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灰汁抜きは料理の基本ですよね?

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今日のお話はある女の人から聞いた些細な些細なお話にございます。

外は凄まじい風が吹き荒れ庵慈の窓ガラスも風が吹く事に擦れるような音がする朝の事でした。

カランカラン

「いらっしゃいませ」

『すみません?コーヒーありますか?』

「はい、ホットもアイスも御座います」

そう言うと女性はホットコーヒーを頼みカウンターで一気に飲み干した。

『すみません?コーヒーもう一杯いただける?』

「はい、ただいま」

女性は随分疲れているように見え、案の定カウンターで寝てしまったのだ。

「おやおや?ねてしまいましたね?」

「ねちゃったね?」
ひょっこり顔を出したヨミはブランケットを女性にかけそのまま一時間程がすぎた。

女性はハッと目を覚まし時計を見た。

『あ、あのすみませんでした』

「いえいえ、構いません、どうせ朝は暇なので、お気になさらずに」

女性はコーヒー代を払いそそくさと帰っていった。

「せわしないね?」

「大人とはそういう、ものなんですよ」

ヨミは首を傾げた

「冥案さんは暇だから?大人じゃないの?」

「いやはや、まいりましたね」

それからたまに女性は庵慈に顔を出すようになったのだ。

『ヨミちゃんおはよ』

「お姉さんおはよー♪」

すっかりその頃にはヨミと女性は仲良くなっていた。

だが来る度になんだか顔色が悪くなっていっていたのだ。

「御客様?何か悩み事ですか?」

『マスターわかります?』

「ええ、最近は顔色が優れない様子ですので、気にはなっていたのですが」

『私ね、今深夜の仕事してるんだけどね、そこの仕事が大変でね、辞めようかとも思うんだけどさ、そこの上司が嫌で辞めるのが悔しくてね、ズルズル今に至るんだけどね、私の事、要らないとか辞めろとかって言うのよ』

「それはストレスが貯まりますでしょう?」

『でもね、それも今月一杯なんだ。私ね転職することに決めたんだ!そしてあの嫌な女の事会社の労働組合に訴えてやるの』

「それはそれは、ですが?ご無理が多々っているようですが?」

『辞めるとわかったら、いきなり休みもなく働かされちゃってさ、今休むとお金もヤバイしね、だから最後だし頑張ってるんだ、それに今は少しましかな?庵慈のマスターのコーヒー美味しいしね』

女性はそう言うとまたいつものように笑顔で帰っていった。

冥案は鳴らしたくないと思いながら鈴を手にした。

「冥案さん!やめて、ダメだよ、あのお姉さんはダメ、お願いだから」

「ヨミ、彼女にはもう時間がないのです、可哀想ですが、彼女の身体は既に限界なのです、彼女は今日眠れば目覚める事は無いでしょう、庵慈に来たのも何かの縁でしょう、責めて彼女が最後にいい夢を見られるように」

ちりりりん

「冥土の土産は此方で御用意させて頂きます。どうかよい眠りを」


そして女性が働いていた職場では、彼女が来ないと騒ぎになっていた。

『全く、近頃の子はこれだから嫌なんだよ』

文句を言いながらサボる女は彼女のテーブルを強く叩きまた文句を言いながら仕事に戻っていった。

そして女は久々の深夜で疲れはてていた。

『早く代わりの奴探さないと私が辛いわ、たく、あーやだやだ!』

女はウトウトしながら仕事の最中に寝てしまった。

ちりりりん、

「貴女は人の気持ちをもう少し知るべきです?少しせの悪い性格を治しましょう」

女が目を覚ますとそこはデカイ鍋の中だった!

『なによこれ!動けないし!誰か来てよ!誰かー』

「はーい!?どうされました?」

割烹着かっぽうぎをきた若い女性が現れたのだ。

『あんた早く出しなさい!訴えてやるから覚悟しなさいよ!』

「なら早く出るように致しましょう」

そう言うと女性が鍋の下の釜に薪をくめはじめたのだ

鍋の温度は一気にあがっていく!

『あ、熱い!お願いだから出して!熱い!出してよ!出しなさいよ』

だがそこに巨大な蓋が現れ鍋に被さったのだ。

鍋の中からはまだ声がするが?5分もせずに声はなりやんだ。

鍋の火は消えることなく一晩中燃やし続けられた。

そして朝になり火は消された。

鍋の中には既に人の形はなくグツグツと煮たったスープの中に大量の灰汁が浮き出ていた。

「どうでしたか?最後の深夜のお仕事は?」
冥案がそう言うと割烹着をきた女性が頭の手拭いをとり冥案に笑顔で答えた。

『やっぱり疲れますね。でも満足です、マスターありがとうございました、ヨミちゃんにもありがとうって伝えてくださいね』

そう言われ冥案は頷くと鈴を手にし、ゆっくりと鳴らしたのであった。

ちりりりん


「どんなにいい食材も灰汁が強く出るものがあります、旨く灰汁抜きをしなければ料理の味は台無しになるやも知れません、皆様も灰汁抜きをしっかりして下さいませ。それも多分料理の基本ですよね?」
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