上 下
93 / 118

戦場のケストア・・・1

しおりを挟む
「凄いわね? あんな船まで飛ばすなんて」

 私が大空に浮かぶ船を眺めながら呟くと、慌ただしくケストア国民達が駆け出して行く。

「終わりだ! ケストアは終わりだ!」
「サザル公国の大空船団が来るなんて」
「あんな量の"飛行石"を集めてたなんて、本当にケストアは終わりだ!」

 幾つかの逃げるケストア国民の会話に入っているワード"飛行石"に私はワクワクしていた。

 原物が見たいわね……その石だけで船が浮かぶとして、どれくらい使うのかしら?

 とりあえず、逃げる民衆から、適当にストップを掛けて、飛行石について質問をする。

「なんなんだよ! あれを見てわからないのか、早く逃げないと!」

「黙りなさい……飛行石について知りたいのよ」

 私は捕まえた男性の肩を掴み、力で地面に押し座らせる。

 大人しくなった男は、飛行石について早口で語る。

 "飛行石"

 本来は魔力を蓄えて発光するだけの鉱石であり、飛行石とは別名であり、本来は光石と言う。
 そんな光石は、自然と魔力を使い切ると輝きを失い単なる石のようになる。
 魔力を失った光石に無理矢理、魔力を注ぎ、魔力を閉じ込める為の術式を施した物が飛行石となり、閉じ込めた際の魔力量により浮かせる力が変化する。
 閉じ込められる魔力量は、石のサイズにより異なり、許容量を超えて魔力が注がれた場合、石は弾け飛び、封じられる筈の魔力が爆発する事もある。
 その為、特攻の際に光石を爆弾のように使用する戦闘方法も存在する。

 男は早口で語ると、立ち上がり、駆け出していく。

「アンタ達も早く逃げた方がいい、あれだけの大部隊なんだ、魔導士の数も相当なはずだ」

「心配、感謝するわ。ガレルに逃げなさい。アレは絶対に落ちないわよ」

「よく分からないが、ガレルだな!」

 男は再確認すると、ガレルに向かうように門から外に向けて掛けていく。

 飛行石か? 船も面白いし……直ぐに欲しいけど、先ずは目的を果たさないとよね……

 私達は足早に、王城に向けて歩みを進める。
 正面からは、私の部下となった多くの元ケストア騎士団の姿があり、バロ・ネトラの部下達と戦闘を開始する。
 本来の城攻めならば、かなり厄介であろうが、内戦状態の城内に外からの大部隊の支援が加わる形になれば、話は違ってくる。

 そんな大部隊の中に、私の信頼する家族を数名紛れ込ませれば、全て上手くいくだろう。

 ロアルとクロミを正面に配置してあるから、城門の突破は簡単だろう。
 私は、先に"影移動"であっさりと場内に侵入する。
 クイーン、ラクネ、ホーネットの三人には、船の行動を見張ってもらい、変な動きがあれば、即座に攻撃可能な状態にして待機させている。

 私に同行させたのは、ガスト&マリアとキングとなっている。
 クイーン達は最初、納得いかない様子だったが、ガスト&マリアやキングは空を飛べない、いざとなった際に戦力として考えれば当然な人選だと説明した。

 流石に空船団の存在を全て無視する訳にはいかないのだから、仕方ない話だろう。

 外が騒がしくなる最中、ケストア城内は、激しい内戦状態になっていた。
 反旗を翻し、野心を剥き出しにしたバロ・ネトラ、その一団は王の間に向かうにつれて、次第に残虐性を露にして行く。

 兵士の亡骸が増えていく最中、ケストア王国側は城内に配備された少ない護衛兵と守備兵のみとなっていた。

 バロ・ネトラは、馬鹿ではない。
 最初に王国側を潰しに掛かる為、別働隊を向かわせた先は、王国守備隊の兵舎であり、内部に忍ばせた裏切り者により、王国守備隊は、本来の仕事が出来ずにいた。
 その結果、一番近くに居ながら、ケストア王国側は、なすがままにバロ・ネトラの手のひらの上で踊らされる形になってしまっていた。

