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第9章 加工をして生きていこう

158.事なかれ主義者にモテ期が来たらしい

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 そのうちファマリアはさらに大きくなって、他国からたくさんの人が訪れるはずだ。
 だから他国の偉い人を持て成すための場所が必要なはず、という申し出がどこかから来て、作られたのが遠くに見える迎賓館だ。誰が言い出したんだったか……あんまり興味がわかなくて、忘れちゃった。
 世界樹の近くにある住居で接待する程親しい訳でもないからと、レヴィさんはここで貴族たちの相手をしているそうだ。今までは冒険者ギルドや商人ギルドの会議室を間借りして相手していたらしいが、今回は相手が多い事と、他国のお偉いさんもいるからここにしたらしい。

「なんか入りたくなくなってきた」
「じゃあ帰んのか?」
「お姉ちゃんたちはどっちでもいいわよ?」
「シズト様の御心のままに」
「行くよ? 行くけどさぁ、なんか入り辛いじゃん。なんでこんな無駄に広い敷地のど真ん中に建物が建ってんのさ。余計に入り辛いわ」

 居住区の北側に、広めに聖域の魔道具で囲ったその建物は、不毛の大地にぽつんと立っているように見える。
 いつまでも突っ立っていても仕方ないからと、歩いて建物に向かうには時間がかかりそうなそこに向けて、ラオさんに背中を押されながら進む。

「こちらの迎賓館には基本的に馬車でお越しになる方ばかりですので、建物まで遠くても問題ないと思われて作られたのでしょう」
「徒歩で来る人のために動く床でも作ろうかなぁ」
「それもいいかもしれません。将来、迎賓館の周囲を庭園にしようと話が出ていますので」
「まあ、やりたきゃやりゃいいんじゃねぇか? ここを歩いて訪れるのはシズトみてぇなやつくらいだろうし、わざわざそれを作る必要はねぇと思うけど」
「あら、それはどうかしら? 他の場所ではそんな物はないでしょうし、物珍しさで使う人がいるかもしれないわ」
「移動手段だったら転移陣でいいんじゃねぇか?」

 まあ、そうだよね。
 僕も話していてそれ思った。
 転移陣の宣伝にもなるし、もしかしたらありなのかも?
 でもそんな事したらめちゃくちゃ働かなくちゃいけなくなりそうだし、転移陣はないかな。
 その後もどうでもいい話をしていたら、あっという間に建物の目の前についてしまった。
 大きな玄関が開かれると、中からセシリアさんが出てきた。
 いつも通りの長いスカートタイプのメイド服を身に纏った彼女は、空のように薄い青い目で僕を不思議そうに見てくる。

「シズト様、いかがなさいましたか? レヴィア様に何か御用でしょうか?」
「御用ってほどじゃないけど、大丈夫かなって。ほら、ユウトとかいう人といろいろあった後だし」

 ないとは思うけど、呪うなとは言ったけど暴れるなとは言われてないから暴れました、とかあったら困るし。
 そう思っていたら、セシリアさんは首を横にゆっくりと振った。

「その点に関しては何も問題は御座いません。ジュリウス様達が監視をしていたそうですが、近衛兵から邪神の信奉者についての尋問をされた後、ドラコ侯爵が領地に連れ戻したらしいです。また、息子がしでかした事からドラコ侯爵自身も、国王陛下から何かしらの処罰があるかと思いますが、シズト様が気にされる事ではないです」
「できれば穏便に済ませて欲しいんだけどなぁ」
「それは無理なんじゃねぇか? ここで曖昧な態度だと、後々同じような事をしでかそうとする奴がゴロゴロと出てくるようになっちまうだろうし」
「そうね、シズトくんに手を出すと容赦しないぞ、って睨みを利かせておかないとおバカさんがまた来ちゃうかもしれない物ね」
「それと、国の面子もあるでしょう。おそらくシズト様に関して何かしらの王命があったはずでしょうからね」

