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2 屈辱を煽る ※

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 バレリアンが再びダリアの前に姿を現したのは数刻後。
 身を清め、汚れていた衣服を着替えたようだ。
 侍女がバレリアンに用意した着替えは、彼の普段着よりも上質な物である。
 まるで世間知らずの令嬢が、お気に入りの情夫を見つけた時の行動だ。
 ダリアは使用人たちが内心でそう思っているのだろうと小さく笑む。

 実際にそういう相手を作ったことはないけれど、社交界で噂になる貴婦人たちの情夫は、こうやって身なりから整えられ側に侍っているのだろう。

 バレリアンは着慣れないシャツに戸惑っているのか、困惑しつつも、緑の瞳は忙しなく室内を見渡している。

(大分心に余裕が出来たようね……)

 ダリアは咎めることもなくバレリアンの表情を楽しむ。
 明るい場所で見ると、透き通るような明るい緑の瞳だと思う。
 太陽の光に左右される植物の葉の色だ。陽の光を浴びれば美しい新緑の色。夜の闇の中では深緑色に変わる。

「お嬢様。どういたしましょうか」
「そうね……じゃあ、二人きりにしてもらおうかしら」

 ダリアの発言にバレリアンは身を強張らせた。動揺して表情が引き攣っている。

 もう彼の両隣に騎士はいない。彼の身も拘束されていない。
 大人しくキーラに連れて来られたが、逃げようと思えば出来たはずだ。
 しかし、彼はそれをしない。
 抵抗が無駄なことは既に理解出来ているようだ。
 たとえ情夫にされるのだとしても、耐えられると思っているのだろう。

 キーラは退室し、部屋の扉が閉じられた。
 直立不動のバレリアンと肘をついて長椅子に腰かけるダリア。
 静かな室内の空気を伝い、彼の緊張が伝わってくる気がした。

 ダリアは嘆息し、おもむろに立ち上がる。窓の外へ視線を向け、お気に入りの花壇を見下ろす。
 庭師たちが広い庭園を動き回っている。本来ならあの中の一人がバレリアンだった。
 もっとも彼は庭師見習いだが。

「バレリアン」

 ダリアに名を呼ばれ、彼は背筋を伸ばしてダリアを見つめ返す。

「この館に来てどれくらい経つのかしら?」
「あ……ええと、三か月と少しが過ぎました」
「そう。まだ三か月しか経っていない館で、随分と目立つことをしてしまったわね」

 ダリアは美麗な笑みを浮かべたまま、横目でバレリアンを捉える。

「運が悪かったわね。我がペンタス家は特に規律を重んじる家門なの。風紀が乱れることを極端に嫌うわ」

 ペンタス公爵家の使用人は一同優秀な者ばかりだ。
 もちろん彼のような見習いも多くいるが、そのうちに理解していく。
 見たもの聞いたものを口外したり、それらを自分なりに理解しようと思案することは、己の命を危険に晒す行為だということを。
 職務に忠実で主人に疑問を抱かず逆らわない。そんな者が重用される家門なのだ。

 国民は、王家と公爵家が特殊能力を持つことは知っている。しかし公爵家がどのような力を使うのかは知らない。
 恐ろしい仕事に従事している一族だと噂しているだけだ。
 代々ペンタス公爵家の人間は感情の変化が乏しい。冷徹な印象を抱くのも無理はない。

 ダリアはバレリアンの眼前に立ち、にっこりと微笑んで見せる。
 こんな近くで高位の令嬢に微笑まれることなどないだろう。バレリアンは分かりやすく動揺した。
 彼の頬に紅がさしたのは条件反射。

「じゃあ、バレリアン。一人でしてみせて」
「…………」

 バレリアンの瞳が大きく見開かれた。驚きで表情を固めている。
 意味が伝わらなかったのだろうか。
 ダリアは直球で言葉にしてみた。

「ここで、自慰をしてみてちょうだい」
「そっ、それは……!」

 青ざめているのか赤くなっているのか分かりにくい。
 バレリアンの顔色は面白いように変わり、瞳は瞬きを繰り返している。

「だって見られるのが好きなんでしょう? 外でしていたくらいですものね」
「む、無理です! 出来ません!」

 バレリアンはダリアから距離をとろうと後ろへ下がる。背にあたる壁の感触に彼は振り返ったが、すぐに眼前のダリアへ視線を戻した。

「お許しください! そんなこと出来ない!」
「どうして?」

 ダリアは可愛らしく首を傾げてみせる。バレリアンは唇を噛み締めたまま、言葉を紡ぐダリアを凝視している。

「屋外であれほど激しく情事に耽っていたじゃない」
「それとこれとは違います!」

 まだ言い返す気力があるらしい。

 まっすぐに見つめてくる無遠慮な緑の瞳。
 ダリアは表情を消した。バレリアンはぴくりと肩を震わせて口を閉じる。

(こうやって主人の気配を察することは出来るのに、それでも理不尽に声を上げることは止められないのね……)

