上 下
83 / 118

黒狼団とノリスファミリー・・・3

しおりを挟む
 ファングの狂獣化は、黒狼団の士気を大幅に上げ、更にクロミ、ガストの能力を力で解除する程強力な存在へと変貌していた。

 ノリスファミリーも、現状を目の当たりにして、勝てるのかを不安に感じているのが表情からも理解できる程、状況は絶望的だった。

「うむ、仕方ない。我輩が相手をするとしよう、腕がなるのである」

 軽く笑みを浮かべたロアルはそう語ると上半身に纏っていた服を脱ぎ捨てる。

 老人とは思えぬ鍛え上げられた肉体が姿を現すと同時に、ロアル本人は、防壁の上から地面に飛び降りる。

「ガストさん、クロミさん、マリアさん、1度引いて頂きたいのである。すまないのだが、皆が居ては、怪我をさせてしまいかねないのである」

 マリアはロアルの言葉に不快感を示すように口を開き文句を口にする。

「何よ! パパは強いのよ! それを偉そうに、いーーーだッ!」

「やめないかマリア、ロアル様、すみません」

「うむ、構わないのである! 父とは強き者を指すのである! マリアさん。ガストさん、つまり貴方の御父上は強いのは事実である。
 しかし、次は我輩が戦う番なのでお願いしているのである」

 ロアルは、そう言うとマリアとガストに軽く微笑んで見せる。

 そのタイミングでクロミが、マリアとガストの手を引っ張る。

「さぁ、順番らしいから、いくよ。マジにあの爺ちゃんは、危ないからさ。ロアル爺ちゃんファイト(ハート)! あはは」

 少し、からかうようにクロミはロアルに笑みをつくり、2人を連れて防壁の上へとハイジャンプを繰り返して移動していく。

「うむ、見事なハイジャンプなのである。
 さて、此方も始めるとするとしようじゃないか!」

 ロアル1人が残った現状にファングが笑い出す。

「ガハハハハハッ! ジジイが1人残されやがった。ジジイ、命乞いや、交渉、なんだ受け付けてねぇぞ! お前等は俺様を怒らせたんだからなぁ!」

 ファングの言葉に黒狼団の団員達が下卑た笑みを浮かべ、得物を再度握り締める。

 正直馬鹿ね、ロアルにこんな連中が勝てる訳ないのに、全体を見渡せば、ケストア軍の中身はピンキリで、しかも、バランスが悪すぎるわね。

 私は、監視に使っている虫の視界から、戦況を把握していた。

 キングが相手していた重装騎士団はまだまともな部類だった。
 残念だったのは、指揮官の指示に従えない馬鹿な兵士が混じっていた事と、不思議なくらい練度に差があった事かしらね。

