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第14章 海洋国家を観光しながら生きていこう

252.事なかれ主義者は船に乗る

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 帆船が帆も張らず、波をかき分けてどんどん進む。
 前方から向かい風が吹いていようが関係なく、すれ違う交易船の船乗りたちに驚かれながら目的地に向かって真っすぐに進む。
 こういう場合、乗っている魔法使いが風魔法で動かすらしいけど、そもそも帆を張ってないからビックリされるのも当然だよね。
 船の舵輪を操作しているのは我らがキャプテン・バーナンドさん。
 船長だけが身に着ける事を許されているらしい帽子を被り、厚い胸板を反らしながら豪快に笑っている。

「いやぁ、お前さんが作った魔道具ってのには本当に驚かされるなぁ! すれ違う船の奴らのアホ面ときたら、笑えて仕方ねぇわ!」

 彼の足元では複雑な文様を描いている魔法陣が輝いている。
 ドフリックさんから貰っていたメモ書きを元に船に後付けしたスクリューを回すための物だけど、船全体の強度の補強とか諸々詰め込んだからか当初の予定よりも大きく複雑な物になっている。
 だいぶ前に作った高圧洗浄機のように、少量の魔力を増幅して魔力を賄っているけど、魔力タンクとして数人の船乗りが魔法陣の中に一緒に入って、のんびり賭け事をしていた。
 サイコロを振って丁か半か当てるだけのよく時代劇で見る奴だったのでさっき混ぜてもらって遊んだけど普通に負けた。財布の中が悲しい事になってる。

「キャ~プテ~ン。帆を操らなくていいのは楽っすけど、俺たちの仕事なくなっちまうっすよー」
「だからって俺の近くで賭け事なんぞしてんじゃねぇ!」
「いや、だって暇っすもん。魔法陣の中にいるだけでいいって言われたけど、万が一に備えるためにも寝るわけにもいかないじゃないっすか」

 帆を使わずに動くという事は、その分それを操っていた人たちの仕事を奪うんだな、と再確認した。
 まあ、そりゃそうだよね。
 馬車を自動車……じゃない魔動車に改造したら馬は要らないし、馬が要らなくなると馬の世話をしていた人たちの仕事もなくなるし。
 船尾の方へと向かうための階段に腰かけながら、考え込んでいると僕の近くで海を見ていたラオさんが近づいてきた。
 なんだろう? と思っていると、人差し指で僕の眉間をぐりぐりとしてくる。

「何難しい顔してんだよ」
「いや、魔道具の影響で職を失う人たちについてちょっと……」
「そんな事今更じゃねぇか。転移陣を設置したら国内では船がほとんどいらなくなるんじゃねぇか?」
「まあ、それはそうだけど、実際に見たらより実感したというか、気づかされたというか……」
「気にする事ねぇだろ。自分の行動の結果なんていちいち考えてたら何もできなくなるだろ? そこら辺は上の立場の奴らが問題ないように考えるだろうさ」

 そういう物かなぁ。
 何とも言えない気持ちを言語化しようと考えていると、船首の方で前方を眺めていたレヴィさんが何やら騒がしい。

「シズトー! シズトー!! 来るのですわ~。島が見えたのですわ~」
「ほら、もうすぐ到着すんだから、先の事は後回しにして今やるべき事をやるぞ」

 両脇にラオさんの腕が差し込まれ、ヒョイッと持ち上げられて無理矢理立たされた。
 そのままジッとしているとラオさんに運ばれるのが分かっていたので急いで船首に向かう。
 これまでも島はいくつか通り過ぎていたけど、ここら辺は本当に島が多い。

「この一帯は高位貴族や他国の王族たちが別荘を建てているのですわ。シズトのように土地を貰ったわけではなく、貸し与えられているだけですけれど、島に近づくと警戒されるからさっさと通り過ぎるのですわ~」
「へー。ドラゴニアの別荘もあるの?」
「一応あるみたいですけれど、遠すぎてほぼほぼ放置してるのですわ。どちらかと言うと、ニホン連合に属する国々の別荘が多いみたいですわ。勇者は海も好きなのかもしれないですわね。……シズトも好きなのですわ?」
「あー、どうだろう? 海に入った後体洗うの面倒だなぁとか、海水浴に行くと人がいっぱいいて思う存分遊べないなぁ、とか思った事はあるけど」

 むしろ勇者たちが好きなのは水着姿の女の子たちと遊ぶ事なんじゃないかな。
 最近全く噂を聞かない同じ転移者の陽太も、夏になると海やプールによく行っていた。荷物番してるだけでいいから楽だったなぁ。やっぱり砂の山やトンネルだけじゃなくて、久しぶりに本格的にお城作ったりしたい。
 海の家がないのはちょっと残念だけど、無いなら作ってしまうのもありかも?
 ああ、でも魔物の危険があるのか。

「……そういえば、魔物の襲撃特にないね?」
「ここら辺はまだガレオールの首都に近いですし、魚人の国も近いからっすね。だから魚人の冒険者が駆除したり、兵隊たちが巡回したりしてんでさぁ。今回は女王陛下がガレオールの冒険者にこの船の護衛を依頼したみたいっす」

 近くで海の中を警戒していたのだろう船員の一人が理由を説明してくれた。
 魚人の国が近いのか……行ってみるのもありかな。

「それより旦那。これ以上島に近づくと浅瀬に乗り上げるけど、ボートに乗り換えますかい?」
「うん、そうだね」
「わかりやした。おい、冒険者ども! ボートに乗り移っからどんなランクの低い魔物でも近づかせるんじゃねぇぞ!」

 船員さんが船から乗り出し、海面を覗き込んで怒鳴ったが返答はない。
 だけどやる事は終わった様で、船首から離れる船員さん。
 ……とりあえず、スクリューを付けたボートの試運転してから島に向かおうかな。

「試験は私が行います。シズト様はどうぞ、ごゆるりとお待ちください」
「ジュリウスだけずるい! 僕も一緒に乗せてよ! 魔道具に不調があった時にすぐに対応できた方が良いでしょ?」
「テストはシズト様以外がする、という話でしたよね?」
「もう十分すぎるほどおもちゃでしたし、この前もちょっとしたじゃん!」
「周囲の人に配慮して行っていたので、全力ではなかったとルウ様が仰ってましたので。安全が確認でき、島に着いてからであれば操縦をして頂いて構いません。しばしご辛抱ください」
「…………まあ、仕方ないかぁ」

 ジュリウスのこの感じ、粘っても無理そうだ。
 運転した事なかったし、早くやってみたいんだけどなぁ。
 アイテムバッグから取り出した素材でスクリュー付きのボートを作り、海面に着水させるとジュリウスが船から飛び移った。
 着地する瞬間、重力がなくなったかのように一瞬フワッとなったけど、あれも精霊魔法だろうか。
 僕も魔法陣の付与じゃなくて、魔法使えたら便利だよなぁ。
 使えもしない魔法について思いを馳せていると、ジュリウスがボートを全力で動かし始めた。
 …………アレ、船酔いしそう。全速力出すのはやめとこ。
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