 そんな実直さも嫌いではない。
 ただ、煩わしいけれど。
 ダリアは鷹揚に溜息をついた。片手を頬に当て、困ったように眉尻を下げてみせる。

「それなら仕方がないわね。一緒にあの女の情事でも見に行きましょうか」
「……あの女?」
「あら、貴方が必死に腰を振っていた相手よ。リナリーは貴方と違い素直に罰を受け入れたわ。あの女は小さな商家の娘だったの。だから縁談を用意してあげたわ。取引先としては申し分のない商家の男性で、歳は随分と離れていたけれど、商才はある方よ」

 バレリアンの唇が分かりやすく震え始めた。瞳は目玉が零れ落ちそうなくらいに見開かれている。

「商才はあるけれど人格は難ありなのよね。手酷い扱いを受けた女性が何人もいるそうなの。だから妻を娶ったら、きっと落ち着かれると思うのよ」
「なんてことを……」

 バレリアンの掠れた声がダリアの耳朶を打つ。

「ねえ、罰を受けるきっかけを作ったのはどちらなのかしら。外で股を開いたあの女? それとも貴方? リナリーは罰を受けたのに貴方は罰を拒絶するなんて、随分余裕だわ。それじゃあ、一緒に彼女が別の男に組み敷かれているところを見に行きましょう」
「…………っ!」
「わたくし、他人の情事を見るのは二度目だから楽しみだわ」

 バレリアンは唇を固く噛んで俯いた。顔は真っ赤だ。
 色々な感情が渦巻いているのだろう。
 ここで拒否したら、リナリーに害が及ぶかもしれない。家族の存在も知られているからには、そちらにも類が及ぶかもしれない。
 きっとダリアの機嫌さえ損ねなければ、そう思い至るはずだ。

 潤んだ新緑の瞳がこちらを見返した。
 その瞳には、はっきりと憎悪の色がみてとれる。

「跪きなさい」

 ダリアの声にバレリアンは力なく膝をついた。
 そして下衣を僅かに下げ、自らのものを取り出す。固さもなく何にも反応していないそれは、彼の手の中に柔らかく包まれる。

 ダリアはその行動をじっと見つめた。
 綺麗な肌だ。
 普段、太陽の光に晒されている腕などの部位は、健康的な色をして肌触りもそれほどよくなさそうなのに。
 服に覆われた部位は、日に焼けておらず陶器のように滑らかだ。

 柔らかい恥部を手に包み込み、彼は上下にしごき始める。
 バレリアンの顔を見ると、彼は羞恥を堪えるような表情を浮かべていたが、ダリアと視線が合い慌てて顔を背けてしまう。
 先程までは青い顔をしていたのに、今は耳まで真っ赤だ。
 さぞかし屈辱的だろう。

 中々固さを持たないそれから、ダリアは視線を逸らさない。貴族令嬢が平民である使用人の男の恥部を見つめるなんて、とんだ痴女だ。
 バレリアンもそう思っていそうだ。

「ねえ、きちんとこちらを見てやりなさい」
「……!」

 俯き跪いた男の頭上に、高圧的な命令がおちる。
 ダリアはいまだ顔を上げない彼の眼前に腰を下ろす。ドレスの裾がふうわりと床に膨らみ広がった。

 バレリアンは驚き顔を持ち上げる。
 互いの膝がつくほどの距離だ。
 ダリアはバレリアンの手の中にある、柔らかいままの彼自身を見やった。
 どう考えても興奮しないこの状況が原因だとは思うが、一体どのようなことで、バレリアンは興奮し欲を滾らせるのだろう。

 ダリアは熱い呼気を漏らした。自分の感情が彼に悟られないよう、小さく深呼吸を繰り返す。
 そして、ダリアの綺麗な細い指がバレリアンの股間に伸びた。
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