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命・・・1

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 私とエリナ・フィル・サザンの戦闘が終わった直後、空戦の底から、破損した甲板を睨みつける男、そこには、深手を負いながらも、生き残った片手の魔導士の姿があった。

「──姫殿下……くぅ、無念です」

 そんな男の無念な声を聞きつけたかのように兵士達が一斉に甲板に駆けつける。

 突如として駆け出したエリナ・フィル・サザンを探し船内を探していた彼等は甲板に辿り着いた瞬間、影に吸い込まれる姿を目の当たりにする。

 その瞬間、彼等は覚悟を決めたかのように剣を抜き、言葉を発する事無く切り掛る。

「いきなり切り掛るなんて、失礼じゃない?」と私が口にすると、怒りに満ちた彼等が口を開く。

「姫殿下は──こんな場所で死ぬべき方では無かったッ!」

「姫殿下の無念は我々がッ!」

 数名の兵士達は、一斉に切り掛る事で勝機を見出そうと考えたのだろう。

 死した姫殿下に忠義を尽くす姿は本当に素敵だと感じる──でも、それだけの話に過ぎない。

「──なら、貴方達も連れてってあげるわ、安心して死になさい──」

 それが彼等が聞いた最後の言葉であり、次の瞬間、彼等はその胸に刃が刻まれていた。

 エリナ・フィル・サザン同様に影へと、その場にいた者達が吸収されていく。

 生きる意味を最後まで悩まずに彼等は貫いたのだ、だから──私は彼等を受け入れた、一人の者への忠義を貫く事は簡単ではないと知っていたからこそ──

 それと同時に、超巨大空船の魔石に強力な魔力が撃ち込まれる。

 生き残っていた魔導士が、必死に集めた魔力を撃ち放ったのだ。

 既にその場に止まる事しか出来ない状態になっていた。

 本当はこの船が欲しかった、でも、この船に乗っていた者達は、私が考えるよりも、ずっと面白かった。
 
だから、このまま、返そうと思う。

「最後の手向けだ──最後は私から、船を守ったのだから、誇ってよいぞ」

 静かに私は、誘爆していく超巨大空船の甲板から大空に飛び立つ。

 次第に船内から光り輝き、魔力が放出されては破裂する様は、青空に広がる花火のようにすら見える。

 その輝きは、巨大な光の柱となり、天高く伸びて、数秒で塵になり消えていった。

 この瞬間、ケストア王国は、隣国 サザル公国からの、事実上の侵略を回避したと言える。

 サザル公国は、たった一日の戦場にて、自国最強としていたサザル大空船団の壊滅をその身に刻む事となったのである。

 その知らせは、即座にサザル公国の公王へと知らされる。
 多くの公国民が光の柱を遠目で確認しており、公王は国民の不満と不安の声と失った戦力の補填、多くの悩みを抱える結果となる。

 何より、ケストア王国からそのまま、敵勢力が進行してくるのではないか、そんな疑問と噂は、瞬く間に公国中に蔓延する。

 公王は即座に使者を立てる用意を大臣に命じる。

「まったく、ふざけた結果に成りおった。こんな簡単な命令一つ遂行出来ぬとは、我が娘とは、思えぬ役立たずめが」

 ガタンッ! っと、テーブルが強く叩かれる。

 公王は、一日で戦争にも成らず、大陸を手にする事を考え、その結果を疑わなかった。
 その為、今回の作戦に賛同した軍務大将と参謀等、多くの軍属の首が国民の為に処刑される結果となる。
 口止めと、国民への早い段階でのガス抜きと不穏分子が動かなくする為のパフォーマンスと言えるだろう。

  しかし、これはサザル公国内部の話であり、私からしたら、なんの関係もない話なのだ。

 ──関係ないといったのは、単純に既にサザル公国を赦す気など、微塵もないからだ。

 既に私は次の目的地に向けて、仲間達を向かわせているのだから。 

 早ければ、数日でサザル公国の街と言う街が炎に包まれるだろう。

 ──完全な闇ならば、怖がる事もなかっただろう、夜空の星の光と人々が光を求め灯す松明、そんな暗闇を照らす光こそが、本当の絶望を照らし出すのだから──

 そんな事を考えながらも、私は乱れたケストア国内に仲間達を散らばせた。

 元々、ガレルに集まった者達は他の街や村等にも交流があり、私が直接動くより、いい結果になると判断したからだ。

 ノリスJr.や、ルーズなんかがいい仕事をするだろう。

 その間、大鷲部隊の隊長であったクーリ・カアーンとその部下達が私に謁見したいと申し出ていると聞かされていた。

 内容は簡単だ、約束通り、私の軍門に下り、忠義を尽くすと言った内容だったわ。

 しかし、それだけでは無いみたいね?

 話を聞く為、私はケストア城の会議室に彼等を呼び出し話を聞くことに決めた。

 何故、会議室を選んだのか、クイーンが不思議そうに私を見つめたので、私はその理由を彼等が到着する前にクイーンに語る。

「私は、別に人間全てが嫌いではないのだよ、だから、私に忠義を誓う気持ちがあると、語る彼等の本心が知りたいのさ」

「本心ですか? 人間には損得しかないかと思うのです、最初のガレルに集めた連中や、襲ってきた冒険者達もそうですが、主様は優しすぎますです」

 クイーンは少し、心配そうに私を見つめている。

「そんな顔をしないでよ、今のガレルに集まった皆を見てみてよ。最初の不安も何もない、素直に私は家族だと思っているわ」

「──やはり、心配になるですよ」

 話が終わり掛けた頃、扉がノックされ、扉の外から尋ねるようにレイコの声がする。

「パンドラ様、クーリ様方を御連れ致しました」

「ありがとう、中に入ってもらって構わないわ」と、返答するとゆっくり扉が開かれる。

「失礼いたします」とレイコが入ってすぐに頭を下げると、それに続いてクーリ達も頭をさげる。

「まぁ、楽にかけて欲しい、話を聞こうじゃないか」

 クーリ達との話し合いが開始される。

 私は座れと命令するまで、ずっと立っていた数分は本当に笑ってしまいそうになったが、話し合いの内容は簡単な物だった。

 先ずはルーズ達の部隊に部下達を預けたいと言う内容、そして、クーリはエリナ・フィル・サザンの供養をサザル公国式にさせて欲しいと言う内容だったわ。

「そんな事? 別に構わないわよ」と、私が返事をすると、クーリは深く頭を下げた。

「戦場では、互いに命を賭けて戦う物であり、死んだ者には何も与えられない……そんな中で、感謝致します」

 詳しく聞けば、姫殿下であるエリナ・フィル・サザンは、ケストア王国以外にも小国等に戦闘に駆り出されており、その際には討ち取った相手を敵国式の供養でと貰っていたらしい。

 本当に、面白い子だったわね……記憶、そのままに復活させようかしら──

 絶対に次は死なないような、強い子にしてあげないとね。
 



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