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第6章 亡者の巣窟を探索して生きていこう

幕間の物語39.自称お姉ちゃんは空を駆ける

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 不毛の大地のドラン寄りにあるダンジョン『亡者の巣窟』の第三十階層を攻略中のルウたち。
 探索の途中で一夜を過ごした後、朝食を食べていた彼女たちだったが、ホムラがシズトに向けてヴァンパイアを倒すために使える魔道具がある、と言い出した。

「はい、夜眠っている間に作業をするのは現実的ではないです、マスター。ただ、丁度いい魔道具があります。マスターのご愛用のアレが」

 その発言で、シズト以外はすぐにピンときた様子だった。毎日使っている魔道具と言えばアレしかない。
 ただ、シズトはきょとん、としている。幼さの残る顔立ちの少年のそんな表情を堪能していたくて、すぐに答えを教えてあげたくなる気持ちを抑えつつ、ルウは話の流れを見守っていた。

「ああ、安眠カバーか」
「ああそれね。……愛用っていうか、無理矢理使わされてる気がするんだけどなぁ」

 ただ、そんなルウの心情を気づくわけもなく、ルウの姉であるラオが答えを言ってしまった。
 シズトは眉間に皺を寄せてうーん、と首を傾げているがそんな様子を気にも留めずに、紫色の瞳でまっすぐとラオを見てホムラが答える。

「その通りです。お昼寝用の物のように、時間帯を変えれば問題なく使う事ができるのではないかと思います」
「でも、あれって相手に触れてないと使えないじゃん? どうやるの?」
「そこは、ルウ様のお力に頼ろうかと思います」
「なるほど、そういう事ね。任せて!」

 シズトもルウの速さを思い出したようである。捕縛後はホムラとドーラで周囲の警戒をし、シズトが何かしらの魔道具を思い付けばそれを使い、特に有効な手立てが思い浮かばなければラオが奥の手を使う事となった。

(私も頑張っていいところを見せないとね!)

 霧に包まれていなくとも、速すぎてシズトには見えないのだが、やる気満々のルウを先頭に、建物から出ていくシズトたち。
 外に出ると霧が視界を覆うが、ルウは神経を研ぎ澄まして周囲の状況を探っていく。魔物の気配がするが、まだ襲ってこない。前日までと同様で、ある程度数が揃ってから仕掛けてくるのだろう。
 昨日は、ただ何もせずに待つのは癪だ、とラオが気配のする方へ向かったが、結局こちらから仕掛ける事はできなかった。
 やろうと思えばルウだけで仕掛ける事はできる。だが、魔物を待ち構え、連携して相手をした方が消耗を抑える事ができるのでやらなかった。
 お互いが見える範囲で進み、しばらく経つと一定数集まったのかグールが襲ってくる。
 ルウはドーラと連携して相手をしていた。自身だけが前に出過ぎる事は避け、ドーラが攻撃を受け止めたところでブーツに仕込まれた刃で首を刈り取る。魔法でコーティングされただけではなく、ルウ自身の青白い魔力を纏ったそれは、容易くグールの肉を切り裂く。
 ラオやドーラのように真っ正面から受け止める事はできないが、グール程度の速さでは彼女の体に傷一つつける事はできなかった。

「襲って来なかったわねー。ヴァンパイア、近くにいないのかしら?」
「探索するしかない」
「ちょっとホムラ、そうぽんぽんメイス投げないでよ」
「善処します、マスター」
「なんかその言い方信用できないんだけどなあ?」
「気を抜きすぎんなよ、探索中だぞ。魔道具で敵の位置がわかんねぇんだ。不意打ち食らわねぇように気をつけとけ。ほら、魔石取るから周り警戒しとけよ」

 警戒を解く事なく、周囲に視線を送っていたラオが解体用のナイフを使って、グールの魔石を取り出していく。
 自身が倒したグールの魔石は粉々に砕け散っていたが、首を刈り取られるか、叩きつぶされて倒されたものは無事、魔石を取り出す事ができた。
 拳ぐらいの大きさの魔石は禍々しい色をしていたが、ラオは気にした様子もなくシズトが背負っていたアイテムバッグの中に突っ込む。
 その後、休憩を挟みながら何度目かのグールの襲撃の時に、状況が変わった。

「ドーラ!」
「わかってる」

 頭上からの風魔法を青白い魔力を纏った大きな盾が受け止める。表面が削られるが、なんとか防ぎ切った時には、すでにルウは動き始めていた。
 魔力消費と肉体への反動が大きいため、多用ができない技で一気に攻め込むようだ。

「【韋駄天】」

 ルウの体全体を魔力が包み込み、さらに加速する。空を駆け、魔法が飛んできた方向に突っ込んだ。
 霧で見えづらい中、建物の屋上に人型の影が見える。ルウは空を蹴り、視認できる距離まで刹那の間に辿り着いた。
 人影は想定通り、ヴァンパイアだった。未だ、シズトたちがいた場所に向け、次の魔法を放とうとしている最中のようだ。
 ヴァンパイアの魔力の高まりが止まって感じられるほど思考も加速しているルウは後ろに回り込み、右手に持っていた安眠カバー付きの枕を押し付けた。安眠カバー自体がゆっくり輝き始めるが、ルウは止まらない。
 ヴァンパイアの頭に枕を押し付けつつ、自分の背丈よりも遥かに小さいそれを抱き上げ、屋上から飛び降りる。彼女が先ほどまで立っていた場所に魔法陣が浮かび上がり始めていた。
 ラオのすぐそばに着地するとヴァンパイアをその場に寝かせ、ついでに周りのグールの首を刈り取り、【韋駄天】を止める。

「早かったな」
「はあ……はあ…………まぁ、それほどでも、あるかな?」
 
 ドサッと同時に倒れ込んだ周囲のグールに驚いているシズトの様子を見て、「お姉ちゃん頑張ったわ」と、その場にへたり込んだままルウが言うと、シズトはにへらっと笑って「お疲れ様」と彼女を労った。
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