお主、異世界から来たとか何とか言っておったのう。だったら知らなくても仕方ないと言えばそうなんじゃが……獣人の娘にな、男が首輪をプレゼントするという事はつまり、プロポーズのような物なんじゃ」
「……はい?」
「強者を尊ぶ者たちじゃからな。強い者が首輪を相手に送るという事は『俺の物になれ』という意味合いが強いとかそんな感じじゃった気がするのう。奴隷の首輪はそういう物じゃから、そうとは捉える者はいないがな。それとは別に首輪をプレゼントしたという事は、そういう事なんじゃ。お主がそういうつもりはなくとも、獣人の娘っ子共が勘違いしても仕方あるまい?」
ドフリックさんは言いたい事を言い終わると、バンバンと強く僕の背中を叩く。
「してしまった事は仕方ない。しっかりとしでかした事の責任を果たすのが男というものじゃ」
「パパンが言っても説得力ない。酒のトラブル、解決するのいつも周りの人」
「そうだったかのう、覚えとらんわーい」
「……シズト、パパンに酔い覚ましの首輪作って」
「ちょっと、今それどころじゃないっす……」
耳をピーンと立たせてこちらの話を聞いている様子の二人をどうするか、ちょっと考えないといけないので……。
49
お気に入りに追加
413
あなたにおすすめの小説
スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~
暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。
しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。
もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。
おおぅ、神よ……ここからってマジですか?
夢限
ファンタジー
俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。
人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。
そんな俺は、突如病に倒れ死亡。
次に気が付いたときそこには神様がいた。
どうやら、異世界転生ができるらしい。
よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。
……なんて、思っていた時が、ありました。
なんで、奴隷スタートなんだよ。
最底辺過ぎる。
そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。
それは、新たな俺には名前がない。
そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。
それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。
まぁ、いろいろやってみようと思う。
これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
見よう見まねで生産チート
立風人(りふと)
ファンタジー
(※サムネの武器が登場します)
ある日、死神のミスにより死んでしまった青年。
神からのお詫びと救済を兼ねて剣と魔法の世界へ行けることに。
もの作りが好きな彼は生産チートをもらい異世界へ
楽しくも忙しく過ごす冒険者 兼 職人 兼 〇〇な主人公とその愉快な仲間たちのお話。
※基本的に主人公視点で進んでいきます。
※趣味作品ですので不定期投稿となります。
コメント、評価、誤字報告の方をよろしくお願いします。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう
味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる