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第15章 三本の世界樹を世話しながら生きていこう

幕間の物語134.老神父は権限がない

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 ドラゴニア王国の最南端に広がる不毛の大地。その地では、草は何も生えず、アンデッド系の魔物がどこからともなく湧いて出てくるため、以前までは他国との交易路くらいしか利用価値はなかった。亡者の巣窟と名付けられたダンジョンもある事にはあるが、如何せん攻略するためには難所が多かった。
 そんな利用価値が乏しい不毛の大地だったが、異世界から転移してきた者が世界樹を植えた事により状況が変わった。
 世界樹を中心にアンデッド系の魔物の侵入を阻む『聖域』の魔道具が設置され、結界の中に建物がどんどん建てられていく。
 当初は地面が荒れていたが、世界樹を中心に緑が広がり続けていて、今では最初に建設された場所に緑が溢れるようになっていた。それが世界樹の効果なのか、それとも神聖魔法の『セイクリッド・サンクチュアリ』の効果によるものなのか、はっきりしていない。ドラゴニア王国に仕える宮廷魔導士が町の建設という名目で派遣された際に調査をしようとしていたが、結局不毛の大地は全てシズトの土地となっていたため、検証される事なく調査が止まっている。
 今まで活用できていなかった広大な土地が条件付きではあるが使えるようになったと知ると一部の貴族がまた騒ぐと判断し、国王が公式で行う調査を止めたのだ。
 なぜ植物が生えたか、そんな事を気にせずに町はどんどん拡張されていく。
 拡張される町の区画は大きく分けて四つあった。
 一つは世界樹とその周辺に広がる畑の立ち入り禁止区画。
 この区画には許可を得た奴隷しか入る事は許されておらず、一歩でも足を踏み入れるとわらわらとドライアドたちが集まってくる。
 時々世界樹の素材を自分で拾ってしまおうと考える不届き者も現れるが、世界樹に吊るされて、Sランク以上の魔物と一緒に一晩過ごす事になる。
 二つ目は拡張中の部分で便宜上『拡張区画』呼ばれている。
 奴隷の首輪をつけた者たちが、荷物と共に魔道具化されたトロッコ『魔動列車』に乗って仲良く運ばれ、目的地に着くと台車に荷物を乗せ換えて目的地へと資材を運んでいた。
 魔動列車も最初は線路が一本しかなかったが、拡張と共にどんどん線路が増設され続けている。
 三つ目はシズトとは無関係の者たちがシズトから土地を間借りして店やギルドを出している区画だ。
 ギルドは当初、冒険者ギルドと商人ギルドしかなかったが、今では集まってきたドワーフたちが工房を立ち上げた事もあり、他のギルドも多数建設されつつあった。
 そして最後の四つ目は奴隷たちが居住している区画だ。居住区画とも呼ばれているそこは、二階建ての集合住宅地がたくさん建てられている。奴隷たちはお小遣いをシズトから与えられている事もあり、そのお小遣いを狙って商人たちが屋台を出していた。
 ただ、そのどれにも当てはまらないのが教会だ。
 シズトに加護を授けた三柱の教会がそれぞれ離れたところにあった。
 工房が集まっている東にアダマンタイトのメッキで覆われたプロスの教会が輝きを放っている。
 ドワーフたちが交代で管理をしていて、一日に数回、お祈りのためにずんぐりむっくりとした体型の男たちが教会に集まっていた。
 世界樹ファマリーから見て都市国家ユグドラシルに近い南には、ファマの教会が建てられていた。木造建築のその建物は、すべてが世界樹から取れた物で作られている。
 管理をしているのは熱心な教徒となったエルフの集団だった。熱心過ぎてなかなか新しい信者は定着していないようだ。
 そして、最後に西の方にエントの教会があった。
 魔道具化されたその教会に、今日もひっきりなしに子どもたちがやってくる。
 それを出迎えるのは、真っ白な布地に蔦のような金色の刺繍が施されたローブを身に纏っている老人だ。白髪交じりの黒髪に、灰色の瞳の彼の名前はアッシュ。シズトによって作られた魔法生物の一人だった。
 室内は薄暗く、白い壁面に『魔動プロジェクター』と名付けられた魔道具によって映し出された絵の近くで、彼は絵を見ている小さなお客様たちにゆっくりとした口調で語りかける。

「この御方こそが、我が教会が信奉している『付与』の神エント様じゃ。エント様から加護を授かったシズト様は、他の神にも加護を授けられておる。誰だか分かるかな?」
「ファマ様!」
「プロス様もだよ!」
「そうじゃな。『生育』の神ファマ様と、『加工』の神プロス様じゃ」

 投影されていた絵が変わり、今度は二柱が描かれた絵が壁に映し出された。
 それぞれの神からどんな加護を授かっているのか分かりやすいように、シズトが実際に加護を使っている場面を描いた絵がファマ様とプロス様の下に映し出される。

「プロス様から授かった加護は木材や金属などの加工を自在にできるものじゃった。ドワーフですら長年加工手段がなかったアダマンタイトも加工できてしまうすごい加護じゃ」
「だからドワーフさんたち、お祈りしてるんだね」
「もちろん加護を授かりたい、という思いはあるかもしれんのう。自分の力でアダマンタイトを加工したものはこの世で誰一人としておらんから、加護は不要だと考えている者もおるがな。ファマ様の方は一部のエルフが秘匿しておったが、世界樹すら育てる事ができる加護じゃな。ただ、世界樹ばかり注目されておるが、普通の植物にも使えるんじゃ。対象となった植物は急成長して、すぐに収穫できるんじゃ」
「ドライアドちゃんたちの植物魔法みたい」
「そうじゃな。同じ系統の魔法なのかもしれん。ただ、神から授かった加護では世界樹を育てる事ができるから、神の力の方が上じゃろうがな。今日の話はこれにておしまいじゃ。夕方には帰るんじゃぞ」
「はーい!」

 室内の灯りが灯され、カーテンが自動で開くと外からも日の光が入ってくる。
 一日に一度だけ行われるお話を聞き終えた小さな信者たちは、自由に教会の中を歩いて回る。
 大きな信者たちは魔道具が何とか手に入らないかアッシュに交渉しようとするが、アッシュからは「店に行けば何かしらはあるじゃろ?」と言われて取り付く島もない。
 ただそれでもめげずに粘った一部の商人は、駐屯しているドラン兵によって教会から追い出されていた。

「まったく、ここは教会じゃと行っておるのにのう。懲りない奴らじゃ」

 そんな事をぼやくと、アッシュは教会の奥へと消えていった。
 残された子どもたちは、夕方まで魔道具に魔力を流しては映し出されるいろいろなエント様を見て楽しそうにお喋りをし続けるのだった。
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