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第4章 助手と一緒に魔道具を作って生きていく。

幕間の物語24.辛党侍女は動じない

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 ドラゴニア王国の第一王女の侍女として幼い頃からセシリアはお世話するとともに相談にも乗っていた。
 心が読める王女を心無い言葉で傷付けたものがいれば、そっと彼女は彼女の両親に報告していた。何かあれば報告するように、と言われていたからでもあるが、大事な人が傷つけられて黙ってられるほど彼女は大人しくもなかった、という事もある。
 そんな彼女は今はメイド服を脱いで、冒険者の格好をしていた。
 理由は、王女様のダイエットの間に勇者の情報を集め、動向を探っておくためだった。
 ただ、二週間ほど経っても勇者の噂すら手に入らなかった。
 いや、勇者の話自体は手に入ったのだが、ドランの話ではなかった。

「神託で勇者がやってきている事は分かっているのですが……」

 そう疑問に感じつつ、個室がある宿で報告書を書き、明日冒険者ギルドと商人ギルドに渡す用意を済ませ、眠りについた。
 翌日も冒険者として紛れ込みながら活動をするが、結果は芳しくない。
 ただ、彼女はとある話が気になった。

「黒髪の男が魔道具を作って冒険者ギルドに納品しているらしい」
「手を出すのはやめとけ。その男はダンジョンで大量のゴブリンを一度の攻撃で戦闘不能にしたらしい」
「一瞬で武器を作り出す加護があるらしいぞ」
「領主が見張ってるから下手な事すると文字通り飛ぶぞ。首が」
「やっぱり最初に唾つけとけばよかったわ」

 等々、どうやら黒髪の男が少し前からドランに居ついているのは分かった。
 勇者と呼ばれていないのは気になったが、セシリアは接触の機会を窺う事にした。
 彼女は冒険者ギルドに入り浸り、黒髪の男を片っ端から声をかけて確認するが、どの人物も違った。
 そんな彼女の行動は当然、ギルドマスターに目を付けられる事になったのだが、身分を明かす事で問題はなくなった。
 セシリアはギルドマスターに例の冒険者について聞いてみたが、のらりくらりとかわされて要領を得なかった。



 状況が変わったのは二週間後。
 セシリアの主が驚くほど姿が変わって戻ってきてからだ。
 ただ、彼女は驚かなかった。

「ダイエット成功おめでとうございます」

 とだけ、言葉を発して、大きくなった胸部を見ても疑問を投げかける事もなく、王都から届いた返事に関する報告をした。

「どうやら、思い違いをしていたようです。異世界からの転移者は確かにドランにやってきています。ただ、戦闘に関する加護を持たず、勇者だと騒がれていなかったのでしょう」
「なるほど、分かったのですわ。私もちょっと早とちりをしていたのですわ。異世界からやってくる方々は皆、神々から強大な戦いに関する加護を賜っていた、という文献しか読んでいなかったのですわ」
「私の落ち度でもあります。それで、ドランに住み着いた異世界転移者の事ですが、『魔道具を作る』『武器を生成する』加護の持ち主なのだと思います」
「ん、魔道具ですわ??」
「ええ、何でも子どもたちがレンガを運ぶのに使っている浮遊台車と呼ばれるものを作り出したんだとか。すでにドラン公爵様が護衛を付けているようですので、話を聞きに行きましょう」
「んん? ドラン公爵、ですわ??」
「そうです。今は愛妾屋敷に寝泊まりしてるんじゃないか、って噂されてますね。あそこは冒険者が気軽に入れる場所ではないのでわかりませんが、髪がとても長い女性がそこから出入りしているから恐らくその地区のどこかにいるのだろう、という事でした」
「………」
「レヴィア様、どうかなさいましたか?」

 何やらうつむいて黙ってしまった主を心配そうに見つめるセシリア。
 そんな彼女を放っておいて、レヴィアは駆けだした。
 慌てて主人を追うセシリアだったが、ダイエットをしたレヴィアはとても足が速かった。
 長い距離を猛スピードで駆ける体力もついていた。
 以前の彼女とは比べるまでもなく、感無量の涙が出そうになったセシリアだったが、とにかく主に追いつく必要がある。
 彼女はしっかりと前を見据えて、先を行くレヴィアを追いかけ続けた。
 レヴィアは愛妾屋敷の一つである場所に突撃した。
 突然の事だったが、警備をしていた者たちに止められる事もなく屋敷に入って行く彼女に何とか食らいついて屋敷に入るセシリア。
 そして、ある部屋の扉を勢いよく開けたレヴィアが上げた声はとても大きく、セシリアにもしっかりと聞こえた。

「ちょっとシズト、貴方が異世界転移者って本当なのですわ!?」
「流石レヴィア様、すでに異世界転移者の方と面識があったのですね」

 セシリアは、そんな事を呟きつつ主の後ろで息を整える。
 そのついでに室内の様子を窺うと、何やら奴隷と髪の長い女性が言い争いをしていたかと思えば、もう一つの出口から奴隷を引き摺って髪の長い女性が出て行ってしまった。
 ここはしばらく様子を見よう、とセシリアは黒髪の少年たちとレヴィアのやり取りを見守る。
 話の流れからして、自分の主であるレヴィアの身分を黒髪の少年は知らないようだ、と判断して発言の許可を得てからレヴィアに身分を明かすようにセシリアは促した。

「そうでしたわ! まだ、自己紹介すらしてなかったのですわ! 私はレヴィア・フォン・ドラゴニア。ドラゴニア王国の第一王女なのですわ!」
「影響力大きすぎる人キターーーッ!!!」

 そんな叫び声と共に、とても驚いた様子の黒髪の少年、シズト。あどけない顔つきの彼は、目をまん丸に見開いてとても驚いている様子だった。



 そんな騒動の翌日、なぜか教会に呼び出されたシズトについていくレヴィアと共に教会に行くセシリア。
 そして祈りを捧げている時にそれは起きた。

「どこからそれを持ってきたのですわ? も、もしや……神様からの……」
「そのようですね。何の木でしょう?」
「きっと素晴らしいものに違いがないのですわ!」

 とても興奮しているレヴィアと対照的に、セシリアは全く動じる事はなく、なんて報告を書こう、とか何とか考えていたのだった。
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