 なるほど、いろいろあるんだなぁ。
 やっぱりそういう事考えなきゃいけないなら、責任ある立場になりたくないわ。貴族とかノーセンキュー。

「レヴィア様はもうそろそろ休憩をお取りになる予定ですが、お待ちになりますか?」
「あ、そうなんだ。待つよー、待つ待つ。丁度いいタイミングだったようで良かったー」

 セシリアさんを先頭に後をついて行く。
 ……ついて行く。
 …………ついて行く。

「って、遠いわ!」

 もう室内に転移陣設置していってやる! 痛い!
 小突かれた頭をさすりながら、黙々と進むセシリアさんの背中を追い続けた。



 通された部屋はやっぱり広かった。これでも個人の休憩室として作られた場所らしい。
 余った魔力でせっせと魔道具を作っていると、扉が勢いよく開かれた。
 現れたのは露出がほとんどない黒いドレスを身に纏ったレヴィさんだった。指には加護無しの指輪を嵌めている。
 その後から、メイド服のドーラさんとセシリアさんが入ってきた。
 ……何でドーラさんメイド服着てるんだろう?

「疲れたのですわ~……って、シズト! なんでいるのですわ!?」
「あれ、セシリアさんから聞いてない?」
「はい、レヴィア様の愚痴に付き合っているうちについてしまいました」
「愚痴、長い」
「仕方がないのですわ! どいつもこいつも、シズトの加護しか見てなくて腹が立ってくるのですわ! ちょっとくらい、この前の戦いがカッコよかったから、とか思っていれば少しくらい許せるのに、シズトに対して全然興味なさ過ぎてムカつくのですわー!!!」

 今にも地団太を踏みそうな程ご立腹のレヴィさん。
 それを気にした様子もなく、ドーラさんは僕があげたミスリル製の腕輪に魔力を流して、魔道具化した大きな盾を手元に転移させるとその手入れをし始めた。
 セシリアさんは紅茶の用意をしていて、ムキーッとハンカチを噛むんじゃないかと思うほど顔が真っ赤のレヴィさんを放置していた。
 僕がセシリアさんをじっと見ていると、彼女は肩をすくめる。

「世界樹の件が知れ渡ってから、たまにこんな感じになりますので」
「昨日、戦闘でも使える加護があると明らかになった。猶更こうなって当然」
「今まで見向きもされてこなかった加護だからな、希少価値は高すぎるんだよな。世界樹を育てられる加護だけでも注目を集めてただろうに。王族に対する多少の無礼をしてでも求めるのも仕方ねぇわ」
「そうね。一部の商人は魔道具に目を付けているみたいよ。ホムラちゃんが叩き出していたのを見たわ」
「……よく分かんないけど、レヴィさんごめんね。貴族の相手は絶対やらかすから今後も大変な思いさせちゃうかも」

 なんか皆、レヴィさんに起きている事が簡単に想像できるらしい。
 まあ、便利さは見せつけちゃったから仕事の依頼とかたくさん舞い込んでいるのかな。
 そう考えていると、レヴィさんは表情をすぐに整えて、にっこりと僕に微笑んだ。それから、僕の正面に腰を下ろした。

「このくらい、どうって事ないのですわ。ちょっと想定よりも多すぎたからつい本音が出てしまったのですわ!」
「断るの無理そうだったら、会うくらいだったらするからね?」
「……そうですわね、ある程度相手の情報を整理してから伝えようと思っていたのですけれど、先に言っとくのですわ」

 レヴィさんが、スッと姿勢を正して、心を切り替えるためにか、深呼吸をした。
 それから指に嵌めている加護無しの指輪を指でなぞりながら、真剣な表情でまっすぐに見てくる。

「ドラゴニア国内に限らず、貴方に結婚の申し込みが来ているのですわ。それも、大量に」
「………はい?」
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