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コボルト使いとゴブリンの王・・・3

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「クソ、クソ、クソ!
 何してるコボルトチャンピオン!
 早くオレを助ける!」

 自身が感じた事の無い恐怖からだろう、喉が裂けるのでは無いかと思う程の叫び声を放つスカッド。

 だが、そんな荒れ狂うスカッドの目の前に姿を現したのはコボルトチャンピオンでは無かった。
 そこに居たのは無表情で苛立ちの視線を向けるセイナであった。
 
「キングさん。まったく……こんな人にいつまで時間を使うつもりですか?」

 ムッとした口調で質問するセイナ。

「わかってる。そっちは大丈夫だったか?」 

 気遣うように声をかけるキング。
 先程まで、無表情だったのが嘘のようにセイナが少し嬉しそうに微笑む。
 囁かな日常の光景に見える最中、しかし、そんなやり取りに似つかわしく無い物が細いセイナの片手に握られていた。

 水晶に包まれた頭部、その天辺から伸びた長い髪の部分だけが持ち運ぶ為だけ露にされたコボルトチャンピオンの巨大な頭であった。

「長々と時間を使い過ぎです、予定が狂う前に急ぎましょう、キングさん」
「おう、とりあえず運ぶか……」

 キングは歩みを進めると振り上げた拳を全力で振り下ろした。
 先程まで騒いでいたスカッドの顔面に振り下ろされた拳、その瞬間、意識を失うスカッド。

 気絶した事を確認したキングはそのまま、担ぎ上げると無人の小屋へと歩き出す。
 その様子に呆れたように首を左右に動かすセイナの姿。

「予定を狂わせないでくださいね? 改めて言いますが、キングさんは、本当に要らない時間を使い過ぎだと感じます」

「分かってるが、オレが過去に生きていた世界には"因果応報いんがおうほう"って言葉や同じ感じに"悪因悪果あくいんあっか"ってのが有った」
「初めて聞きましたが? 何処の国の言葉ですか」

 不思議そうに質問する姿を見て軽く頷くキング。
 小屋に入り肩からスカッドを降ろす。

 冷たい井戸水がスカッドの顔面に掛けられる。
 慌てて目覚めるも、手足を拘束された状態で椅子に座らされており、室内は締め切られ陽の光すら入らない暗闇が広がる。
 唯一の光は、蝋燭の輝きであり、その弱々しく煌めく光のみが室内を照らしている。

 目覚めた事実に気がついたキングがスカッドに話し掛ける。

「さて、話しもらおうか、お前等は何だ?」

「……」

 単純な質問から開始されるが、スカッドは口を開こうとしない。

 それからも、幾つかの質問をされるがスカッドは無言のまま、余裕の表情を浮かべている。

「穏便に話したかったが、残念だ。なら、しゃあねえな」
 冷たく呟くと、キングは二体のゴブリンを召喚する。

 キングの背後に姿を現したゴブリン達は、互いに大きな鞄と布袋を持っており、「キシシシシ」っと不気味な笑みを浮かべている。

 蝋燭の輝きに照らされたニヤケ顔が不気味で仕方ない二体のゴブリンにキングが言葉を掛ける。

「情報を引き出せ、死なないなら何をしても構わない。スカッドって、言ったか? 同情するぞ……」

「お、おい! ふざけんなッ! コイツ等は、なんなんだ!」
「分かるだろ? 二人は、ゴブリンの拷問官だよ」

 キングは二体のゴブリンが拷問を専門にしている事実をスカッドに淡々と語る。
 そして、質問を開始する。

「お前の国は何処だ?」と、キングが質問を向ける。
「ぎゃあああ!」っと、スカッドの叫び声が室内にこだまする。

「おい、質問に答える前から、いきなり足を刺すな、質問にならねぇだろが?」

 スカッドの足の甲には、釘が一本打ち付けられており、スカッドは表情を歪め、歯を食いしばっている。

「まぁ、いいか、同じ質問だ。お前は何処の国の人間だ?」
「ハァハァ、オレは……傭兵の国、ユクトルからきた……」
「ユクトルか……まったく、嬢ちゃんが聞いたら喜ぶだろうな」
「嬢ちゃん? 喜ぶ? 何の話だ」