 そんなケストア城に向けて、大量の馬に跨った騎士と重装備に身を包んだ歩兵を乗せた荷馬車が駆け抜けて行く。

 荒々しく地鳴りを起こすように近づく騎士の存在、その旗印はバスコ・オルディの物である。
 それに気づき、仲間と勘違いしたのか、城の傍に建てられた王国守備隊の兵舎を外から襲撃していたバロ・ネトラの部下達は勝利を確信したのか、声を荒らげる。

「増援が来たぞッ! あれはバスコ・オルディの旗印だ!」
「あはは、これで勝利は確実だな。あれだけの部隊が王城に入れば、直ぐに王の首も取れるだろうさ」

 笑いながら、開かれた口、そこから発せられる大声が言葉となり、響き渡る。

 それと同時に、進軍していた騎士達が方向を変更し、王国守備隊の兵舎に向けて駆け出していく。

「なんだ? 此方に加勢か?」
「おーい! 此方は時間稼ぎだ。王の首が先だ!」

 そんな声が響き渡る最中、先頭を駆け抜ける一騎の騎士が、槍を天に掲げ、声を張り上げる。

「我々は、ケストア王国、ガレル所属、ノー・ルーズ戦騎隊並びに、重装騎士歩兵大隊であるッ!」

 僅かな沈黙、それから直ぐに怒号が放たれる。

「全隊ッ! 敵は正面、掛かれっ!」
「「「うおおぉぉ──ォォォオッ!」」」

 その瞬間、王国守備隊の兵舎を攻めていたバロ・ネトラの部下達は、理解する事になる。
 此方に向かう大部隊は、味方ではなく、敵である事実、それは勝利を目前にして、突如やってきた死神にすら見えた事だろう。

闘神の如く槍を振り回し、次々に仲間を貫く槍、それは絶対的勝利を覆す物であり、その後方から、更に槍を構えた騎士達が掛けてくる。

 王国守備隊の兵舎側でも、内部の戦闘に集中する事が可能となり、王国守備隊の兵士達が即座にケストア城へと向かう為に馬を用意する。

 そんな王国守備隊の指揮官は、ルーズの元に駆け寄る。

「ルーズッ! 良くぞ無事に」

「おぉ、ガドロフ殿、無事でしたか」

「あぁ、だが、守るばかりで、攻撃に遅れをとった。内部の裏切り者により、多くの新兵が殺られてしまった」

「ガドロフ殿、安心してくだされ。 我等が、ガレルの守り神がきっと仇をうってくれましょう」

 私の知らない所で勝手に守り神にされていたのは、後に知る事になるけど、実際にこのタイミングで私は、ケストア国王の座る王座の前に立って笑っていたわ。

 影の中を通り抜けて、あっさりとケストアの城に潜入した私は、国王に会う為に王の居るであろう最上階を目指して移動する。

 私の考えた通り、王座に深く悩むように腰掛ける老人と十数名の兵士の姿がそこにあったわ。

 私は満面の笑みで国王の前に姿を現す。

 突然、現れた私に対して、側近の兵達が慌てて槍を向けてくる。

「貴様ッ! 何者か! 突然姿を現した所を見ると、バロ・ネトラの手先か!」

 殺気が切先から溢れ出てると言うべきだろう、私を囲むように向けられる複数の槍にイライラしながらも、私は冷静に国王に対して、会話を開始する。

「私は、ガレルのパンドラ。敵じゃないわ……貴方を助けてあげようと思って来てあげたのよ?」

 私の発言に兵士達の苛立ちがハッキリと表情にでる。
 そんな状況の最中、下の階からは、バロ・ネトラ達による攻撃が激しく音を鳴らす。

 ケストア王国、国王は私を見つめると、力無く呟く。

「槍を下げよ。そして、そなた、パンドラと言ったな……何が望みだ……既に我が国は、終焉を迎える程に風前の灯となった。そんな国に何を望む?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

処理中です...