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命の価値・・・2

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 最初の一撃を全力と判断するならば、残り二発を数百の犠牲を覚悟に包囲し、相手を一気に捕縛もしくは、殲滅するのが正解だろう。
 しかし、金品等に支配されたバスコ・オルディの兵士と、簡単な戦いだからと参戦した貴族達が、自らの犠牲を良しとする訳がない。
 ひと握りのケストア軍の精鋭も意図せず、最初の一撃に巻き込まれ、吹き飛ばされていたのだ。

 バスコ・オルディは額から汗を足元に流す。
 顔は怖ばり、一つの選択が全ての絶望に変わる事を理解しているからだろう。

「わ、分かった。この場から我々は撤退する。更に他の二箇所から攻撃をしている二つの部隊にも、撤退するように命令をだす!見逃してくれ。 どうだ?」

 私を見ながら、震えながらも確りと条件を口にするバスコ・オルディ。

 笑顔で返答を口にする。

「ダメね、捕らえた捕虜の事もあるし、使った武器にしても、代償が足りないわ、どれだけ考えても、全然足りない……」

 この発言にバスコ・オルディは唇を軽く噛み切るように閉じると、再度口を開く。

「中に侵入した者達、つまり捕虜は返さなくて構わない。武器等に関しては、此方が持ち込んだ物をお渡しする。
 なんなら、この場にいる半数を奴隷として、差し出しても構わない、どうだ、悪くない話だろ?」

 話を聞いていた兵士達にざわめきが走るが、バスコ・オルディはそんな事を気にする様子は微塵もない。

 その姿にクスクスと笑いが込み上げ、私は残り二発を後方の安全地帯に移動していた貴族だけの部隊に向けて撃ち放つ。

 一瞬で後方部隊とそこに合流していた貴族部隊が消し飛ばされ、バスコ・オルディの表情は怒りと困惑に歪んでから、冷静な表情を取り戻す。

「半数を残すのよね? 早く選びなさい」と私が口にすると、小さくバスコ・オルディが頷く。

 当然だが残される兵士は、平民から上がった兵や、貴族と接点の無い者ばかりであり、逆に生き残る側には、バスコ・オルディ達に日々、忠義や命令に従う者、貴族と繋がりがある者ばかりであった。

 それは思ったよりも早く終わり、残される側には、後ろ腕に縄と言う、仲間だった事実が疑われる状態で座らされていた。

 しかし、此処でバスコ・オルディの考えに誤算が生まれたのだろう。
 その場に戻った複数の兵士がバスコ・オルディに耳打ちをする。

 私は蟲を使い、会話の内容を聴く。

「バスコ様、第一攻撃部隊は正面から交戦となり、重装兵団並びに、ルーズ隊長が敗北、ルーズ隊長に関しては、一騎討ちでの敗北です。
 その後、第一攻撃部隊は、撤退、後方待機をしていた部隊も全滅したものと思われます」

「バスコ様……此方からも、第二扉攻撃部隊であったファングの【黒狼】が敗北、ファング隊長も相手側、一人の老人に敗北したとの事です」

 その瞬間、バスコ・オルディは悩まずに即座にその場からの撤退に本腰をいれる。

「おい、残す者達の腕の縄を締め直せ、作戦は無しだ、掛かれ……」

 バスコ・オルディの言葉に複数の兵が縄の締め直しを次々に行う。

 残された兵士達にざわめきが走る。

「バスコ隊長! 何をするんです? 作戦は、作戦はどうするんですか!」

 その言葉に、縄を締め直す兵士が呟く。
「作戦は無しだ、すまないが死んでくれ」

「そんな……バスコ隊長! 話が、話が違うだろ! バスコ隊長!」

 至る所で上がる叫びに対して、バスコ・オルディは沈黙する。

 バスコ・オルディは半数と言いながら、半数に満たない人数を連れ帰還すると私に伝えてきた。
 連れ帰ると都合の悪い者も残らされたのだろう。

 約束通り、バスコ・オルディと選ばれた1万程の兵士達が移動する。

 私は約束通り、約半数の命をもって、今回の事を許す事とした。

 全てが終わり、キングとロアルがその場に直接報告する為に合流する。
 古い考えだけど、念話よりも直接報告を好むのは、男のさがなのかしら?

「キング、ロアル、皆に伝えて、捕虜の人数の再確認をお願いするわ。任せたわよ」

「うむ。わかった」
「偉大なる我が主よ。了解である」

 二人に新たな指示を出し、レイコが目覚めた事で、外に出れた三人を呼び出す。

「クイーン、ラクネ、ホーネット、分かるわね。ヤツらを始末してきて」

「主様。はいです」

「御館様の望むままに!」

「ご主人様、わかったよ~」

 私はバスコ・オルディ達に対して、側近の三名を向かわせる。

 その指示に従い、皆が私の側を離れると、フードからガマ爺が私に声を掛ける。

「ほんに、賑やかじゃのぉ、しかし、守りを全て向かわせるんは関心せんなぁ?」

 ガマ爺が少し渋い顔を浮かべる。
 そんなガマ爺に私は微笑み掛ける。

「私にはガマ爺がいるじゃない? それとも元最強の階層主も、肩書きだけになったの?」

「じゃかましい、ほんに、口の減らん奴じゃのぉ、それより、レイコん、腹ん中におる奴らはどうするんじゃい?」

 ガマ爺はイオル達について質問する。

「生かすわ。あれは承認になるからね」

 私はそう語ると、レイコの体内に移動する。
 体内では、全ての流れや行動が私の視界から内部に映されており、イオル達は困惑を隠せないまま、固まっていた。

「あら? 大人しくしてるじゃない。今なら話くらいは聞いてあげるわよ」

 私の姿に、イオル達が慌てて身構える。

 最初に口を開いのは、シーフのラムロである。

「くっ、マジかよ、罠には何の反応もないんだけどなぁ」

 気まずそうな表情が自身の罠の完成度を物語っている。

「ごめんなさいね。この場には直接来たの、貴方の仕掛けた罠の周りは通ってないわ」

 軽く微笑み、直ぐに本題に入る。

「イオル、貴方と仲間達が、今回参戦した理由と、他の者達には、幾つか、違いがあるのよ」

 私は違いについてを語る。
 1、金の為の略奪目的
 2、自身の力試しやスキルを最大に試す為
 3、力ある権利の命令に従った者達
 4、仁義の為にやむなく参戦した者達
 
「貴方達は、ガレルの領主であるデュバルを生きて捕らえて、逃がす為に参戦したのよね?」

 その言葉に、イオル達が驚きを露にする。
 当然だろう、自分達だけで決めた決意であり、誰にも話していない内容だったのだから。

「私はなんでも知ってるわ……私が始末したのは、殺しを楽しむ者や、犠牲者に対して、悪びれる事もない連中ばかりよ」

「自分を正当化する気か! 元を正せば、お前がデュバルを巻き込んだんだろうがッ!」

 イオルが怒りのままに、怒鳴り声を張り上げる。

 私は笑った、クスクスと、額に手を当て、片目でイオル達を見る。

「私は、ガレルが平和になれば良かったのよね? 腐った領主や、腐ったギルド、腐った貴族、笑わせるな……世間知らずが」

 私の言葉と雰囲気が変わった事実に身構えるイオル達。

「そうだ、いい物を聞かせてあげるわ」


 

 

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