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第15章 三本の世界樹を世話しながら生きていこう
幕間の物語129.若き女王は自力で頑張る予定
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ガレオールの首都ルズウィックにある真っ白な城の女主人ランチェッタ・ディ・ガレオールは、片手間に食べられるという理由で作らせたサンドウィッチを食べながら職務に励んでいた。
露出の多いドレスを着ている彼女の胸元は今にも零れ落ちそうだが、室内には侍女が一人しかおらず、魅惑の谷間に熱視線を送る者はいない。
普段付けない丸眼鏡をかけ、手元の資料を読み込む灰色の瞳が忙しなく動いている。
外は既に日が暮れており、室内を魔道具の灯りが照らしているが、広すぎる部屋をすべて照らす事は出来ていなかった。
黙々と執務に取り組む彼女を見守っていたメイド服を着た褐色肌の侍女ディアーヌだが、扉が叩かれる音に気付いた。
ディアーヌが手紙を受け取っているのを、丸眼鏡を通して見ていたランチェッタが首を傾げる。
「どこからの手紙かしら?」
「……シズト様からのお手紙のようです」
扉を完全に閉め、近づいてきたディアーヌに、ランチェッタが問いかけると、ディアーヌは何とも言えない表情で答えた。
ランチェッタも、眉間に皺寄せて首を傾げる。
「一週間猶予が欲しい、と昨日レヴィア王女殿下から連絡が来たばかりよね?」
「そうですね。ただ、今回はシズト様ご本人からのお手紙のようです」
「……はぁ。判断が早い所から考えて、お断りの手紙かしら」
「私からは何とも。どうぞ」
ランチェッタは封筒を受け取ると、裏の封蝋を確認する。
ユグドラシルの大樹を模したシンボルが描かれていて、確かにユグドラシルの使者からの物だと分かる。
ペーパーナイフを用いて開封すると、中に入っていた便箋を見て「あら?」と首を傾げた。
お断りの文言にしては枚数が多い。
諦めるのは早計かもしれない、と高鳴った鼓動を抑えつつ、便箋を取り出す。
ディアーヌが見守るなか、静かに読み進めるランチェッタ。
一枚目を読み終え、二枚目、三枚目と読み進め――便箋を机の上に置く。
主の表情の変化を見守っていたディアーヌが問いかける。
「……シズト様からは何と?」
「私さえ良ければ、まずは手紙のやり取りからしてお互いの事を知ってから答えたい、という事だそうよ。後は彼の都合で手紙のやり取りから、という事になる謝罪と、お詫びとしてある程度の量の魔道具を優先的に作る事の確約はいただいたわ」
「なるほど。これで貴族や商人たちも多少は静かになるかもしれませんね。申し出については?」
「受けるに決まってるじゃない。無理だと思って提案した事だったけれど、可能性があるなら逃す手はないわ。シズト殿的にはご自身の悪い点として書いたんでしょうけど、国のトップになりたくないって手紙に書かれていたから猶更ね」
「そうですね。シズト様の立場を鑑みると、ガレオールでは表舞台に極力出ずに過ごしてもらった方がこちらとしては都合がいいですし、丁度いいですね」
ランチェッタは「そうね」と相槌を打つと、先程まで処理していた書類をすべて机の脇に追いやった。
色鮮やかな羽根ペンにインクをつけ、ディアーヌが用意した便箋に時候の挨拶を書き――紙をぐしゃっと丸めて放り投げた。
「友人相手に書いてくださっているのに、こっちが堅苦しく書いたら距離ができちゃうわね」
「仰る通りかと。シズト殿のお手紙を参考に書いてみてはいかがでしょうか?」
「そうね。となると……」
すらすらと文字を書き始めるランチェッタ。
その横顔は歳相応のようで、近くで見守っていたディアーヌは嬉しそうに口元を綻ばせるのだった。
だが、それも長くは続かない。
再度紙をぐしゃぐしゃに丸めて後ろに放り投げたランチェッタは、片手で顔を覆って深いため息を吐いた。
「どうされましたか?」
