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ベルクの少女・・・1

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 ベルクでの事件の詳細から、私は二人に対して見つけた男と少女を私のもとに届けるように指示を出した。

 その為、予定になかったベルクへのゲートをレイコに開かせる事になった。
 距離的には近いが、本来はサザル公国に繋ぐ大型のゲートを開く為に準備をしていたので、余り喜べないのが実情だ。

 ゲートはあっさりと繋がり、ベルクからキングとセイナが鉱山で見つけた二人を私の待つ洋館へと連れてきた。

 両者をベッドが二つ置かれた部屋に移動させる。

 男は眼鏡を掛けた痩せ型で、鍛えてはいるのだろう、弱っているが服の上からでも、それが理解出来る。

 少女の方は幼く、聞いていたように腕輪にはベルクの王族が使うマークが刻まれており、同じように首飾りにもそれは刻まれている。

 小国ベルクについて、軽く調べさせたが、本筋の王族にこんな少女の存在はないのだ。

 唯一わかった事は、二代前の王に双子の兄が存在していた事、そして、王位を継いだのは、弟であった事実である。

 詳しいベルクの歴史や王族の血筋など、まったく興味がない。
 それに目の前に横たわる娘から直接聞けば済む話なのだ。

 私はテーブルの上で湯気をたてる紅茶を口に運び、予め呼んでいたセイレに回復魔法を掛けさせると静かに目覚めを待つ事にした。

 キングとセイナには再度ベルクに向かわせ、私はレイコに二人が目覚めたら連絡を頼み、その場をあとにした。

 私はクイーンを連れて自室に移動する。

「ねぇ、クイーン。侵略ってさ、思ってたより面倒くさいわ」

 私の発言に眉一つ動かさず、口を開くクイーン。

「ならば、全てを滅ぼしましょう! 悩まずにやりましょう!」

 本当にこの子達は、性格が違うのに三人揃ってこう言う意見は一致するんだから──

 クイーン、ラクネ、ホーネットの三人は私が少し悩めば、即座に破壊と破滅を世界に与えればいいと言う極論に至る。

 危なくて、軽はずみに怒りを爆発すら出来ないのだ。

「クイーン、私は魔力を注ぐから、警戒だけお願い」

「かしこまりました」と即座にクイーンはドアの方へと移動する。

 私の部屋に置かれた巨大な薄紫色の水晶、その中には一人の少女が静かに眠る様に閉じ込められている。

 少女の正体はエリナ・フィル・サザン──

 私が殺して手に入れた存在だ。
 何故、彼女が水晶の中にいるのか、誤解がない様に説明するなら、趣味や戦利品等の家具やコレクションの様な意味合いはない。

 魂ごと、水晶結界で無理矢理だが、覆ったに過ぎない。
 魔力を注ぎ、彼女を私の仲間として復活させたい。

 エリナと言う少女は家族からの期待が欲しかった──

 家族から必要とされたかった──
 
 自身も兄妹の様に愛されたかった──

 自分自身の存在を受け入れて欲しかった──

 そんな当たり前を欲した存在だった事は既に分かっている。

 【イザ】での戦闘も最後の最後まで奥の手を使わず、本当に敗北を理解して初めて全ての罪が自身に向くとしても家族から存在を認めて貰うために足掻いた存在だ。

 そんな健気な子を見捨てる気はない──

 何より、私がこの子を欲しいのだ。

「エリナ、あなたの願いは私が叶えてあげるわ……必ずあなたの存在をあのゴミ達に認めさせてあげるわ」

 水晶を見つめながら呟く私、その手から注がれる膨大な魔力が瞬く間に水晶に吸い込まれていく。

 一定の魔力を注ぎ終わり、一呼吸を置き、椅子に腰掛ける。
 クイーンは、静かに魔法で冷やしたアイスティーを私に手渡す。

「お疲れ様です。質問なのですが、この子は私達の姉妹のような存在になるのでしょうか?」

 珍しいわね、クイーンからそんな質問だなんて?

「そうね、あなた達の妹になるわね。優しくしてあげて欲しいものだわ」

「畏まりました」といつもの口調に戻るクイーン。

 そんなやり取りが終わり、アイスティーを飲み終わる頃、レイコから報告が入る。

『パンドラ様、御客人が目覚めました。只今、私の分身が対応しております』

『わかったわ。直ぐに向かうからそのまま対応してて』

『御意』

 レイコの報告を受けて、クイーンを連れて私は少女と男性が寝かされていた部屋に移動する。

 部屋の前に辿り着くと、レイコの分身が立っていた。

「お疲れ様。室内はどんな感じかしら?」

「はい、御飲み物等には口を付けず、警戒と逃げる為の思考を巡らせている様に見受けられます」

 レイコは頭を下げたまま、淡々とそう語った。

 軽く理解を示し、私は室内に入る。

 室内の椅子に座る少女と男性。

「初めまして、私がこの館の主、パンドラよ。あなた達の名前を聞かせて貰えるかしら?」

 黙ったままの二人に対して、室内で待機していた別のレイコの分身が口を開く。

「我等が主に対して挨拶も出来ないのですか!」と叱責する様に声を出す。

 再度、私の姿を確認した男は、即座に行動を起こした。

 目の前のテーブルに置かれた紅茶とケーキ、それに添えられていたフォークを即座に掴み、常人では反応出来ない程の速度でレイコの分身の背後に回り込み、首にフォークを突きつける。

「助けて頂き感謝する、図々しい話だが、このまま逃がしてもらいたい。さぁ、お嬢様、此方へ」と男は真剣な表情で私に向けて語り、少女へと視線を向ける。

 その瞬間、私は影を通して、少女の背後へと移動する。
 何も気づかない少女の背後から、首を通して少女の顎を撫でる。

「ヒッ」と、少女の身体がビクッと震えるのが分かる。

「可愛い首ね? 細くて綺麗よ。アナタ、名前は?」

 私は優しく質問を問い掛ける。

 震えながら少女は口を開く。

「わ、私は、ベ、ベルク・ルド・ミーナです」

 質問に少女が答えた姿を見て男が声をあげる。

「お嬢様! いけません!」

 動揺する男、そんな男に捕まったままのレイコの分身に対して私は軽く頷いてみせる。

「はい、かしこまりました」と、レイコの分身が返答すると、床に吸い込まれる様にレイコの分身が姿を消す。

 男が理解出来ずに、困惑する最中、私はニヤリと笑みを浮かべる。

「クイーン、殺したらダメよ?」

「了解です、即、捕まえるです」と、支持した瞬間、男の背後に回り込む。
 
 一瞬で男の腕を掴みあげると、床に頭から叩きつけて拘束する。

「見事なものね。怖い怖い、ふふ」

「褒められたのに、怖がられたです……うう」

「冗談よ。感謝してるわよクイーン」と微笑む私。
 そんな私の腕の中で小さく震える少女は、顔面が蒼白となっており、声を出さぬままに泣いている。

「何を泣いているのかしら? あなた達から仕掛けたんだから、わかってるわよね?」

 私の言葉に少女の表情が固まり、全身から血の気が引いていく。

 
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