 どちらにしても、ケストア軍は正直、残念な感じに見えるわね。

 案の定、それは当たり前のように起こる。

 ロアルをバカにしていたファングは、狂獣化した強力な力を拳にすると力任せに振り下ろした。

「ガハハ! 潰れちまえジジイが!」

 しかし、そこからの展開はファングの予想しえない物であった。

 潰れると言う事態になる前段階で、ロアルは無傷にその場に立っていたのだ。

 地面には僅かに窪みが出来ており、それは間違いなく、攻撃がロアル自身にも当たっていた証明だった。

「な、なんで、潰れねぇんだよ!」

 怒りに任せて怒鳴り散らすファングに対して、ロアルはキッと視線を向けて口を開く。

「うむ。弱い、弱すぎるのである。デカいばかりの弱者であったとは、買い被りすぎてすまなかったのである」

「強がってんじゃねぇぞ! ウラっ! ウラっ! ウラっ!」

 次々に繰り出される拳に対して、ロアルは微動だにしない、むしろする必要がないのだろう。

 ファングの攻撃が終わるまでの間、ロアルは無言のまま、必死な表情を浮かべながら、拳をぶつけ続けるファングの姿を静かに見ていた。

「ハァハァ……ふざけんなッ! テメェ、なんなんだ! 何もんなんだよォ!」

「ふむ、よろしい。親切な我輩が分かりやすく、教えてやろう、よく聞くのである! 我輩はお前さんよりも強者なだけである」

「ふ、ふ、ふざけやがってッ! 俺の全力で吹き飛ばす!」

 ファングが、全身の筋肉を膨張させる。

「あははッ! 次はグシャグシャにしてやるぞ! ジジイ!」

「もうよい、弱すぎて話にならないのである。弱いだけならまだ良いが、躾のない駄犬は、我が主の描く未来に不要なのでな!」

 ロアルは自身の腕のみをアイアンボディ化させる。

 ファングの大振りな一撃を軽く回避した瞬間、アイアンボディ化させた腕を前に突き出す。

「ガハッ、痛てぇ、クソがッ! そんな攻撃でやられるかよ! このままぶっ潰してやるよ!」

「うむ、見せてやろう……真の絶望は内側からやってくると知るがよい"悪魔の苦痛ディアボリック・ディストレス"ッ!」

 ファングの腹部に突き刺さったロアルの腕から大量の泥が土石流のように流れ込む。

「な、なん! ぎゃあああ! 腹が体が、うわぁぁぁ!」

 ファングの絶望に満ちた絶叫が響くと同時に、口から大量の泥が吹き出し、ファングはその場に倒れ込むと微動だにせず、絶命する。

 ファングの受けた苦しみは、簡単には語れないだろう。
 一瞬で腹部から体内を貫くようにして、鋭い岩や砂利が押し寄せ、息すら出来ないままに内部からズタズタにされたのだ。

「さぁ、今からは駄犬狩りであるッ! 皆、仕事の時間であるぞッ!」

 ロアルの言葉に、防壁から一斉にノリスファミリー、クロミの影軍団、ガストの鎧軍団、マリアの植物モンスター軍団が黒狼団狩りを開始する。

 この瞬間、ケストア王国の狂気にして凶悪を極めたケストア軍の闇と言えた黒狼団は、この世界から消滅した。

 残るは、私の守る水路に向かっている集団のみになる。
 彼等は、他の二部隊が壊滅した事実を知らないだろう。
 可哀想だけど、手加減はしないつもりよ。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里
恋愛
祖父の借金を背負ったガルティア男爵家。現当主の娘エレオノーラは、たった一度、2歳の時にお城のパーティーに招かれた(らしい)その時第二王子のアレクシス様に見初められたが、本人は覚えのないまま年月は流れる。そしてある日突然王室から縁談が舞い込んだ。アレクシス様?私、全然覚えが無いのですが。恋愛・冒険・魔法・その他いろいろごった煮定食てんこ盛り。

D×DStrike〜俺と悪魔の反乱物語〜

藤沢 世界
ファンタジー
あなたの大切な人は誰ですか__ 現代を舞台に繰り広げられるファンタジー これは、心狂わせられた人々の物語。

妖の街で出会ったのは狐の少年でした

如月 りん
キャラ文芸
祖母の話で、妖の街へ行けると知った和葉。両親は事故で死に、親戚に引き取られるも空気扱い。学校にも馴染めず、ずっとひとり。秋分の日、彼女は誰にも知られることなく妖の街へーーー  耳と尻尾が生えていて、仮面をつけた 狐の少年、ロク。 職場の先輩で雪女のミズキさん。 雇い主で九尾の狐のナグモさん。 他にもさやざまな妖と出会い、 和葉の生活が一変する。 はじめてファンタジー小説を書きます。暖かい目で見てくれたら嬉しいです。

転移失敗!!此処は何処?僕は誰?

I&Rin
ファンタジー
 世界最強と誰もが認めるスキルの持ち主である父を持つ息子のリンはその血筋を色濃く受け継ぐ超エリートの能力者ではあるが、年齢幼く自己中心的な性格によって周りからの評判は最悪! そんな彼が限界突破を目指して月へと転移しようと試みるがその結果、失敗して別の惑星に転移してしまう そこから始まるリンの新たな世界を描いています。   1話あたり1000文字位にしています  基本的に金土日の3日間の正午にアップしていますので、よろしくお願い致します  68話からヒロイン的な存在のエルフ登場!  モチベーションが続く限りアップして行きますので、誤字脱字にいろいろなご意見と御指摘お願い致しますm(_ _)m

ひまじん
恋愛

処理中です...