「……手紙の内容が仕事の事ばかりになってしまったわ」
「まあ、朝起きてから寝るまで職務に励んでおりますからね。信用できる部下にもう少し仕事を振ってもよろしいと思いますが。選定は既にお済でしょう?」
「そうだけど……心の内までは分からないから信用しきれないのよね」
「それこそ、読心の加護をお持ちのレヴィア王女殿下にご協力してもらって確かめますか?」
「他国の姫君にそんな事させられないわよ。同じ婚約者になればあるいは……いや、無いわね」
「ですね」
再度、ため息を吐くランチェッタは、気を取り直してペンを執る。
書き出しは先程同じで挨拶から始まり――ペンが止まった。
その近くではランチェッタに一言断ってからシズトから届いた手紙をディアーヌが読んでいた。
「なるほど、シズト様はまずはお互いの事を知るために好みなどを書いていらっしゃいますね」
「好みって言われても……甘い物は好きだけど体型を維持するために極力取らないようにしているし、書いて送られても困るわ」
「好きな場所でもよいのでは?」
「……そうね。であれば、ビッグマーケットね」
「シズト殿も甘い物がお好きなようでしたし、お勧めの店を紹介してもいいかもしれません」
「確かにそうね。タタン・タトルの事でも書いておきましょう」
それからしばらくして手紙を書き終えたランチェッタは、いそいそと便箋を封筒に入れ、封蝋を押すとそれをディアーヌに渡す。
「早速シズト殿に届けさせなさい」
「……お言葉ですが、時間帯が時間帯なので、明日の方がよろしいかと」
「……そうね」
「急いては事を仕損じる、と言いますし、これは明日届くようにさせます」
「ありがとう。さて、シズト殿と文通するとなると、その文面を考えるために時間が必要になるわけだけど……」
「配下の選定のために、読心の魔法を使う事ができる魔道具がないか確認するのもいいかもしれませんね」
「そうね。まあ、できる範囲自力で頑張るわ」
「あまりご無理はしないでほしいのですが……」
「結婚できるかもしれないのだから、ここで頑張るしかないでしょう?」
そう問いかけ、楽し気に笑うランチェッタを、困った表情でディアーヌは見る。
ただ、結局ディアーヌは何も言わずに頭を下げるだけだった。
露出の多いドレスを着ている彼女の胸元は今にも零れ落ちそうだが、室内には侍女が一人しかおらず、魅惑の谷間に熱視線を送る者はいない。
普段付けない丸眼鏡をかけ、手元の資料を読み込む灰色の瞳が忙しなく動いている。
外は既に日が暮れており、室内を魔道具の灯りが照らしているが、広すぎる部屋をすべて照らす事は出来ていなかった。
黙々と執務に取り組む彼女を見守っていたメイド服を着た褐色肌の侍女ディアーヌだが、扉が叩かれる音に気付いた。
ディアーヌが手紙を受け取っているのを、丸眼鏡を通して見ていたランチェッタが首を傾げる。
「どこからの手紙かしら?」
「……シズト様からのお手紙のようです」
扉を完全に閉め、近づいてきたディアーヌに、ランチェッタが問いかけると、ディアーヌは何とも言えない表情で答えた。
ランチェッタも、眉間に皺寄せて首を傾げる。
「一週間猶予が欲しい、と昨日レヴィア王女殿下から連絡が来たばかりよね?」
「そうですね。ただ、今回はシズト様ご本人からのお手紙のようです」
「……はぁ。判断が早い所から考えて、お断りの手紙かしら」
「私からは何とも。どうぞ」
ランチェッタは封筒を受け取ると、裏の封蝋を確認する。
ユグドラシルの大樹を模したシンボルが描かれていて、確かにユグドラシルの使者からの物だと分かる。
ペーパーナイフを用いて開封すると、中に入っていた便箋を見て「あら?」と首を傾げた。
お断りの文言にしては枚数が多い。
諦めるのは早計かもしれない、と高鳴った鼓動を抑えつつ、便箋を取り出す。
ディアーヌが見守るなか、静かに読み進めるランチェッタ。
一枚目を読み終え、二枚目、三枚目と読み進め――便箋を机の上に置く。
主の表情の変化を見守っていたディアーヌが問いかける。
