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第2章 露天商をさせて生きていこう
幕間の物語5.全身鎧は魔道具を買い集める
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ドラゴニア王国の南に位置するダンジョン都市ドランにある『猫の目の宿』に宿泊している全身鎧を身につけた冒険者は、ある日いきなり冒険者ギルドに登録し、一気にランクを駆け上がっていった。
大地の神からは【軽量化】を、戦の神からは【怪力】の加護を授かり、華奢な体躯からは想像もできない大きさの鉄球をゴブリンキング騒動の時に投げていたのを、駆け出しの冒険者に目撃され陰で『剛力』等と言われている。
二つ名として定着するのも時間の問題なのだが、全身鎧を身にまとっていた華奢な少女、ドーラは特に気にした素振りもない。
冒険者などアウトオブ眼中なのだ。
彼女は今は新しく手に入れた魔道具を部屋の中で浮かせて、それに見入っていた。
繊細な細工のランプは宙に浮いていて、室内を明るく照らしている。
その灯りをめがけて暗闇から羽ばたいてきた鳥が、椅子の背もたれの部分にとまった。
「伝言を」
「くぇー」
やっぱり情けない鳴き声で鳴くのを聞いて、少女が話し始めた。
「対象が露天商を始めた。冒険にはしばらくでないという事で、パーティーの解散を申し出られたが、休養の間はソロ活動をする方向で話を付けた。今後も行動の把握と報告に努める。今日買ったのは自動探知地図と浮遊ランプ。自動探知地図は自動的に周辺の地図を作成し、その範囲内に魔力を発するものを表示する仕組みらしい。上空と地下のものには反応しなかった。魔法陣は複雑で複製は難しいと思われる」
ドーラは視線を自動探知地図から浮遊ランプに移して話を続ける。
「浮遊ランプは比較的魔法陣が読み取りやすい。複製はできるかもしれない。使用用途は限られそう。おわり」
ドーラが話を終えると鳥は暗い夜の空を領主の館に向けて飛んでいった。
翌日の昼前に、ドーラは荷物を抱えて部屋に戻ってきた。口には鉄の棒を咥えている。
部屋の中にはすでに鳥がいて、ドーラの持ってきたものをじっと見ていた。
「伝言を」
「くぇー」
「今日売っていたのは安眠カバー、魔力マシマシ飴、埃吸い吸い箱の3つ。魔力マシマシ飴は甘みを感じる変な魔道具。舐めただけで魔力が増えるわけではない。他の魔道具はこれから使うので明日報告する。おわり」
「くぇ」
ドーラは鳥が飛び去った後、埃吸い吸い箱を部屋の中央に置き、起動させた。
安眠カバーを枕につけて、試しに寝てみようと思い鎧をすべて脱ぎ捨て、鎖帷子もそこら辺に投げ捨てて横になる。
――しばらくしても何も起きない。
魔力を流してみるが、特に変化も起きない。
魔法陣が光っている事から、動いているようだが、ドーラには判断できなかった。
鎧を脱いでしまった事もあり、もう外に出る事も億劫に感じた彼女は、携帯食料をもそもそと食べながら読書に耽った。
夜になると鳥がやってきたが、彼女は起きる気配もなく、ベッドで横になっていた。
枕カバーの魔法陣が光っている。
鳥が彼女の枕元に着地しても起きない。嘴で軽く突いても起きない。羽根で鼻をくすぐっても微動だにしない。
鳥は枕元をうろうろしていたが、枕カバーに触れるとそのまま倒れこむように眠った。
翌日、鳥と同時に目が覚めた彼女は、髪をぼさぼさにしたであろう鳥を焼いて食べようかと真剣に考えていた。
ただ、不穏な気配を感じた鳥が窓から慌てて飛び去って、朝食は携帯食料になった。ただ、伝言もできなかったな、とドーラは思ったが特に急ぎではないので彼女は気にしなかった。
その日の昼前にまた部屋に戻ってきた彼女は手に持っていた紙束と、小脇に抱えていた鉄のボールを机の上に置く。
窓には鳥が遠巻きに彼女を見ていた。
「伝言を」
「……くぇー」
ちょっと離れた場所で鳥が返事をした。
ドーラも気にした様子もなく話し始める。
「今日は、前回ダンジョンに入った際に使っていたオートトレースが数枚と、ボールガイドを購入した。前回報告した通りの物なので特に話すことはない。……強いてあげれば、焼き鳥を食べたい」
「くえーーー!?」
鳥が慌てて逃げていった。
冗談だったのに、と呟いた彼女は携帯食料をもそもそと食べた。
その日は夕方まで特にすることもなかったので、日が暮れるまで街を歩いて回った。
日が暮れ、鳥が入ってこないように窓をしっかりと閉め、ベッドに横になるとすぐに眠りについたドーラ。
次の日の決められた時刻になるとすっきりと起きた。
鳥がコツコツコツコツと窓を叩いている。
窓を開け、鳥が中に入ってきたところで「報告を」と彼女が言うと、鳥も短く返事した。
