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第9章 加工をして生きていこう

155.事なかれ主義者は食べ過ぎた

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 ユウトさんとの勝負は、ジュリウスさんとの稽古の際に唯一有効だった作戦が上手くいって勝てました。結果的にうまくいって良かったけど、もう二度とやりたくない。
 その後の冒険者たちや奴隷、貴族による闘技大会は興味がなかったから観戦せずに、一足早く我が家に帰った。
 レヴィさんは大会の主催者として矢面に立っているため、ボビーさんとお仕事を続けているだろう。
 自室に戻ってベッドの上で寝転がり、伸びをしているとラオさんが呆れたように息を吐いた。

「初見殺しな戦い方だわな」
「まあね。ただ、今後は警戒されて今回みたいに上手くは行かないかなぁ」
「そうね。たくさんの人の前で加護を見せちゃったものね」
「まあ、そのおかげでプロス様を十分アピールできたからよかったかな。不安だったドワーフの人たちはドフリックさんが押さえてくれるみたいだし、最良の結果かも?」

 いやー、ドラン兵の制止を振り切って突撃してきたドワーフの集団を見た時は死を覚悟したね。顔がめっちゃ怖いんだもん。
 ルウさんに抱えられて逃げている時に、ドフリックさんが現れて万事休すかと思ったけど、ドフリックさんが一喝したら大人しくなったもんな、あの筋肉だるまたち。
 酒浸りで私生活はダメダメなドフリックさんだけど、ドワーフの中では結構偉い人みたいだし、マジで助かった。
 ただ、その代わりにドフリックさんが別館で住み込む事になっちゃったけど。まあ、空き部屋ばかりだからいいか。

「ファマ様はユグドラシルのエルフたちがしっかりと布教してくれるだろうから、ほっといても大丈夫だとは思うけど……エント様をどうするかだなぁ。やっぱり僕が作った魔道具をブランド化するのが無難かな?」
「そこら辺はアタシらじゃ分かんねぇよ」
「そうねー。シズトくんが作る魔道具は基本的に貴族相手の商売になると思うし、レヴィちゃんに聞くのが良いと思うわ」

 んー、レヴィさんかー。
 ゴロゴロとベッドの上を転がり始めると、ラオさんが呆れた様子で僕を見てくる。

「なんだ、まだ不貞腐れてんのか? この一週間、充分顎で使ったり、世話係を無しにしたりして好き勝手過ごしただろ? まあ今回はレヴィも独断で突っ走りすぎだったから気持ちは分かるけどよ」
「違いますー。それはもう謝ってもらったからおしまいにしたんですー。それにちゃんと好き勝手過ごさせて貰えましたし?」

 それとは別で、レヴィさんから告白された気がするのが問題だ。
 勝手に話を進められたことに対する抗議をしたり、謝罪を受け入れる代わりにお風呂には一人で入るとか諸々条件つけたり、ジュリウスさんに手玉に取られたりして忙しかったから返事してなかったけど。
 ……いや、そもそもあれは僕に対する告白ではないから、返事はしなくてもいいのでは?
 勝負に勝ったからレヴィさんを好きにできるらしい? けど、そういうのは良くないと思うから、今まで通り過ごす予定だ。でも、あの発言に何かしらアクションを起こすべきなのか……。

「ん~~~……」

 ゴロゴロゴロゴロとベッドを転がるが、どうするべきか分からなかった。



 とりあえず、夜ご飯からいつも通りに過ごしてみようと思ったけど、ホムラとユキの隣の席には誰も座っていない。レヴィさんとその護衛をしているドーラさんは未だに帰ってきていなかった。
 最近、レヴィさんとドーラさんが意図的に端っこの方で食べているようだったけど、先に座ってもらっていれば、ちゃんと前のように座ってくれるだろうと思ったんだけど……。

「お食事はいかがなさいましょう?」
「もう少し待とうかな」
「かしこまりました」

 狐人族のエミリーがぺこりと頭を下げて壁際まで歩いて行く。
 食堂の長机のお誕生日席から視線を巡らせると、右斜め前にいたホムラと目が合った。

「そういえば、新しい人はどう? えっと……なんて名前だっけ?」
「ボルドです、マスター。別館の方で魔道具を作らせてます。ノエルが作った手引き通りにはこなす事ができています」
「ただ、それがないと作れないみたいよ、ご主人様。だけど、廉価版を作るだけなら問題なさそうね」

 ホムラの正面に座っているユキがそう彼を評価した。
 まだ会った事がないからどんな人か良く分からないけど、どうやら極度の人見知りらしい。
 ダンジョンから出てきた魔道具を暴発させてしまって奴隷になった人だからちょっと不安だったけど、レヴィさんのお墨付きだったのでとりあえず使って様子を見ている。
 本人は鉱山送りにされなくてとても感謝してるらしいんだけど……。
 右側の一番奥に座って、魔動拡声器をじっと見ているノエルに視線を向ける。

「ノエルから見てどうだった? 手引きを渡すついでに説明はしたんでしょ?」
「んー、なんか暗そうな人っす。話してるのに目が合わないっす」

 視線をこちらに向ける事無く、ノエルが答えた。
 ホムラの視線が鋭くなってノエルをジトッと見る。
 これはお説教パターンだな。

「学習しねぇ奴だな」
「だってノエルちゃんだもの、仕方ないわ」

 ノエルの隣に座るラオさんが、魔力マシマシ飴を舐めながら横で作業に没頭しているノエルを見て、それからその背後に静かに立つホムラを見た。
 ラオさんの正面に座っているルウさんも、釣られてホムラを見ている。まあ、僕も見てるんだけど。
 僕たちが見守る中、謝罪しまくるノエルをホムラは引き摺って食堂から出て行ってしまった。
 ……まあ、その内戻ってくるでしょきっと。
 エミリーに紅茶を淹れてもらって、のんびりそれを飲んで皆が揃うのを待っていると、扉がノックされた。入ってきたのはモニカだった。

「レヴィア様から伝言を預かりました。今日は帰る事ができないそうです」
「何かあったの?」
「ファマリアに集まった貴族の相手をしているそうです。問題は特にないからシズト様は気にせず過ごしてほしい、との事でした」
「そっか……対応してくれてありがとう。エミリー、食事を始めたいからお願い」
「かしこまりました」

 ちょっと今は意識しすぎてるのを自覚しているのでホッとした。
 ただ、問題は解決してないんだよなぁ……。
 …………まあ、明日の僕が何とかしてくれるでしょ。
 気持ちを切り替えて、夜ご飯を食べた。
 何だかいつもよりも豪華な夜ご飯を残さず食べるのは大変だった。
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