「……シズト様からは何と?」
「私さえ良ければ、まずは手紙のやり取りからしてお互いの事を知ってから答えたい、という事だそうよ。後は彼の都合で手紙のやり取りから、という事になる謝罪と、お詫びとしてある程度の量の魔道具を優先的に作る事の確約はいただいたわ」
「なるほど。これで貴族や商人たちも多少は静かになるかもしれませんね。申し出については?」
「受けるに決まってるじゃない。無理だと思って提案した事だったけれど、可能性があるなら逃す手はないわ。シズト殿的にはご自身の悪い点として書いたんでしょうけど、国のトップになりたくないって手紙に書かれていたから猶更ね」
「そうですね。シズト様の立場を鑑みると、ガレオールでは表舞台に極力出ずに過ごしてもらった方がこちらとしては都合がいいですし、丁度いいですね」
ランチェッタは「そうね」と相槌を打つと、先程まで処理していた書類をすべて机の脇に追いやった。
色鮮やかな羽根ペンにインクをつけ、ディアーヌが用意した便箋に時候の挨拶を書き――紙をぐしゃっと丸めて放り投げた。
「友人相手に書いてくださっているのに、こっちが堅苦しく書いたら距離ができちゃうわね」
「仰る通りかと。シズト殿のお手紙を参考に書いてみてはいかがでしょうか?」
「そうね。となると……」
すらすらと文字を書き始めるランチェッタ。
その横顔は歳相応のようで、近くで見守っていたディアーヌは嬉しそうに口元を綻ばせるのだった。
だが、それも長くは続かない。
再度紙をぐしゃぐしゃに丸めて後ろに放り投げたランチェッタは、片手で顔を覆って深いため息を吐いた。
「どうされましたか?」
「……手紙の内容が仕事の事ばかりになってしまったわ」
「まあ、朝起きてから寝るまで職務に励んでおりますからね。信用できる部下にもう少し仕事を振ってもよろしいと思いますが。選定は既にお済でしょう?」
「そうだけど……心の内までは分からないから信用しきれないのよね」
「それこそ、読心の加護をお持ちのレヴィア王女殿下にご協力してもらって確かめますか?」
「他国の姫君にそんな事させられないわよ。同じ婚約者になればあるいは……いや、無いわね」
「ですね」
再度、ため息を吐くランチェッタは、気を取り直してペンを執る。
書き出しは先程同じで挨拶から始まり――ペンが止まった。
その近くではランチェッタに一言断ってからシズトから届いた手紙をディアーヌが読んでいた。
「なるほど、シズト様はまずはお互いの事を知るために好みなどを書いていらっしゃいますね」
「好みって言われても……甘い物は好きだけど体型を維持するために極力取らないようにしているし、書いて送られても困るわ」
「好きな場所でもよいのでは?」
「……そうね。であれば、ビッグマーケットね」
「シズト殿も甘い物がお好きなようでしたし、お勧めの店を紹介してもいいかもしれません」
「確かにそうね。タタン・タトルの事でも書いておきましょう」
それからしばらくして手紙を書き終えたランチェッタは、いそいそと便箋を封筒に入れ、封蝋を押すとそれをディアーヌに渡す。
「早速シズト殿に届けさせなさい」
「……お言葉ですが、時間帯が時間帯なので、明日の方がよろしいかと」
「……そうね」
「急いては事を仕損じる、と言いますし、これは明日届くようにさせます」
「ありがとう。さて、シズト殿と文通するとなると、その文面を考えるために時間が必要になるわけだけど……」
「配下の選定のために、読心の魔法を使う事ができる魔道具がないか確認するのもいいかもしれませんね」
「そうね。まあ、できる範囲自力で頑張るわ」
「あまりご無理はしないでほしいのですが……」
「結婚できるかもしれないのだから、ここで頑張るしかないでしょう?」
そう問いかけ、楽し気に笑うランチェッタを、困った表情でディアーヌは見る。
ただ、結局ディアーヌは何も言わずに頭を下げるだけだった。
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