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第10章 婚約(仮)をして生きていこう

163.事なかれ主義者は少し心配

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 レヴィさんに婚約をしようと言ってから一週間が経った。
 ただ、レヴィさんとの関係は特に変わっていない。というか、元通りになった感じだ。
 龍の巣の件以降、自由に過ごさせてもらっていたけど、お世話当番がついに復活してしまったのだ。
 朝は当番の人が起こしに来て、食事をしてからファマリーやユグドラシルのお世話をして過ごす。
 ファマリーはまだまだ成長中、という感じで少しずつ伸びて行っている。
 ユグドラシルは一週間に一回加護を使えば十分なんだそうだ。
 青いバラのドライアドが通訳してくれて知った事だ。通訳ついでに、お世話が必要な時は呼びに来るようにお願いしている。
 世界樹のお世話が終われば特にやる事はない。
 意図的に残した魔力で、その時に思いついた魔道具を適当に作ったり、家庭菜園のお世話を小さい方のドライアドやアンジェラと一緒にしたり、お昼寝をしたり、のんびり過ごした。
 龍の巣以降、一人で入っていたお風呂は、当番が復活した事によって混浴に戻ってしまった。
 目のやり場に困るけど、ラオさんに頭を洗ってもらうのは捨てがたい……。

「なんかコツみたいなのあるの?」
「あ? んなもんねぇよ」
「またまたぁ」
「髪洗ってるだけだっつぅの」

 ファマリーの根元で、ドライアドたちと日向ぼっこしている僕を、ラオさんが見下ろしてきた。地面に寝転がるのはアレなので、魔法を付与した絨毯の上でゴロゴロしている。
 ちょっと。そこ立ってると、そっちのドライアドのいる場所が影になっちゃうんすよ。
 ほら、ドライアドが日向を求めてこっちにコロコロ転がってきちゃうじゃん。
 一人が集まると面白がってみんな集まっちゃうんですけど。

「ん? 髪をうまく洗える手袋を作れば、自分でもいい感じに洗えるのでは?」
「アタシが洗ってやるから下らんもん作るんじゃねぇよ……」
「いや、一人で入る時に使おうと思いましてね?」
「一人で入る事ができたらいいな」

 一人が良いってしっかりと言えばそうしてくれるでしょ。……そうだよね?
 ラオさんどうしてそっぽ向いてるんですか?
 ってか、僕の上に積み重なってるドライアドたちをそろそろ退けてもらえません?
 いい加減ちょっと苦しくなってきたんですけど。
 護衛の方ー!



 ラオさんに救出された後、ドランの屋敷に戻った。
 アンジェラと一緒に勉強をして過ごしているとモニカが呼びに来た。

「シズト様、お食事の準備が整いました」
「あ、もうそんな時間? それじゃあ、今日はこのくらいにしとこうか」
「はーい」

 アンジェラは毎日一人でも手紙をせっせと書いている事もあって、簡単な読み書きだったらできるようになりつつあった。
 学ぶ意欲が高いからか、どんどん知識を吸い込んでいくのが面白い。
 面白いけど、字を読めない人もいるからそういう人向けの魔道具を作るのもありかな?
 読み上げ機能付きのペンみたいなやつとか?
 今度作ってパメラにでも渡してみるか。
 アンジェラが別館の方へと帰っていくのを見送って、食堂へと向かうと既に皆が座って待っていた。

「それじゃ、いただきます」
「いただきますなのですわー!」

 ユキの隣に座って、美味しそうにローストビーフを食べているレヴィさんは今日も元気だ。
 結婚の申し込みの対応とか諸々貴族の相手をお願いしているが、疲れた様子もない。

「レヴィさん、今日も特に問題なかった?」
「問題はなかったのですわー。ああ、でも魔道具の依頼はいくつか入ったのですわ。暇な時にでも作ればいいと思うのですわ」
「この前の依頼の後でいい?」
「んー……判断が難しい所ですけれど、順番を繰り上げても特に恩恵はなさそうですし、順番通りでいいのですわ」

 レヴィさんがそう言うならそうなんだろう。
 特に気にする事無くのんびり作って行こう。
 レヴィさんに婚約を申し込んだ翌日には、国王陛下にレヴィさん経由で伝えてもらったんだけど、とんとん拍子に進んでしまって正式に婚約者になっている。
 国王陛下は忙しいし、まだ心の準備ができてない事もレヴィさんは察しているんだろう。別に今の所会わなくてもいいとレヴィさんに言われたので直接会ってはいないが、婚約をしている事もあって結婚の申し込みはだいぶ減っているらしい。
 ただ、減っていてもレヴィさんに話が来た時点で断っているので、レヴィさんが悪く言われないといいんだけど……。
 スープを飲みながらチラッとレヴィさんの方を見るが、分からなかった。
 ジッと見ていると、視線に気づいたレヴィさんがこちらを見た。

「シズト、まだお風呂に入っていないのですわ?」
「え、うん」
「間に合って良かったのですわ! 今日は私の当番の日なのですわ!」
「急いだ甲斐がありましたね」

 レヴィさんの後ろに控えていたセシリアさんの口元が綻ぶ。
 ああ、だからレヴィさんめちゃくちゃ元気というか明るかったのか。
 ただレヴィさんや。そんなに急いで食べても僕が食べ終わらないと一緒には入れないっすよ。
 早く食べ終わったレヴィさんに見守られながらのんびりと食事を済ませると、レヴィさんお待ちかねのお風呂タイムだ。
 背中が隠れたワンピースタイプの湯浴み着に着替えたレヴィさんに、背中をごしごしと洗われながら雑談をしていたのだが、何かを思い出したかのようにレヴィさんが声をあげた。

「そう言えば、お母様がドランにやってきてるらしいのですわ~」
「へぇ~…………それって、僕が原因だったりしますかね?」
「十中八九そうでしょうね」

 ですよねぇ。
 レヴィさんの手伝いをしていたセシリアさんが頑張ってください、と言ってきたけど何を頑張ればいいんすか。
 ってか、国王陛下にもろくに挨拶もしてないのに大丈夫なのか余計に心配になってきた。
 まだ心の準備ができていないからいきなり会えって言われても困るんですけど、ほんとに挨拶しなくて大丈夫なんすか、レヴィさん!

「大丈夫なのですわー」

 ニコニコと楽しそうにごしごしと僕の背中を擦りながら、レヴィさんは暢気にそう答えた。
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