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国・・・2

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 ケストア王国、改め、エルピスと改名して直ぐに、キングと同行させていたセイナか、念話が入る。
 セイナから私に連絡が入ると言うことは、上手く事が進んだからだろう。

 キングとセイナは、エルピス真横に存在する小さな鉱山都市を有する国。

 その名は、──小国ベルク──

 今回のサザル公国進軍の際に、食糧などを受け渡して賃金を受け取っていた事実がある。
 食糧だけならば、それ程、気に掛ける必要もなかっただろうが、同時に鉄などの資源も売り買いしている。
 つまり、未来的に考えれば、奪わない手は無い貴重な資源を有する国なのだ。

 しかし、ベルクはその豊かな資源と違い貧困に苦しむ国でもある。
 理由は、一部の上流階級のみが豊かになり、下の人間を生み出して、その富を吸い上げているからに他ならない。
 既にベルクの国民は限界に近い生活をしているのだから、私達が救いの手を刺し述べれば、小さな火の粉は燃え上がるだろう。

 その火の粉の役目をキングとセイナに任せたのだ。

 セイナの役割は、簡単に言えば、私の代わりだ。
 私が支配した地域ならば、ダンジョンと変わらない能力で戦闘が出来るのだが、支配地域を離れれば、地上のモンスターと変わらない程に弱体化されてしまう。
 悲しいがダンジョンモンスターの性だろう、魔素の濃いダンジョンで生まれたモンスターなのだから、仕方ないわ。

 でも、私の魔力で変化したセイナ達は、範囲は狭いが、私と同じ様に魔素を集め濃縮する事が出来る。
 キング達はベルクに居ながら、私の支配地域で戦闘するのと変わらないのだ。

 そんなセイナも、かなり強くなり、今では兵士等を躊躇無く始末するのだから、本当に驚かされるわ。

 擬人化を済ませ、ベルクに潜入したキングとセイナは、まずは、手始めとして、ベルクの治安の悪いエリアに向かう。
 ガレルで言う、スラム街だ。

 情報に裏の実力者と知りたい事は山程ある。
 スラム街の酒場に入る二人、すると直ぐにイチャモンを口にしながら絡んでくる奴が現れる。

「おい、見ない顔だな? こんなお嬢ちゃん連れて、酒場なんてよ」

「そうだよな、おい嬢ちゃん、こっちで俺らと酒を飲もうぜ、色々楽しんでから帰してやるからよ」

「あはは! 帰る頃には、帰りたくないって言うかもな、さぁ、来いよ」

 低俗にして、一番嫌いなタイプの人間だろう、本来情報を手に入れるのが目的のキングは苛立ちを我慢出来ず、相手を睨みつける。

「な、なんだ? やる気かよデカブツがッ!」
「俺達はデルトファミリーの人間だぞ!」

 そう口にした瞬間、店にいた他の客が視線を僅かに下に向ける。

 その仕草を確認するとキングに微笑みを浮かべて、セイナが立ち上がる。

「キングさん、大丈夫だから、安心してください」

 その言葉は冷たく、これから何をするか即座に分かるほど冷静な口調だった。

 男達がセイナの言葉にニヤリと笑うと腕を伸ばし、無理矢理セイナを連れて行こうとする。
 しかし、セイナの腕を掴んだ男が悲鳴と絶叫をあげる。

 セイナの腕から、水晶で出来た太い棘が現れ、掴んでいた男の手に大きな穴を開けたのだ。

「うわぁぁぁ、手が、手が!」と転げ回る男。

 そんなやり取りを目の当たりにして、キングが首を悩ましげに動かす。

「嬢ちゃんから、余り目立つなと言われていたんだがな……」

「キングさん、それは無理ですよ? キングさんが既に目立ってますから」

「はぁ……お前な、まぁいいか、やるなら徹底的にだからな!」

 酒場での喧嘩が始まり、一人が殴り飛ばされ、また誰かにぶつかり、殴り合いが始まる。
 絵に書いたような乱闘になるが、キングとセイナはそれを楽しむように襲い掛かる者を薙ぎ倒していく。

 最後には、二人以外の店にいた全員が壁際に項垂れており、店の主人は、カウンターから顔を出して、全てが終わった事を確認している。

 キングはそんな店の店主に向けて質問を口にする。

「店の分はコイツらにつけてくれるんだろうな?」

 怯えながらも、店主が無言で頷くと、キングは軽く頷き、セイナと共に店を後にする。

「キングさん、払わなくてよかったんですか?」

「いいんだよ。酒場の喧嘩は負けたヤツが払うのが決まりだ」

 そんな二人の背後から少し気弱そうな男が声を掛ける。

「おい、アンタら待ってくれ」

 振り向き頭をポリポリと指でかくキング。

「なんだ? さっきの奴らの仲間か」

「ち、違います……アナタ達は冒険者ですよね」

 周囲を気にする男の質問にセイナが場所を変えるように提案する。

 男は、冒険者ならば依頼をしたいと口にした。
 当然ながら、冒険者とは立場が違う為、最初はキングも断ろうと考えていた。

 しかし、依頼の内容を聞き、キングは即座に引き受ける事を決める。

 依頼の内容は、鉱山に住み着いたスライムやコボルト等の駆除だ。

 スライムはともかく、問題はコボルトだ。コボルトは鉱山を住処と決めると内部を掘り進み、集落を作り上げてしまい、近隣の鉱夫達の村がコボルト達に襲われているのだ。

「だが、それなら、俺達みたいな別の場所から来た冒険者よりも、ギルドなんかを頼る方が確実じゃないのか?」

「……お恥ずかしながら、ギルドは依頼料を受け取っても、動きません……成功、失敗に関わらず、依頼料は返還されないのです」

 ベルクの冒険者ギルドは、依頼料を返還しない為、腕がある冒険者ですら、それをカモとして、依頼料だけをくすねる事が増えていると語る男。

 無論、全ての冒険者がそうではない。
 しかし、信頼出来る冒険者程、直接の依頼は難しく高くなる為、依頼を通常に出すしかなかったのである。

「キングさんどうしますか?」
「お嬢ちゃんには、目立つなと言われたが、コボルトか、そんなのがいたら、後々厄介だしな」

「じゃあ、やるんですね」とキングの言葉に笑みを浮かべるセイナ。

「だな、やるか」と頷くキング。

 男は、涙を流すように喜び、自身の住む村に二人を招き入れた。

「既に、村から逃げた奴の家だから、好きに使ってください」と一件の民家をあてがわれる。

 しかし、この民家はゆっくり過ごす為の物ではない、夜中になると現れるコボルトを確認する為に用意させた物だ。

 案の定、月が雲に隠れたと同時にコボルトの大群が村に姿を現す。
 食糧を探して、村を徘徊していく。

 コボルト達は鼻が良いのでむき出しの食糧を村の中央にある広場に集め、それ等を持ち帰らせる事で朝までの安全を手に入れている状況であった。
 しかし、徘徊すると言う事実に、キングは焦りを感じていた。

「セイナ、奴らは俺達に気づくだろう。戦闘になるかもしれん」

「キングさん、此方から仕掛けますか?」

「仕掛けてもいいが……他の村人がどの家に居るかわからないんだ。今の段階で仕掛けるのは良くないだろうな」

 二人が小声で会話をしていると、三匹のコボルトが二人に与えられた家に向かって近づいていく。

 そして、扉を開こうと一匹のコボルトがドアノブに手を伸ばした。 

 
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