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第9章 加工をして生きていこう

148.事なかれ主義者は歩いて町まで行ってみた

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 ドーラさんと一緒にノエルの部屋から出て、地下室の転移陣を使ってファマリアへと行くと、真っ白な毛玉が今日も出迎えてくれる。
 僕が転移してきても気にした様子もなく、呼吸に合わせて大きさが変わる真っ白な毛玉の正体はフェンリル。これでもすごい魔物だそうだ。ただ、最近はそのすごさを見ていないというか、丸い状態以外をほとんど見ないのでこれはもうクッションなのではないか、って思い始めてる。
 ……怖くてクッションになんてできやしないけど。

「シズト、来たのですわね! 準備はもうすぐ終わるのですわ!」
「あれ、今日はいつもの服じゃないの?」
「流石に顔見世の時にあの格好じゃない方が良いと思ったのですわ」
「なるほど」

 王族感がないもんね、あの服。まあ、レヴィさんが着たら元の顔立ちのせいか、纏う雰囲気のせいか分からないけど平民には見えないんだけどさ。
 レヴィさんは今日は真っ白なドレスを着ていた。胸元も肩も出ておらず、露出は少ないが体のシルエットがはっきりとわかるそのデザインのせいでどうしても胸に視線が行っちゃう。気を付けないと。
 腰回りはキュッと引き締まっていて、スカートは膝下まである。首元には僕があげた加護無しの指輪が紐を通されてネックレスとなっていた。
 レヴィさんは白い手袋をつけた手で僕の手を握ると、「早くいくのですわ!」と引っ張ってくる。
 うん、見た目が変わっても中身は変わってないわ。それでも普段と違ってドキドキするんですけどね!

「シズト、顔が赤いですけれど、熱でもあるのですわ?」
「大丈夫大丈夫。それよりも、町の視察がお昼過ぎからって指定されてたのはなんで?」
「シズトの作業が一通り終わるのが昼過ぎだから、って言うのももちろんあるのですわ。ただ、それ以外に、冒険者たちがお昼は少ないって言うのも理由の一つだと思うのですわ。今の時間は冒険者たちが町にほとんどいないから、町に残ってるのは駐屯兵か商人か奴隷くらいですわ」
「その奴隷って前に話してた奴隷?」
「そうですわね。全部シズトが主人の奴隷ですわ。他の町から住人を奪わないようにするためにはこれくらいしかないって話したはずですわ」
「うん、聞いてる。ちゃんとご飯あげてる?」
「そこら辺は直接見ればいいと思うのですわ。百聞は一見に如かず、ということわざが伝わっているのですわ」

 そりゃ見た方が早いか。
 そう思ってレヴィさんに手を引かれて歩く事数分で、ファマリーを囲う聖域の端っこに着いた。
 聖域の外側では近衛兵の人たちがアンデッドの駆除をしていた。ラオさんとルウさんもその集団に混じっている。町とファマリーの聖域の間に通路みたいな感じでも作ろうかな。町に行くたびに結界の外に出ないといけないのは面倒だし、不測の事態とか起きそうだし。

「もう少し待つのですわー。この格好じゃなければ私も魔石確保のために外に出るのですけれど、走り辛いから諦めるのですわ」
「その恰好じゃなくてもやめてください」
「セシリアは心配性ですわね。シズトの魔道具があるから私でも倒せるのですわ。それに、万が一の事があっても帰還の指輪で帰る事ができるのですわ」
「町までは歩きで行くの?」
「馬車も考えたのですわ。護衛という観点では馬車一択ですけれど、現状を正しく把握するためには歩いた方が分かりやすいと思ったのですわ。実際、町に行く前からコレですわ」
「そうだねぇ。町に行くたびにこれだとちょっと大変だもんね。道でも作るかぁ」

 嬉しいのかな、レヴィさんがガッツポーズをしていて、それを冷めた目でセシリアさんが見ていた。
 話をしている間にアンデッドの処理が終わったのか、ラオさんとルウさんがこちらに近づいてきていた。

「シズトくん、お姉ちゃん頑張ったわ~。何かご褒美が欲しいんだけどなぁ?」
「ご褒美……」
「ルウはその調子で町での護衛もやれ。シズトも甘やかさなくていい」
「ラオさんもお疲れ様。頑張ってくれてるし、何か欲しければ上げるけど……アダマンタイトの何かいる?」
「いらん。目に見える範囲のアンデッドは処理したけど、足元からいきなり出てくる可能性もあるから、さっさと歩けよ」
「はーい」

 煌びやかな揃いの鎧を身に着けた近衛兵たちに周囲を守られながら早足で歩く。
 近衛兵が戦っている所を初めてみたかもしれない。いや、初めてではないかも? なんてどうでもいい事を考えながらしばらく歩いて思った。やっぱり申し訳ないし聖域の魔道具作ろう。
 アダマンタイトの加工の練習はしばらくお預けだな。
 今回は無事に町まで着く事ができたけど、やっぱりいきなり足元からニョキッと手が生えてくるのはびっくりするしね。

「驚いたシズトも可愛かったのですわ」
「レヴィさんは全然驚かなかったよね。二人の間に生えて来たのに」

 落ち着いて神聖ライトの光を当てる姿を見て護衛なんていらないんじゃないかと思ったほどだ。
 レヴィさんは、胸を張って誇らしげだ。

「アンデッド退治だったら慣れてるのですわ。魔石集めでいつもしているのですわ」
「それはそれで王女としてどうなんすか」
「私を見られても困ります。止めても止まらない方なので。以前まではいう事を聞く素直な子でしたのに……」
「……お疲れ様です」

 目元に手を当ててウソ泣きをしているセシリアさんを、今度はレヴィさんが冷めた目で見ていた。
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