 スカッドが質問を口にした瞬間、両足に再度、激痛が駆け抜ける。

「ぎゃあああッ!」と叫び声が室内に響き渡り、スカッドの両足には釘が打ち込まれ、床板を貫く。

「……ゥゥ、ハァハァ、なんで魔物が、ゴブリンが、なんで人間の真似事してやがる!」

 そう口にしたスカッドにゴブリンの拷問官が次の釘を打ち付けようとした瞬間、キングが一度それを止める。

「魔物が……か、人間は良いようにしか考えないらしいな」
「どういう意味だ……ハァ、ハァ」
「なら、更に人間らしくするとしよう、ゴブリンプリースト召喚」

 キングは、ゴブリンプリーストを召喚すると「死なないように回復させろ」「気絶させるな」と、二つの指示を出す。

「他に関わってる国や仲間について全て教えろ」
「ハハハ、誰が……絶対に殺してやるからな、化け物が」

 スカッドの言葉にキングは軽く頷くと扉に向けて歩き出す。

「オレは外で待つ、喋る気になったら呼べ。わかったな」

 キングの言葉にゴブリン達が首を縦に振る。

 そして、小屋の扉が閉まると同時にスカッドにとって最悪の時間が動き出す。

 ゴブリンの拷問官からの激しい拷問、苦痛が全身を駆け巡り死を感じるも、死ぬ事を許さない回復、更に気を失う寸前で"異常回復"をされる度に意識が呼び戻されていく。

 無限にも感じられる苦痛と絶望の時──                 

 スカッドの精神が限界を迎えたのは、拷問が始まって、30分余りが過ぎようとした時だった。

 小屋からゴブリンプリーストがキングを呼ぶ。
 キングが室内に入ると床には数十枚の手足の爪が散らばり、無造作に放り出された爪の全てがゴブリンの拷問官が根元から引きちぎるように剥がした事実を無言で伝えていた。

「話す気になったか?」
「……なんでも話す、だから、殺してくれ」

 スカッドに最初の勢いは無く、爪が二枚残るのみとなった片足は本人の意思と関係なくガタガタと小刻みに振動している。

 キングはその様子を確認すると軽く頷く。

「お前から得られる情報等、既に、あの嬢ちゃんなら、把握しているだろう」
「……ハハハ、なら何が知りたいんだよ」
「貴様から知りたい情報など、最初から無いと言うのが正解だろうな」

「……なら、殺してくれ」と、下を向きながら、小さく声を出すスカッド。

「演技は辞めようや?」
「……なんの話だ」
「死を覚悟した奴が、全身の魔力を集中させるなんて有り得ねぇだろ?」

「……チッ、流石に隠す程、集中出来なかったか、だがな──」

 スカッドは、全身の魔力を体内に集中させる。
 腹部へと一箇所に集められた魔力、その瞬間、スカッドが笑みを浮かべる。

 全身を包み込むようにスカッドの体内から黒い霧が吹き出し渦巻いていく。

「お前達は外に出ろ。あとプリーストの加護を解除しろ」
 キングの指示に拷問官達が頷き、頭を下げてから慌てて小屋を出ていく。

 ゴブリンプリーストがスカッドに向けて慌てて両手を翳す。
 黒い渦の中で一瞬、光が人型に輝き消えていく、そんな渦の中から怒りに満ち溢れた低い声が発せられる。

「逃がさねぇぞッ! テメェ等だけは、絶対にオレ様の手で殺してやるからなァァッ!」

「怒り心頭だな、だが、お前は終わりだ。自分の身体をよく見てみろよ」

 そう言われた瞬間、スカッドを覆い尽くしていた黒い渦が次第に消え去っていく。
 黒い渦が消え、露になる姿、半分がコボルト化し、変化しきれなかった部分は肉が爛れて、骨や組織が露になってしまっている。

「何だ! なんだ、これは……イダィ……ガラダガ、アヅィ……」

 スカッドに起きている現状をキングは淡々と語っていく。

 ゴブリンプリーストの回復は、人間の使う回復魔法(スキル)や回復薬等とは違う。
 人間の回復や薬は、免疫力や自己治癒力を上げることで傷を塞ぎ、再生を促す事で回復する。

 ゴブリンプリーストの回復の場合は、強制細胞分裂と細胞増殖で傷や怪我を無理矢理元通りにする物だ。

 この二つの違いは免疫力等を高めるか、細胞増殖をさせるかだが、細胞増殖の方はその際、強制的に老化が起こる事になる。
 ゴブリンプリーストがこの回復魔法を発動する際、短命の通常ゴブリンならば、一部分の回復魔法にすら耐えられず死んでしまう。
 その為、ゴブリンプリーストになったゴブリンには、加護として《老化防止付与》が与えられる。
 この事実は人間や他の種族の鑑定にはシークレット扱いで鑑定不可扱いとなっている。
 ※通常ゴブリンの寿命は10日、長命で一年である。

 つまり、爪を一枚、二枚と復活する度に老化が一年以上蓄積されていく。

「お前は幾つの傷と、何枚の爪と何本の指を失い復活させられたんだろうな?」

「ア、ア、ア、うわァァ───」

 断末魔と共に喉が声に耐えられなくなり、吹き飛び、赤黒い内容物が吹き出す。

「お前みたいなクズに時間を使い過ぎたな、だが、外道には外道らしい死に様がある。
 この世界のダンジョン以上の奈落で罪を噛み締めろ」

 コボルトを使い残虐の限りを尽くし、欲望のままに生きた傭兵の国【ユクトル】のAランク傭兵であったスカッドとルマントの二人が小国ベルクに散ったのであった。
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