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水路の悪夢・・・2

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 ホーネットの無邪気で残酷な笑みに、ジャミルの直感だろうか、腰に装備していたナイフを即座にホーネットに向けて投げ放つ。

 ナイフは、ザクッ! と、間違いなくホーネットの額に命中する。

 その光景に、ジャミルの部下達が声をあげて笑い出す、しかし、そんな笑い声は一瞬で消え去る。

 ホーネットの額と言うより、頭部に被られた道化師が被る鮮やかで、頭部から複数の鳥のくちばしが伸びたように見えるクラウンハットの中から姿を現していた虫がナイフをかじり、ホーネットの額には傷は存在していない。

 むしろ、ナイフを容赦なく噛み砕く禍々しい50センチはあろう百足の様な虫の姿に皆が嫌悪感すら感じただろう。

「ボクの可愛い蟲ちゃんにお菓子をくれるなんて、ありがとう~お返ししないとね」

 ジャミルが戦斧を構える。

「お前等ッ! 来るぞ! アレは化け物だ抜かるなよ!」

 一斉に得物を構える盗賊 獅子王 のメンバー達、ジャミルの額にはおびただしい汗が吹き出していた。

 ホーネットは両手を広げると、可愛らしいフリルの着いたカラフルな服を見せびらかす様にその場で回って見せる。

「さぁ、行くよ~アハハ」

 スカートの中や袖、帽子の内側から凄まじい数の蟲型のモンスターが飛び出し、それは突然巨大化して、本来の姿に戻っていく。

 当然だが、蟲型のモンスターは、通常の獣型のモンスターよりも遥かに強い。

 本来なら昆虫などは空気の濃度でサイズが決まる。
 普通の常識が存在しない世界の蟲型モンスターは、能力だけ見ても強いが更に頑丈なうえに、動きも速い。

 そんなモンスターが数十匹も一瞬で現れ戦闘になるのだから、可哀想にすら感じる。

 レイコの能力により、次々にホーネットの任された【玩具箱】にケストア軍や冒険者達が転送られて行く。

 ホーネットの任された【玩具箱】へ送られる者は、殺意のある者や、悪意のある者達になっている。
 つまり、此方を最初から殺しに来ている連中だ。

 なので、慈悲などいらない。単なる蟲の餌であり、ホーネットの玩具でしかないのだ。

 他のクイーンとラクネに任せた部屋は【修行の間(武技)】と【修行の間(魔道)】となっている。

 悪意のない冒険者や兵士達を転送する部屋になっている。

【修行の間(武技)】は、ラクネが任されており、ラクネに出血させる程度の傷をつければ、部屋から出られる。

 クイーンに任せた【修行の間(魔道)】も同じ内容になっていて、クイーンに魔法を三発、当てられればクリアとなる。

 言ってることは簡単だろう、しかし、それを現実にするのは、かなり難しいだろう。

 ラクネには物理耐性、斬撃耐性と基本的な耐性を多く有している。

 クイーンも同様に、魔法に対する耐性などを有している。

 今回、この三部屋に送られる者は、生き残れたとしてもトラウマだろう。

 ラクネ側の【修行の間(武技)】に既に数名の冒険者達が送られている。

 槍使い、両剣使い、格闘家、剣士……多くの冒険者達が送られ、彼等にはレイコの分身が話をしていく。

 残念ながら、ラクネの説明は説明になっていなかったからだ。

 そして、一人、一人がラクネに向かっていく。
 
 ルールは簡単で、ラクネに血を流させれば勝ちとなる。
 ラクネの一撃を食らったら、次の選手に交代する
 何回でも挑戦可能、自害可、回復可、と、言う内容であり、回復にはレイコの分身が動く事になる。

 最初は槍使いが、ラクネに鋭く研ぎ澄まされた槍で猛攻を仕掛けていく。

「ハアッ! ウラウラウラッ!」

 一般人ならば、目で先端を追う事すら不可能な槍捌きに周囲の冒険者達から歓喜の声が上がり始める。

「避けてばかりか! よくかわしているが、更に早くすれば、避けられまいッ!」

 更に槍が加速すると同時にラクネが落胆の表示を浮かべる。
 次の瞬間、ラクネがひじを槍使いの肋骨部分に直撃させる。

 ゴギンッ! 

 鈍く重々しい音が槍使いの内部から音を鳴らすあげる
 そこから、止まる事なく、ラクネは両手を前に突き出す。

「ガハッ……」

 ズガンッ! ラクネの一撃をくらい、槍使いが壁に吹き飛ばされる。
 その姿は、見るも無惨であり、冒険者達が皆、言葉を失うほどであった。

 槍使いは、プレート等で防御を高めていたのであろうが、肋骨部分は綺麗に衝撃で砕けており、両手からの一撃を食らった腹部はプレートが砕け、内部は裂かれた状態であり、背骨なども背中から半分飛び出している有り得ない状態だった。

「早く復活されてやらないと、そやつ、死んでしまうぞ? よいのか」

 ラクネの言葉にその場にいた冒険者達は、何も口に出来ず、拳を握る者、全身を震わせる者、思考を停止させた者、冷静に判断できる者など既に存在していなかった。

 勿論だが、この場にも回復等を得意とする者は少なからずいる事は、明らかなのだ。
 そうなる様に、レイコは指示を受けて振り分けたのだから。

 しかし、誰も動こうとはしなかった。
 皆が動かない理由は1つだろう、自身が回復出来ると知られれば、次に狙われる可能性があると考えるからだ。

「なんじゃ、薄情な奴ばかりか? まぁやゆい」

 ラクネは、槍使いの元に、即座に移動すると、槍使いの口に布を突っ込む。
 そして、回復させる為、腹部にめり込んだプレートを無理矢理引き剥がす。

「ガハッ!」っと、槍使いが血を吐き出し、腹部からも激しく出血する。

「少し我慢せよ。御館様より、簡単に殺すなと言われておるのでな。意識は失って構わん、いくぞ!」

 ポケットから取り出した液体の入った瓶、その封を乱暴に開くと、中の液体を槍使いの傷口にぶちまける。

「ぎゃあ!」

 傷口が塞がるのをニヤリと見つめるラクネは、静かに頷く。

「さぁ、第二回戦と行こうじゃないか!」

 そこからは、その場にいた全員が絶望を噛み締める結果になる。

 ラクネはその流れで、回復魔法が使える者を見つけ出すと、戦闘の最中に無理矢理回復をさせては、相手を砕きまた治すと言う絶望が繰り返されたのである。

 その戦闘から逃げる為、自害を選ぶ者、精神が崩壊して、動けなくなった者、大勢の犠牲者が出たなかで、生き残った回復役と心が壊れたが戦う意思が残っていた数人の冒険者が結果的にラクネの試練を通過したのだ。

 
 

 
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