「安眠カバーは日が暮れた後に使うと翌朝の既定の時間まで熟睡する魔道具だった。何をされても起きないので、悪用される恐れがある。また、歓楽街の件は承知した。しばらく対象と行動して問題が起きないか警戒する。おわり」
「くぇっ」
大地の神からは【軽量化】を、戦の神からは【怪力】の加護を授かり、華奢な体躯からは想像もできない大きさの鉄球をゴブリンキング騒動の時に投げていたのを、駆け出しの冒険者に目撃され陰で『剛力』等と言われている。
二つ名として定着するのも時間の問題なのだが、全身鎧を身にまとっていた華奢な少女、ドーラは特に気にした素振りもない。
冒険者などアウトオブ眼中なのだ。
彼女は今は新しく手に入れた魔道具を部屋の中で浮かせて、それに見入っていた。
繊細な細工のランプは宙に浮いていて、室内を明るく照らしている。
その灯りをめがけて暗闇から羽ばたいてきた鳥が、椅子の背もたれの部分にとまった。
「伝言を」
「くぇー」
やっぱり情けない鳴き声で鳴くのを聞いて、少女が話し始めた。
「対象が露天商を始めた。冒険にはしばらくでないという事で、パーティーの解散を申し出られたが、休養の間はソロ活動をする方向で話を付けた。今後も行動の把握と報告に努める。今日買ったのは自動探知地図と浮遊ランプ。自動探知地図は自動的に周辺の地図を作成し、その範囲内に魔力を発するものを表示する仕組みらしい。上空と地下のものには反応しなかった。魔法陣は複雑で複製は難しいと思われる」
ドーラは視線を自動探知地図から浮遊ランプに移して話を続ける。
「浮遊ランプは比較的魔法陣が読み取りやすい。複製はできるかもしれない。使用用途は限られそう。おわり」
ドーラが話を終えると鳥は暗い夜の空を領主の館に向けて飛んでいった。
翌日の昼前に、ドーラは荷物を抱えて部屋に戻ってきた。口には鉄の棒を咥えている。
部屋の中にはすでに鳥がいて、ドーラの持ってきたものをじっと見ていた。
「伝言を」
「くぇー」
「今日売っていたのは安眠カバー、魔力マシマシ飴、埃吸い吸い箱の3つ。魔力マシマシ飴は甘みを感じる変な魔道具。舐めただけで魔力が増えるわけではない。他の魔道具はこれから使うので明日報告する。おわり」
「くぇ」
ドーラは鳥が飛び去った後、埃吸い吸い箱を部屋の中央に置き、起動させた。
安眠カバーを枕につけて、試しに寝てみようと思い鎧をすべて脱ぎ捨て、鎖帷子もそこら辺に投げ捨てて横になる。
――しばらくしても何も起きない。
魔力を流してみるが、特に変化も起きない。
魔法陣が光っている事から、動いているようだが、ドーラには判断できなかった。
鎧を脱いでしまった事もあり、もう外に出る事も億劫に感じた彼女は、携帯食料をもそもそと食べながら読書に耽った。
夜になると鳥がやってきたが、彼女は起きる気配もなく、ベッドで横になっていた。
枕カバーの魔法陣が光っている。
鳥が彼女の枕元に着地しても起きない。嘴で軽く突いても起きない。羽根で鼻をくすぐっても微動だにしない。
鳥は枕元をうろうろしていたが、枕カバーに触れるとそのまま倒れこむように眠った。
翌日、鳥と同時に目が覚めた彼女は、髪をぼさぼさにしたであろう鳥を焼いて食べようかと真剣に考えていた。
ただ、不穏な気配を感じた鳥が窓から慌てて飛び去って、朝食は携帯食料になった。ただ、伝言もできなかったな、とドーラは思ったが特に急ぎではないので彼女は気にしなかった。
その日の昼前にまた部屋に戻ってきた彼女は手に持っていた紙束と、小脇に抱えていた鉄のボールを机の上に置く。
窓には鳥が遠巻きに彼女を見ていた。
「伝言を」
「……くぇー」
ちょっと離れた場所で鳥が返事をした。
ドーラも気にした様子もなく話し始める。
「今日は、前回ダンジョンに入った際に使っていたオートトレースが数枚と、ボールガイドを購入した。前回報告した通りの物なので特に話すことはない。……強いてあげれば、焼き鳥を食べたい」
「くえーーー!?」
鳥が慌てて逃げていった。
冗談だったのに、と呟いた彼女は携帯食料をもそもそと食べた。
その日は夕方まで特にすることもなかったので、日が暮れるまで街を歩いて回った。
日が暮れ、鳥が入ってこないように窓をしっかりと閉め、ベッドに横になるとすぐに眠りについたドーラ。
次の日の決められた時刻になるとすっきりと起きた。
鳥がコツコツコツコツと窓を叩いている。
窓を開け、鳥が中に入ってきたところで「報告を」と彼女が言うと、鳥も短く返事した。
「安眠カバーは日が暮れた後に使うと翌朝の既定の時間まで熟睡する魔道具だった。何をされても起きないので、悪用される恐れがある。また、歓楽街の件は承知した。しばらく対象と行動して問題が起きないか警戒する。おわり」
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