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第9章 加工をして生きていこう

135.事なかれ主義者は口を滑らす

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 ドフリックさんが作った剣と、僕が作った物を比べた翌日。
 朝食を食べている時に、モニカからドフリックさんがやってきたと言われたので、応接室で待って貰うように伝えた。
 ホムラが「追い払いましょうか、マスター?」と聞いてきたけど丁重にお断りしておく。
 昨日、話の途中で態度が変わっていったのが分かった。
 以前までの態度のままだったら話し合っても意味がないと思ったから追い返していたかもしれないけど、今は少し話を聞いてみてもいいかな、なんて思う。
 レヴィさんが僕を見ていたが、僕と視線が合うと食事を再開してしまった。

「ドフリックさんの話をしてから、ファマリーの世話に行こうかなって思うんだけど皆はどうするの?」
「アタシらはファマリーの居住区の警備頼まれててな」
「ベラちゃんったら人使い荒いのよねぇ」
「お前の護衛はドーラに任せる」
「ん」
「ああ、だからドーラさん鎧着てるんだ」
「そう」

 部屋の中で着る意味あるのかな、とか思ったけど着るの大変そうだし、そこら辺が理由なのかな。
 ……着脱が簡単になるように付与とかしちゃう?

「……また変な事考えてそうな顔だな」
「失敬な。簡単に防具を装備できる方法を考えてただけだよ」
「必要ない。それより水晶玉作って」

 あ、そう?
 嘘発見水晶の納入依頼はラグナさん関係なのかな。それならそうと言ってくれれば早めに作ったのに。良くして貰ってるんだし、ちゃんと協力するんだけど、こっちに迷惑が掛からないように配慮してくれてるのかな。

「それなら水晶玉をちょっと買ってこないとね」
「それならもう入手済みよ、ご主人様」
「ありがと、ユキ。二人は今日もサイレンス?」
「そうよ、ご主人様。開店当初と比べると落ち着いているけれど、それでも継続的に来る子たちがいるから」
「そっか。レヴィさんたちは? ファマリーの作物の手入れ?」

 にしては、服装がいつもと違って豪華なドレスなんだよね。
 青いドレスはふんわりとスカートが広がっていて、肩が丸だしだ。これってずり落ちないのかな?
 こぼれるんじゃないかって思う程膨らんでいる胸が寄せられてできている谷間に視線が行き過ぎないように気を付けつつ、レヴィさんの顔を見る。
 うっすらと化粧もしていて、端正な顔立ちがさらに魅力的になっていた。

「お父様に同席するように言われている野暮用があるのですわ。サクッと終わらせる事ができたらいいのですけれど、今後のファマリー周辺に関わる事だから手を抜く事は出来ないのですわ」
「私はレヴィア様の侍女ですので、レヴィア様について行きます」

 ですよね。
 レヴィさんの側に控えていたセシリアさんが淡々と当然の事を述べた。
 最近僕のお世話もし始めてるから勘違いしそうになるけど、この人はレヴィさんの侍女だった。
 みんなの予定をだいたい確認したし、朝ご飯も食べ終わった。
 待たせているドフリックさんの所に行こう、と立ち上がりかけた時、クーがすぐ近くに転移してきて驚いた。

「お兄ちゃん、しつこいドワーフ追い出しといたよ。労ってー」
「……はい?」



 クーがドフリックさんの気配を察知して自室から応接室に飛び、その部屋にいたドフリックさんを問答無用で転移させちゃったらしい。

「だってお兄ちゃん、毎日来られると困るって言ってたでしょ?」
「そうなんだけどね? ほら、嫌な事はさっさと終わらせたいし、向こうの要求とどれだけこちらの要望を聞くかを確認してから判断しようかな、って思い直したところだったから。そういうわけだから、今度から応接室にいる人を勝手にどこかに飛ばしちゃだめだよ」
「えーーー」
「えー、じゃありません。それで?」
「?」
「ドフリックさんをどこに飛ばしたの?」
「さあ?」
「さあって……」
「ドランのどこかじゃない? 肥溜めとか、下水道とか、魔物の解体小屋とか」
「……今度から飛ばす人は街の門の近くに転移させてね」
「えーーー」

 動きたくないのに働く原因を作った者に、憂さ晴らしをするつもりで嫌な気分になる場所をピックアップして適当に飛ばしているらしい。
 まだユグドラシルとか、不毛の大地のどこかとかじゃないだけましだけど……。
 今後、貴族や偉い人を勝手に飛ばされると困るので、念入りに釘を刺して置いた。
 今回は褒めないし、抱っこもなし! コアラも駄目!
 ドフリックさんに謝るついでに迎えに行って!



 ファマリーで祈りを捧げていると、クーがドフリックさんと小柄な女の子を連れて転移してきた。
 下水道を彷徨っていたらしく、ちょっと臭う。
 転移されて連れて来られた時は、クーの腕を振りほどいてご立腹な様子だったが、僕の方を見て、それからその背後を見てぽかんと口を開けた。
 どうしたのか分からないけど、とりあえず謝っとこ。

「ウチの子がすみません」
「……世界樹? ユグドラシル……じゃないな、どこじゃここ?」
「あれ、リヴァイさんかラグナさんから聞いてないですか? 不毛の大地に植えた世界樹ファマリーですよ」
「そうか……そのファマリーの根元に、なぜシズトがいるんじゃ?」
「え、世話をするためですけど?」
「……世界樹の世話? エルフ共しかできないじゃろ?」

 いや、首を傾げられても困るんですけど。
 小柄な女の子を見ると、彼女はため息をついて、ドフリックさんをツンツンと突いた。

「パパン、公爵様と国王陛下の話ちゃんと聞いてないからそうなる。初めてシズトさんと会った時も、国王陛下が世界樹の騒動で迷惑をかけられた彼の所に、詫びの品として希少金属が送られてくるかもしれないって話をしてた」
「そうだったかのう? ……そんな事より、親方と呼べ」
「パパンはこの通り、希少金属の事となると話をほとんど聞かない。ごめんなさい」
「親方と呼べと言っとるじゃろ」
「いえ、こちらこそドフリックさんと……そう言えば、名前聞いてなかったです」
「ドロミーはドロミー。ドフリックの娘」
「自己紹介ありがとうございます。前回色々あって聞きそびれちゃって……」
「構わない。ドロミーはパパンのお目付け役としているから、気にしないで」
「親方じゃ」

 ドロミーさん、平然と僕と会話してるけど親方さんの相手をしなくて大丈夫?
 あ、いつもの事なの。そうなの。

「それで、ドフリックさんは今日は何の御用で? アダマンタイトは現物が手に入ってから考えるつもりですし、ミスリルは自分で使うからあんまり渡せないですよ?」
「ミスリルなんぞ、武器や防具以外に何に使うんじゃ?」
「魔道具を作るんですよ。ミスリル製の」
「……お主、魔道具も作れるのか? 加護二つに魔法陣の研究もしておるとは幅広く活動しておるんじゃな」
「いえ、加護は三つですけど……リヴァイさんやラグナさんから聞いてないですか?」
「どうじゃろう。ワシは分からん」
「加護については世界樹以外聞いてない」

 おっとー、話してなかったパターンだった。
 てっきりあの二人には加護について全部知られてて、ドフリックさんに伝えてると思ったんだけど……どうしよう。
 コアラのように引っ付いてきたクーをそのままにしてしばらく考えたけど、どうしようもなかった。
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