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第11章 旅の準備をしながら生きていこう

179.事なかれ主義者は頭を撫でられた

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 都市国家トネリコからのお手紙に関しては、とりあえず準備が整ったら行く、という事にした。
 助けない、という選択肢も頭に浮かんだけど逆恨みされるのは面倒だし、トネリコに行くのは決めている。
 ただ、この大陸を縦断するくらい遠いらしい。
 ドランが北の端っこにあるのに対して、トネリコは南西の端っこにあるんだとか。
 ファマ様の信徒を増やすという目的は、手紙の内容からして今でも十分達成しているみたいだし、急がなくてもいいだろう。
 あくまで手紙だから、思ってもいない事を書く事は簡単にできるし、手紙の内容すべてを信じるのは危険だろうけど。
 あまり先延ばしにしすぎて面倒事が起きても嫌なので、行く方法に目途がついたら世界樹の世話をしに行こう。
 方針が決まれば、後はいつも通りの日々だ。
 寝る前にアダマンタイトの加工をひたすら練習して、気絶するように眠った。



 魔力切れで気絶するように寝たから、だるさを感じつつも安眠カバーの効果で今日もばっちり目が覚める。
 目が覚めて視界に入ってきたのは、すぐ近くに座っているエルフのジューンさんだ。
 柔らかく細い指が僕の髪を優しく頬をなぞっていたが、僕が起きた事に気づいて手が離れていった。
 視線を横に向けるとムチムチの太ももがすぐそばにあるし、ジューンさんの方に向けると大きな二つのふくらみが視界に入るので視線を逸らして起き上がる。

「シズトちゃん、おはようございますぅ」
「おはよ……ちゃん?」
「あらぁ、ごめんなさいですぅ。子どもたちにはちゃん付けで呼んでたからぁ、ついそう呼んでしまいましたぁ」

 アワアワと慌てて弁解している彼女の行動とは裏腹の口調にクスッと笑ってしまう。

「まあ、呼び方にこだわりとかないし、呼び慣れた方法でいいよ」
「そうなんですかぁ? ありがとうございますぅ。それでぇ、シズトちゃんのお世話係を任されましたがぁ、朝はお着替えのお手伝いをすればいいですかぁ」
「一人でできるので出て行ってもらえますぅ?」
「一人でできるんですねぇ、偉いですぅ。それではぁ、私はお部屋から出て待ってますねぇ」

 ポンポンと僕の頭を撫でると離れていくジューンさん。
 パタン、と扉が閉じてから服を着替えた。
 ササッと着替え終わって外に出ると、ジューンさんに止められる。
 真剣な眼差しの彼女の視線は、僕の頭に向かっていた。

「寝癖がついていますぅ」
「そう?」
「ここにありますよぉ」

 そっと僕の髪の毛を繰り返し撫でてくるジューンさんに部屋に戻され、椅子に座らされるとジューンさんはせっせと寝癖を直しにかかる。
 精霊魔法を使って寝癖を直すのは斬新だなぁ。
 いつもはついでに風呂に入って直してるけど、そういう魔道具を作れば一人でササッとできるし便利かも。
 当てるだけでこう、寝癖を直すやつ。

「シズトちゃん、直りましたよぉ。ご飯を食べに行きましょうねぇ」
「あ、はい」

 ジューンさんに手を引かれて食堂へと向かう。
 ……動きが自然過ぎて、手を繋いだまま食堂の扉の前まで来ちゃった。
 ただ、なんだろう。婚約者というよりも親子という感じがしません?
 不思議だなぁ。
 皆がいつも通り僕が来るまでご飯を食べずに待っているので、どうでもいい考えをどこかに捨てて食堂に入る。

「おはよー、皆」
「おはよーですわー」
「シズトくん、おはよう! 昨日はよく眠れたかしら?」
「安眠カバーがあるんだから聞くまでもねぇだろ」

 自分の席に座ると、右斜め前に座っているホムラが座ったままぺこりと頭を下げた。
 長い黒髪が動きに合わせて揺れる。

「おはようございます、マスター。今日もサイレンスの店番をしていればいいのでしょうか?」
「うん、それでいいよ。ユキは学校の事でファマリアに行くだろうからね」
「わかりました、マスター」

 無表情のままこくりと頷くホムラから反対側に座っているユキに視線を映すと、彼女もホムラと同じように頭を下げた。
 真っ白な髪の毛だけではなく、ホムラよりも大きく膨らんだ胸部も揺れた気がする。

「おはよう、ご主人様。研修所の建設準備は順調よ。資材はもう買い揃えたから後は組み立てるだけね。魔法建築士を雇ってるから数日でできると思うわ」
「机とか椅子は僕が作るのもありだけど、だいぶ溜まってるらしいお金をどんどん使っていきたいし、内装も任せるね」
「分かったわ、マスター」

 雇っている奴隷にだけ解放するから研修所、という名前に落ち着いた学校もどきは順調のようだ。
 とりあえず読み書きだけ教える予定で話が進んでいる。
 過去の勇者が学校とかそういう所をちょいちょい作ってはいたようなので、公爵のリヴァイさんも、国王のラグナさんも「好きにすればいい」と許可してくれた。
 ニコッと微笑むユキから視線を移し、壁際に控えているジュリウスを見ると、視線に気づいた彼はすぐ近くに寄ってきて跪く。

「立って。教師の方はどう? 順調に集まってる?」
「希望者が多いので、その選定に手間取るかと。筆記テストとジューン様との面談でふるいにかけ、最終的な候補者が決まりましたらお伝えします」
「分かった。そこら辺は任せるね」

 話をしている間に、エミリーが配膳をし終えたようだ。
 いつもモフッと僕の体に尻尾を当てていくんだけど、今日は何だか元気がないのか尻尾が垂れていて、そういう事もしてこなかった。
 気にはなりつつも、とりあえず食事をしよう、と思って手を合わせる。

「それじゃあ、いただきます」

 僕の掛け声の後、皆が唱和して食事が始まった。
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